「オレンジとブラック。炎と漆黒。怒りと誇り。1961年から1976年まで、インパルス・レコードはその象徴的なカラーを誇らしく掲げ、高らかに感嘆符を掲げ続けた。そのレコードの溝から響くサウンドは60年代の精神に満ち溢れ、当時の音楽的実験精神と政治的憤りを力強く体現していた」
アシュリー・カーンは著書『The House That Trane Built: The Story of Impulse Records』の冒頭で、このように記している。
ヴァリアス・アーティスト BLUE GIANT MOMENTUM at impulse!
Available to purchase from our US store.1960年、ABCパラマウントの進歩的なサブレーベルとしてインパルスを創設したのは、バージニア州出身のトランペット奏者からプロデューサーへ転身したクリード・テイラーであった。1956年にABCパラマウントへ入社した彼は、この新しいレーベルを、自らが「ジャズのニュー・ウエイヴ(新しい潮流)」と呼んだ音楽を体現する場にしようという構想を抱いていた。
レーベルはJ.J.ジョンソンとカイ・ウィンディングによる『ザ・グレート・カイ& J.J.』で幕を開けた。さらにレイ・チャールズやギル・エヴァンスといった巨匠たちの作品を、美しい見開きジャケット仕様で発表し、インパルスの礎を築いていった。その後、ジョン・コルトレーンと契約し『アフリカ・ブラス』を制作した後、テイラーはヴァーヴ・レコードへ移籍する。その後任として迎えられたのが、ブルックリン生まれの生粋のニューヨーカー、ボブ・シールであった。
ジョン・コルトレーン アフリカ/ブラス
Available to purchase from our US store.17歳で自らシグネチャー・レーベルを設立し、コールマン・ホーキンスやレスター・ヤングらの作品を手掛けていたボブ・シールは、ABCパラマウントの社内プロデューサーとなった後、インパルスの指揮を任されることになった。
ジョン・コルトレーン ― レーベルの方向性を決定付ける存在
シールがインパルスで最初の数年間に手掛けた作品には、ジョン・コルトレーンの「アラバマ」(『ライヴ・アット・バードランド』収録)、マックス・ローチの『パーカッション・ビター・スウィート』(「マン・フロム・サウス・アフリカ」、「プレイズ・フォー・マーター」を収録)、さらにシャーリー・スコット・トリオの『For Members Only』(「Marchin’ to Riverside」「Freedom Dance」を収録)など、社会的意識を色濃く反映した作品が並ぶ。しかし、インパルスを時代を象徴する革命的ジャズ・レーベルとして決定付けたのは、1965年のジョン・コルトレーンによる記念碑的作品『至上の愛』以降に発表された一連の録音であった。それらは混乱する時代に応答する音楽として、新たな世代の変革を求める人々の心を強く捉えたのである
アシュリー・カーンは『The House That Trane Built』の中で、「1960年代半ばになると、人種の壁を越えて、人々はその時代の怒りや抗議の声を宿した音楽を求めるようになった」と記している。そして、その新たな聴衆、さらには続く世代の人々が惹きつけられたのが、オレンジとブラックの背表紙を持つインパルスのアルバム群であった。
2018年、インパルスと契約したシャバカ・ハッチングスは、筆者に次のように語っている。「インパルスのLPは、演奏者たちが、自分たちが知っているものを超える何かを創り出そうとしているように聴こえた最初のレコードだった。彼らは非常に明確な美学を持つミュージシャンであり、当時自分たちが経験していたこと、そして周囲で起きていたことを、できる限り正確に描き出そうという探究心を持ってスタジオへ入っていたんだ」
ジョン・コルトレーンの後継者であるアーチー・シェップやアルバート・アイラーによる『ファイアー・ミュージック』に象徴されるような、スピリチュアルな高揚を伴うアヴァンギャルド作品から、アリス・コルトレーンの宇宙的超越性、さらにサン・ラのアフロ・フューチャリズムに至るまで、インパルスのアーティストたちは、それぞれ異なる方法で解放を追い求めてきた。しかし彼らを結びつけていたのは、音楽は不正義と闘うための武器であると同時に、人々に力を与え、変革をもたらす手段でもあるという信念であった。そしてその闘いは、今日もなお、インパルスに集う新しい世代のアーティストたちへと受け継がれている。
それではインパルスのカタログの中から、特に印象的な作品をいくつか紹介しよう。
アーチー・シェップ – 『ファイアー・ミュージック』(1965)
アーチー・シェップ ファイアー・ミュージック
Available to purchase from our US store.34人の死者を出したワッツ暴動、マルコムXの暗殺、そしてアラバマ州セルマからモンゴメリーへの自由行進。1965年は、公民権運動とブラック・パワー運動にとって歴史的な一年であった。そして同じ年、アーチー・シェップはインパルスで3作目となるLP『ファイアー・ミュージック』を発表した。ボブ・シールがプロデュースを手掛けたこの重要作には、マルコムXに捧げたスポークン・ワード作品「マルコム・マルコム・センパー・マルコム」が収録されている。カウンター・カルチャーやブラック・ナショナリズムと結び付いた怒れる闘士という評価を確立したシェップであるが、『ファイアー・ミュージック』は、彼が常に多面的な音楽家であったことを示している。その後も彼は暴動を題材とした作品を発表することになる。1972年の『アッティカ・ブルース』は、ニューヨーク州アッティカ刑務所で発生し、受刑者33名と職員10名が死亡した悪名高い暴動を題材とした、痛烈な社会批評であった。
アルバート・アイラー – 『ラブ・クライ』 (1968)
アルバート・アイラー ラヴ・クライ
Available to purchase from our US store.2018年、シャバカ・ハッチングスは筆者にこう語っている。「スピリチュアルとは意味を探求することであり、政治とは私たちの人生を支配するものである。当時は、世の中で起きていた出来事の中で、その二つはすべて一体となっていた」フリー・ジャズの演奏家たちの中でも、とりわけスピリチュアルな色彩を強く打ち出していたアルバート・アイラーは、自らの音楽を「真実」という言葉で語り、精神的な力とブラック・エクスペリエンスとを結び付けて考えていた。1967年7月21日に行われたジョン・コルトレーンの葬儀で演奏したタイトル曲「ラヴ・クライ」で幕を開ける本作は、ボブ・シールのプロデュースによるアイラーのインパルス第1作である。ミルフォード・グレイヴスのパーカッションとアイラー兄弟のホーンを原動力として、フリー・ジャズとマーチング・バンドの音楽を融合させ、「ユニヴァーサル・インディアンズ」のような楽曲において圧倒的な効果を生み出している。
アリス・コルトレーン – 『ジャーニー・イン・サッチダナンダ』 (1971)
アリス・コルトレーン / ジャーニー・イン・サッチダーナンダ
Available to purchase from our US store.フラーニャ・J・バークマンは、2010年の著書『Monument Eternal: The Music of Alice Coltrane』の中で次のように述べている。「ブラック・パワー運動は、一般にはアフリカ系アメリカ人の経済的自立や教育、さらには武装自衛といった政治的課題と結び付けて語られることが多い。しかし同時に、それはブラックネス(黒人性)を文化的理念として定義し、確立することにも関心を寄せていた。そしてその為には、新たな精神的基盤が必要であった」ボブ・シールの後任であるエド・ミシェルがプロデュースした『ジャーニー・イン・サッチダナンダ』も、他のアリス・コルトレーン作品と同様、直接的な政治的抗議というよりも、精神的・文化的な抵抗の叫びとして聴くことができる。しかし、その表現が持つ力強さは少しも劣るものではない。
サン・ラー – 『スペース・イズ・ザ・プレイス』(1973年)
サン・ラ スペース・イズ・ザ・プレイス
Available to purchase from our US store.映画『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』のある場面では、アンジェラ・デイヴィスやブラックパンサー党の指導者エルドリッジ・クリーヴァー、H・ラップ・ブラウン、ヒューイ・P・ニュートンの肖像で飾られた黒人青年センターへと観客は導かれる。そこでサン・ラーは若者たちに、自分は現実の存在ではなく、彼らと同じ様に人種や市民権によって構築された世界秩序の中には存在しない「神話」なのだと語る。同名のアルバム『スペース・イズ・ザ・プレイス』は、サン・ラーの世界へ足を踏み入れるための最良の入口である。彼は直接的な政治運動ではなく、「アストロ・ブラック神話(Astro-Black mythology)」を通じて解放への道を選び取ったのである。
サンズ・オブ・ケメット – 『ユア・クイーン・イズ・ア・レプタイル』(2018)
サンズ・オブ・ケメット ユア・クイーン・イズ・ア・レプタイル
Available to purchase from our US store.Naimレーベルから2枚の絶賛されたアルバムをリリースした後、サンズ・オブ・ケメットは2018年にインパルスと契約し、バンド・リーダーであるシャバカ・ハッチングスによる政治的メッセージを強く打ち出した作品群の第一弾となる本作を発表した。 アヴァンギャルド・ジャズ、ダブ・レゲエ、アフロビート、ソカを猛烈な勢いで融合させるサウンドの中で、ハッチングスはドラマーのセブ・ローチフォード、チューバ奏者テオン・クロス、そしてゲスト・ヴォーカリストのジョシュア・アイデヘンとコンゴ・ナッティと共に、「英国王室と政治制度に体現された白人家父長制、そしてそれらが象徴する、蔓延し制度化された人種差別に対する痛烈な告発」を展開したのである。
The Messthetics and James Brandon Lewis – 『Deface The Currency』(2026)
ザ・メステティックス&ジェームス・ブランドン・ルイス Deface The Currency
Available to purchase from our US store.ワシントンD.C.を拠点とするジャズ・パンク・トリオ、The Messthetics(Fugaziのベーシスト、ジョー・ラリー、ギタリストのアンソニー・ピログ、ドラマーのブレンダン・キャンティー)は、ニューヨークを拠点に精力的な活動を続けるテナー・サックス奏者ジェームス・ブランドン・ルイスとタッグを組み、2024年にインパルスから初のアルバムを発表した。それから2年後、150本を超えるライヴ活動を経て再びスタジオへ戻った彼らは、システムそのものへ向けた爆発的なジャズ・パンクによる攻撃をさらに研ぎ澄ませている。その熱量はタイトル曲「Deface The Currency」、そして不穏な題名を持つ「Serpent’s Tongue」において最も激しく燃え上がる。
Irreversible Entanglements – 『Protect Your Light』(2023)
IRREVERSIBLE ENTANGLEMENTS Protect Your Light
Available to purchase from our US store.シカゴの「解放志向のフリー・ジャズ・コレクティヴ」であるIrreversible Entanglementsは、サックス奏者キア・ニューリンガー、詩人カマエ・アイェワ(ステージ・ネーム:ムーア・マザー)、ベーシストのルーク・スチュワートが、「Musicians Against Police Brutality」のイベントで共演したことをきっかけに結成された。シカゴの「解放志向のフリー・ジャズ・コレクティヴ」であるイリヴァーシブル・エンタングルメンツは、サックス奏者キア・ニューリンガー、詩人カマエ・アイェワ(ステージ・ネーム:ムーア・マザー)、ベーシストのルーク・スチュワートが、「Musicians Against Police Brutality」のイベントで共演したことをきっかけに結成された。さらにシカゴの同レーベルから、闘争性に満ちたフリー・ジャズとスポークン・ワードによるスタジオ・アルバムを2作発表した後、彼らはインパルスと契約する。ヴァン・ゲルダー・スタジオで録音された2023年のインパルス第1作『Protect Your Light』には、それまでの作品にみなぎっていた怒りが少しも失われていない。「Our Land Back」や「Degrees of Freedom」のような剥き出しのプロテスト・ソングに、「Free Love」の祝祭的な高揚感、「Celestial Pathways」の深い哀悼が加わることで、本作は現代という時代に向けた、力強いメッセージ・ミュージックとして結実している。
アンディ・トーマスはロンドンを拠点とするライター。Straight No Chaser、Wax Poetics、We Jazz、Red Bull Music Academy、そしてBandcamp Dailyに定期的に寄稿している。また、Strut、Soul Jazz、Brownswood Recordingsの各レーベルのライナーノーツも執筆している。
