しかし、新作『Memory Bomb』では、その制作スタイルに大きな変化がある。今回はキーファーと同じように、演奏だけでなく作曲やプロデュースまで手掛けるタイプのミュージシャンを数多く迎え、彼らとの共同作業によって楽曲を作り上げている。参加しているのは、ネイト・スミス、シスコ・スワンク、ムーンチャイルドのアンバー・ナヴランら。それぞれが演奏家であると同時に、音楽そのものを組み立てるプロデューサー的な視点を持ったアーティストたちだ。

さらにアルバム全体のプロデュースも、キーファーひとりではなく、シボ、カートゥーンズとの3人で担当。いわば、複数の「プロデューサー型ミュージシャン」の感性が交差することで生まれた異色作と言えるだろう。

これまで自らの手の内で完結させることの多かったキーファーが、なぜ今回は制作のプロセスを他者に開いたのか。『Memory Bomb』で試みた新たなコラボレーションについて、キーファーに話を聞いた。

(取材通訳:丸山京子)

――まずはブルーノート・レコードとの契約おめでとうございます。どうやってブルーノートとの契約に至ったか、その経緯を教えてください。

ブルーノートは昔からずっとファンだった。ストーンズ・スロウから何枚かアルバムを出した4〜5年前かな。当時のマネージャーから、ドン・ウォズが僕の音楽を聴いてくれてて、気に入ってくれてるよと聞かされた。なので、そのことがいつも心のどこかにあって、いずれ何か一緒にできたらいいなとは思っていた。

 で、ストーンズ・スロウとの契約が終わり、インディペンデントになった時、僕の候補リストの筆頭がブルーノートだった。他のレーベルとも話はしたけど、どこよりも一番熱意を示してくれたのが彼らだった。それに僕はブルーノートの大ファン。だから、ある意味、理にかなっている契約だったんだ。

――ドンはあなたのどんなところを気に入っていると言ってましたか?

僕の音楽には「際立った作曲上のアイデンティティ(strong compositional identity)がある」とまさに、そんな言葉をかけてくれた。父親に話したら感激してくれたよ。それと、楽器へのアプローチ、音のタッチも気に入ってくれているんじゃないかと思う。僕は決して派手なプレイヤーじゃない。ものすごく早く弾いたり、アクロバティックなことをするタイプでもない。どちらかというと、繊細で巧みな演奏を心がけているので、そこを彼は感じとってくれたんじゃないかな。

――あなたのブルーノートからのデビュー・アルバム『Memory Bomb』のコンセプトを教えてください。

おかしな話なんだけど「友達を集めて、大勢の人とアルバムが作りたい」というのが、制作をスタートさせた一番のコンセプトだったんだ。これまでも、所々で友達に参加してもらうことはあった。1〜2曲でゲストに迎え、楽器を演奏してもらったり。でも今回は全曲を友達と一緒にやりたいと思ったんだ。

 というのも、これまで8枚くらいソロアルバム作ってきて、そのほとんどをほぼ一人の作業でやってきた。そろそろ新しいことに挑戦し、成長するべきなんじゃないか…そう感じたんだ。才能があって、僕とは違うスキルを持つ人たちと一緒にやれば、僕も、僕の音楽も成長するし、さらにいいものになる。そう仮説を立てたんだ。

 実際、仮説は正しかった。たくさん刺激を受けたし、結果には皆がすごく誇りを感じている。あくまでも制作のプロセスを考え、こういうアルバムにしたということ。とにかくゲストをたくさん迎えて、1枚のアルバムを作り、どこまで自分のサウンドが広がっていくのか、試してみよう、ってね。

――ここまでたくさん人を入れて作ったのは初めてだと。となると、作り方は今までと全く違ってたはずですよね?

そうだね。数年前に出した『When There’s Love Around』にも生演奏が多く入っていたけれど、今回のアルバムほどのコラボレーションでは作られていない。今回は16人近いゲストを迎えているよ。ボーカリスト、ラッパー、(サックス奏者の)ウォルター・スミスⅢ、ネイト・スミスなどなど… プロデュース業も今回は僕一人ではなく、何人かとコ・プロデュースしてるからね。

――カートゥーンズとシボ(Shibo)との3人のプロデューサー体制で制作を行った理由は?

そうすることで自分を発展させられると思ったんだ。これまで一人で制作してきて、どれも似たような結果になってるんじゃないかと感じていた。だから、自分一人で背負ってた責任の一部を友達と分かち合えたら、どんな新しい学びがあるのか、どんな新しいサウンドが生まれるのかを見てみたかった。

 例えばカートゥーンズとなら、普段の僕とは違うものが得られることは明確だ。16分音符のファンキードラマー風の、よりヒップホップ感が強いソウル・ドラム風になるだろう…というようにね。そうすれば、僕もより自由に、違うシンセ音を試してみたり、ピアノ中心じゃないサウンドが増えるんじゃないかと思ったんだ。

 実際、このアルバムは以前ほどピアノ中心のサウンドではない。もちろんピアノは入っているけど、メインの楽器というわけではないんだ。カートゥーンズの音の上にシンセの音が重なる感じが好きなんで、自然とピアノが減ったというべきかな。

 シボとも同じだね。彼との曲ではモジュラーシンセをたくさん、MoogやProphetやJunoといった王道のシンセも使っている。それでピアノの出番が少し減ったのかもしれない。そうやって、これまでと違う方向に進みつつも、自分らしいハーモニーやメロディのスタイル、フレージングのスタイルはそのままに、あくまでもキーファーらしい楽曲が作れたということだと思う。違いは、サウンド面のアプローチの部分だよ。

――カートゥーンズとシボが両方ともベーシストなのは偶然ですか?

それは僕も考えるんだ。なぜだろう?って。自分でもわからないけど、一つわかるのは、二人ともメロディ楽器であるベースを演奏するから、すごくいいハーモニの感覚を持っているということ。そこが好きなんだと思う。僕が複雑なコードチェンジを弾いても、問題なく対応してくれるし、気持ちいいグルーヴやポケットを作るセンスが二人にはある。ジャズハーモニーという意味で、僕が行きたいところまでついてきてくれるし、同時にちゃんとポケットを作ることもできる。

 それに、二人ともサウンドデザインもすごくうまいんだ。音楽を理解する上で、大まかに同じような領域をカバーしてるんだと思う。3人ともビートを作れるし、ジャズハーモニーの取り入れ方もわかってる。全員がソニック・デザイナーなんだ。

 だから彼らとは仕事がしやすかった。僕が何か言えば、すぐに理解してくれる。人によっては、ジャズハーモニーをよく知らなかったり、ボーカリストだけどプロデュースはしなかったり、ドラムやビートを作るだけの人だったり。そうすると「僕が何をしてるのか、彼らには通じないかもな」と思ってしまう。逆に、相手が何かやっていても「何をしてるのか、僕にわからない」と思ってしまったり。でもあの二人とは、そうじゃなかった。その場で起きていることを全部理解できたし、やっていて本当に楽しかったよ。

――自分のメイン楽器のピアノが少なめで、しかもプロデュースという自分のアイデンティティの大きい部分も他の二人に分け合う…となると、かなり特殊なことだと思うのですが。

そうだね。でも同時に、レコーディングの全行程を通して、僕も皆と一緒に、すべての曲をプロデュースしているんだ。ピアノがメインの楽器じゃない時は、シンセだったり、Rhodesだったり、Wurlitzerだったり…。

 僕自身、音楽を広げる必要を感じてたんだよ。自分がやってたことがすごくニッチなものになってきて、ものすごく面白いけど、うんと小さなことに焦点を絞りすぎてるようで。もっと広がりを持たせたい、と思ったんだ。そうするために、たとえば誰かと責任を分担し、いつもすべて自分一人ではなくて、そう、たとえば100%のコントロールではなく70%くらいにできないものかな、と。そしてその30%を誰かに埋めてもらえたら、僕だけじゃなく、その誰かにとっても、今まで作ったことのないものが生まれるんじゃないかと思った。

 でも難しかったよ。すべてのコントロールを手放すのは楽じゃない。だって、何年もかけて自分一人でやれるようになったんだから。だから、なんでも一人でやりたかった。それにその方がずっと楽だから。スケジュールを立てたり、相手がファイルを送ってくれるのを待つ必要もない。「これを書き直してくれる?」と相手の気持ちを傷つけずに伝えるには、どうすればいいかと悩んでメールを1週間先延ばししなくてもいい。自分一人だったら、2週間もあれば、アルバムなんてできてしまう。

 でもそうやって作ったものが、いつしか同じような結果しか生まなくなっていた。それで「自分はもう10年くらいずっとこうしてきたんだ」と思い、もし少しだけ手綱を緩めたら、ものすごくたくさんのことを学べるし、いい意味で変わるかもしれないなとふと思ったんだ。でも、楽なことではなかったよ。自分でなんでもやっちゃいたい、と思う方だからね。

 と同時に、誰かと一緒に作りたいという気持ちもあった。とにかく、作れる限り最高の音楽を作りたかった。そのためには必要な一歩だった。おかげで僕は一歩上に進めたと思う。

――あなたみたいな、演奏もその後のことも全部一人でできて、作品も作れてしまう人が、いろんなものを手放したりする。それが「成熟」ということなのかな、と思いました。

なるほど。そうだね、僕もそう思う。ここ数年は、すごくうまくいくことと、いかないことと両方あって、自分としても「大人にならなきゃな」と思うことが多かったんでね。うん、そういうことの一つだったのかもしれない。

――今回はさらに、そこにいろんなタイプの演奏者/作曲家/プロデューサーが参加しているのも興味深いです。そのほぼ全員が、演奏者/作曲家/プロデューサーであり、ひとりですべてを制作を完結できるアーティストばかりです。彼らを選んだ理由を聞かせてください。

このアルバムで考えていたことがいくつかあって。一つは、参加するアーティストの顔ぶれを他にはない、誰にも真似できないようなアーティストたちのラインナップにしたかった。ビッグネームかどうかではなく、才能があって面白い人たち。幸い、僕にはそういう人たちとの繋がりがある。ネイト・スミスはもちろんその一人。

ウォルター・スミスとはたまたま知り合ったばかりだけど、僕の音楽のファンだと言ってくれてたので「興味を持ってもらえるか聞いてみよう」と試しに声をかけた。

プラネット・ギザ(Planet Giza)は今、人気急上昇中の素晴らしいラップグループだ。エリック・ザ・アーキテクト(Erick The Architect)はフラットブッシュ・ゾンビーズ( Flatbush Zombies)の一人。アンバー・ナヴァラン(Amber Navran)もムーンチャイルドのメンバーだ。

 全員、僕が大好きな音楽を作っている、すごく個性的な人たち。特にジャズ寄りのアーティストで言うと、ウォルター・スミスだったり、アンバー・ナヴァランだったり、フラナフィ(Flanafi)だったり、彼らのようなミュージシャンたちは、僕が弾くどんなコードチェンジも聴き取って応えてくれるので、とても仕事がしやすい。そういうこともできて、尚且つR&Bやネオソウルも歌えるボーカリストって、実は探すのが難しいんだ。自分がリスペクトできる、個性ある感覚を持っている人たちだという点も選ぶポイントだった。

 同時に、僕のスタイルと共鳴できる人たち。それぞれがやっていることの中に、僕のやっていることと重なる部分がある、というか。たとえばプラネット・ギザを聴くと「僕も好きなケイトラナダ風の要素があるな」と思える。それでいてヒップホップだ。レイ・カリル(Rae Khalil) を聴けば「ここは僕も大好きなアンダーソン・パーク風だな」と思うし、ネイトなら「僕ら、二人ともディラが好きだから、Jディラ&ピート・ロック的なことができる」というように。

 つまり今回参加してるアーティストは、単に僕との対比という意味だけじゃなくて、その部分も含みつつ、どの人もそこにいる意味があってそこにいるんだ。シスコ・スワンク(Cisco Swank)とやることも、オマリ・ジャズ(Omari Jazz)とやることも、シボとやることも、カートゥーンズとやることにも意味がある。僕が選んだのは、共通するDNAを持った人たちで、しかもそれぞれが違う個性を持った面白い顔ぶれだ。今回、アルバムで目指してたのは、そういうことだね。

――クレジットを見た時、誰かのアルバムに起用されるよりは、自分でアルバムを作るプロデューサーの集まりだなと思いました。Producer campというか。すごく特殊ですよね?

そうだね。

――そういったミュージシャン/作曲家/プロデューサーな人たちを集めることで生まれたメリットはなんだったと思いますか?

僕の場合、自分のバンドでも、そういうマルチなスキルを持つ人たちとやっている。たとえば今のバンドでは、シボがベースを弾き、ドラマーのディエゴはエストラトス(Estratos)の名で活動してる。自分のソロ・プロジェクトもやってるし、プロデュースもする。ネイトも自分のバンドではプロデューサーも兼ねているわけで。僕は昔から、プロデュースもする人とやるのが好きなんだと思う。ステージで一緒に演奏する時も、その人がプロデュースをする人間であるのは、強みだよ。プロデューサーは全体を俯瞰して見ることができる。自分の音量をどのくらいにすべきか、どのくらい演奏すべきか、全体のダイナミクスにも気を配りながら演奏する。それができるのは凄いことだよね。

 だからアンバー・ナヴァランと仕事するのが大好きなんだ。彼女は素晴らしいソングライターであり、歌詞も書けるし、曲の構成、コードチェンジ、アレンジのことをなんでもわかっている。たとえば、どこで”変わった”コードを入れるべきなのかとか。「ヴァース2の3小節め、あのコードは変えた方がいい」とか、そういうことをわかってるんだ。逆に僕が「このコードに変えるのはどう?」と提案すると「いいよ」とすぐにメロディを変えてくれる。なんだってできるんだ。スタジオ内では、そんなふうに僕の指示や曲の方向性の提案に応じて、フレキシブルに選択をしてくれる人が好きなんだ。今回参加しているのは、全員がそういう人たちだよ。

 シスコも、どんなコードチェンジだろうと、グルーヴだろうと、お手のものだ。ビートを送ったら、ラップのヴァースやコーラスだけでなく、ピアノまで弾いて送り返してくれた。「ピアノのパートは僕がやるから!必要なのはヴァースとフックだけ。そこだけを使わせて」(笑)と言ったら「もちろん」って言ってきた。で、ブリッジに関してはアイデアがあったんで、リライエ(Relyae)に連絡した。リライエも自分のアルバムではプロデュースもしている。

 僕自身、SoundCloud出身だから、自分でプロデュースする人が好きなんだ。今回はほとんどのプロデュースを僕とカートゥーンズで、それ以外を僕とシボでやったので、他にもプロデュースができる人たちはいたけれど、今回はその力は借りなかった。でもそういうセンスを持っているだけで、それぞれの役割にうまく生かせるんだと思う。

――何でもできるタイプの人が集まって、みんなで意見を出し合って曲が変わって面白ものになった曲の例があったら、教えてください。

うん、いっぱいありすぎて。具体的にどの曲の話が聞きたいってある?

――では、シスコが参加した「Daydreaming」は?

「Daydreaming」は、カートゥーンズが住むニューヨーク州ビーコンにある彼のアパートで1週間過ごしながら作った1つのビートから始まった。彼がドラムループを作り、曲の初めで聴けるフルートの旋律は、僕がピアノで、それから木琴で弾いて書いた。そこにコードチェンジを乗せ、ベン(Carrtoons)のベースラインと、ブリッジも書けたんだけど、あまり気に入らなくて…それでシスコに送ったんだ。彼がヴァースとコーラスとブリッジを考えてくれて、最後のピアノソロまで弾いて送ってきてくれた。シスコは素晴らしいピアニストだけど、ピアノソロは僕が弾きたいから「それはいいよ」って(笑)。ところがブリッジそのものがなんだか違う気がして、新しく書き直したものに差し替えた。最終的にシスコの書いたヴァース、コーラス、新しいブリッジの曲ができたが、またしてもふと「これはリライエだ」と思い、リライエに連絡した。彼とは親友だ。「ここのブリッジは君の声に向いてる。君が書きそうな感じだ」と彼に送り、送り返されてきた曲の最後に、僕がカートゥーンズが弾くドラムの音に合わせてピアノソロをとったんだけど、ここにはやっぱり本物のドラマーが必要だと思った。それで、ルーク・タイタス(Luke Titus)に連絡した。彼はルームメイトなんだ。ルークのドラムに、ピアノソロを乗せたら、前とは異なるものに、そして、前よりいいものになった。そうやってできたアウトロは、もともとはあのブリッジから生まれたわけだ。

 つまり、5回か6回書いては、また書き直すというのを繰り返したことになる。毎回少しずつ形が変わり、それは皆がどう演奏するかによって決まった。ルークが違うグルーヴを出せば、僕の演奏も変わるし、ルークのグルーヴがなかったらピアノソロもいいものにならなかった。それに、あのブリッジでリライエがいなかったら、そもそも成立しなかった。その一方で、全体を通して、僕のスタイルに引き寄せながらも、新しい形に変化していくところでは、その流れに委ねるようにした。つまり、僕自身が導いていく部分もあれば、自然に生まれるものに任せる部分もあるということだよ。

――すごい。みんなのアイデアの結晶だと。

 そう。今のは「Daydreaming」1曲の話。そんな話が山ほどある。つまり、全部の曲がそんな感じだったんだ。これまでのどのプロジェクトよりも作業も多く、時間がかかった。でもすごくいい経験だったし、楽しかったよ。

     

■リリース情報

キーファー AL『メモリー・ボム』
2026年9月25日リリース UCCQ-1232 SHM-CD ¥3,300(tax in)

収録曲:
01. デイドリーミング (feat. シスコ・スワンク、ルーク・タイタス、リレー、カートゥーンズ)
02. ノーホエア・ファスト (feat. レイ・カリル)
03. オーヴァーチュア (feat. ネイト・スミス、シボ)
04. ニューレヴェルズ・ニューデヴィルズ (feat. トニー・ストーン、エリック・ジ・アーキテクト、カートゥーンズ)
05. ゲット・トゥ・ザ・ムーン (feat. アンバー・ナヴラン、リレー、カートゥーンズ)
06. メモリー・ボム (feat. ウォルター・スミス三世、フラナフィ、シボ)
07. エントラクト
08. ビジーフォーヤ (feat. プラネット・ギザ、シボ)
09. ウォント・ビー・ロング (feat. アンバー・ナヴラン、フィル・ボードロー、シボ)
10. ドント・フェイル・ミー・ナウ
11. キャント・レット・ア・グッド・シング・ゴー (feat. ガレス・ドンキン、カートゥーンズ)
12. アズ・シー・ワズ (feat. オマリ・ジャズ、シボ)
13. アイ・レット・マイ・ヘアー・グロウ