「ヒューストン・サウンド」というものがあるのだろうか?ヒューストン出身のサックス・プレイヤーでバンドリーダーのウォルター・スミス3世はそう考えている。「ハーモニーやメロディーの作り方、グルーヴ志向の要素、演奏へのアプローチに至るまで、多くのスタイルが盛り込まれている事が分かるだろう」と語るスミス(43歳)は、ポスト・バップのサックス・プレイヤーであり、バンド・リーダーとして、同世代で最も魅力的で先見性のある才能の一人として、高く評価されている。

「みんなユーモアのセンスが抜群なんだ」と彼は笑顔で続ける。「これら全てが混ざり合って、ヒューストンらしさが生まれるのさ」

スミス初のカルテット・アルバム『three of us are from Houston and Reuben is not』は、テキサス州の州都であり、アメリカ文化の中心地であるヒューストンへの熱烈な賛歌である。セザンヌなどの老舗クラブが才能豊かなプレイヤーを輩出し続けるヒューストン。ヒューストン出身のピアニスト、ジェイソン・モランとドラマーのエリック・ハーランドに加え、ヴァージン諸島出身のベーシスト、リューベン・ロジャースが参加している。

「リューベンはオールド・スクールなメロディとグルーヴ重視のアプローチでプレイするんだ。」と、小学校で音楽教師を務める父を持ち、7歳でサックスを習い始め、若干年上のハーランドとモランと同じキンダー芸術高校に通ったスミスは言う。「彼は曲の土台を築き、自分がやっていることの本質を見失わないようにしてくれるんだ」

10曲のオリジナルと、サム・リヴァースのフリー・バップ・チューン「Point of Many Returns」にインスパイアされたテイクを収録したこのアルバムは、スミスにとってブルーノートからの2枚目のリリースとなる。「僕はいつもレガシーなものが好きだった。フレディ・ハバードとかリー・モーガンの『コーンブレッド』とかね」と語る彼。「でも、僕が大学に進学した時…」スミスは2003年にバークリー音楽大学を卒業し、セロニアス・モンク・インスティテュート・オブ・ジャズ(現ハービー・ハンコック・インスティチュート・オブ・ジャズ)で修士号を取得した。「当時、新進気鋭だったサックス奏者グレッグ・オズビーやマーク・シムなんかに夢中になったんだ。エリック・ハーランドも。特にジェイソン・モランの『Black Stars』が好きだった。ブルーノートは常に流行を先取りしているように見えたから、毎週ブルーノートがリリースするものを片っ端から買っていたよ」

現在、マサチューセッツ州ボストンを拠点とし、バークリー音楽大学で木管楽器の主任教授を務めるスミス、ソロ活動に専念する前は年間300本以上のギグをこなす大人気のサイドマンであった。テレンス・ブランチャード、ハービー・ハンコック、ジョシュア・レッドマンらと共演やレコーディングを行い、2006年のデビュー・アルバム『カジュアリー・イントロデューシング』にはルーベン・ロジャースとエリック・ハーランドが参加している。サム・リヴァースのハード・バッピング「サイクリック・エピソード」のカヴァーや、スミスの創造力の深さとアレンジ力を示すオリジナル曲を収録した、高く評価された作品である。

トランペット奏者のアンブローズ・アキンムシーレや、ドラマーで同じくヒューストン出身のケンドリック・スコットといったスター達がスミスの2014年リリースのソロ・アルバム『Still Casual』に参加し、2023年のブルーノートからのデビュー作『Return to Casual』にも再び参加している。スミスはサックスの巨匠チャールス・ロイドの伴奏を長年務めてきたバンドに心酔している。2017年にリリースされたチャールス・ロイドのアルバム『パッシン・スルー』を聴けば、バンドの並外れた才能を感じる事が出来るだろう。バンドのメンバーは?ジェイソン・モラン、エリック・ハーランド、リューベン・ロジャースが務めている。

「僕たちは何年にも渡って一緒にたくさんのレコーディングやツアーをやって来た」とスミスは言う。「エリック、ジェイソン、リューベンはみんな面白い人たちで、一緒にいるのが好きなんだ。レコーディングの前日、新しいアルバムのリハーサルで30分くらい演奏して、それから3時間くらいブラブラと過ごしてたよ。そういう心地の良さは、音楽だけでなく何にでも通じるんだ」

ウォルター・スミス3世。Photo: Travis Bailey/Blue Note Records.

スミスのレイドバックした人生観は、ツアー中のオタク感丸出しのゲーム(「ジョー・サンダース、ダニー・グリセット、そしてドラマーのビル・スチュワートと3週間ヨーロッパに滞在していたんだけど、毎日電車の中で何かを演奏しては、それが誰の曲か、アルバム・タイトル、レーベル名、リリース年度を当てるんだ。モノホンのオタクだろ?」)に反映されているが、彼の音楽は決して気軽なものではない。確かにこのアルバムでの彼の作曲アプローチは、以前よりもリスクを冒すようになり、モランとハーランドの自発性のコツを物語るような、より少ないものをより多くという美学を実践し、限られた素材から世界を創造するようになった。

最新アルバム『three of us are from Houston and Reuben is not』には、「seesaw」というトラックがある。これは若き日のスミスがハーランドとモランから受けた影響を匂わせるオープニング曲で、弾けるようなワルツだ。「Cézanne」は、ヒューストンの仲間たちに敬意を表したメロウな曲で、曲が進むにつれスウィングして行く。控えめでオーネット・コールマン風の「24」は、スミスのラッキーナンバーにちなんで名付けられた曲だ。「24は僕が産まれた日付なんだ。高校の時のポケベルの暗証番号でもあったから、当時を懐かしんでいるんだ。最初は24音のトーンラインから始めて、分解したり変えたりして作曲したんだ」

「Gangsterism on Moranish」は、元々ハーランドとモランをフィーチャーした2010年のアルバム『III』に収録されていた曲をリメイクした曲で、ピアニストであるジェイソン・ミランの「Gangsterism」シリーズを取り入れ、さらに激しくグルーヴし、スミスのテナーは複雑でありながら風通しの良い器用さで踊っている。「この曲は大好きなんだ」と彼は言う。「レコーディングではストレートな感じで演奏したんだけど、ライブで演奏するのが楽しみだよ。だって、長い動きやグルーブ、テンポの押し引きみたいな展開する場面がたくさんあるからね」

これがヒューストンならでは、なのである。「ヒューストンが石油や銃やテンガロンハットだけの場所ではないことを示したいんだ」とスミスは言う。「ヒューストンは音楽シーンが盛んな場所なんだ。ゴスペルもバックグラウンドにあるし、ヒップホップやラップもある。でも、ジャズのコミュニティは信じられないほど強い。国際的なシーンでレコーディングやツアーを行っているヒューストン出身の重要人物の名前を少なくとも20人は挙げることができるよ。ヒューストンを離れた人のほとんどが、今でもヒューストンを故郷と呼んでいるんだ」

彼は一息ついて微笑み、こう言った。「僕も含めてね」


ジェーン・コーンウェルはオーストラリア出身でロンドンを拠点に活動するライター。アート、旅行、音楽に関する記事を執筆し『Songlines』や『Jazzwise』など英国とオーストラリアの出版物やプラットフォームに寄稿している。ロンドン・イブニング・スタンダード紙の元ジャズ評論家。


ヘッダー画像: Walter Smith III。Photo: Travis Bailey。