しかし、経歴としては2021年のサラ・ヴォーン・インターナショナル・ジャズ・ヴォーカル・コンペティションの優勝者。このコンペはジャズメイア・ホーン、サマラ・ジョイ、タイリーク・マクドールらを輩出したヴォーカリストの登竜門。出てくるべくして出てきた存在でもあった。
しかし、ガブリエルはパワフルな声量や高度なスキャットなどを駆使するタイプではない。むしろ、ゆったりした曲を繊細に歌うことで情感を醸し出すようなスタイル。テクニックを前面に出すようなヴォーカリストではないにもかかわらず、コンプで優勝したその表現力には目を見張るものがあった。ジョシュア・レッドマンが惹かれたのもおそらくそこだったのだろう。そして、その声にドン・ウォズも魅了され、名門との契約を勝ち取ったわけだ。
ガブリエル・カヴァッサのメジャー・デビュー作『ディアヴォラ』は彼女の魅力が最大限に引き出された充実作だ。ドン・ウォズとジョシュア・レッドマンがプロデュースを手掛け、ジェフ・パーカー、ラリー・グレナディア、ブライアン・ブレイド、ポール・コーニッシュという最高峰のメンバーが集められた。その至高の演奏をバックに、カヴァッサは自身のオリジナルと、ジャズスタンダード、バカラックの名曲、そして、イヴァ・ザニッキやルイジ・テンコといった自身のルーツでもあるイタリアの名曲を取り上げている。彼女の特徴でもある囁くような歌唱から、エモーショナルな歌声まで、サラ・ヴォーン・コンペ優勝の実力をいかんなく発揮している。そこに名手たちの演奏が完ぺきに寄り添う。その文句なしに素晴らしいアルバムを聴けば、名門ブルーノートがこれまでほとんどリリースしてこなかった「女性ジャズ・ヴォーカル・アルバム」を作るに至った経緯が理解できるだろう。
ガブリエル・カヴァッサ ディアヴォラ
Available to purchase from our US store.ここではまずはガブリエル・カヴァッサとは何者なのか、ということを明らかにしたい。どこから来たのか、どんなキャリアを歩んできたのか、そんな話を彼女に聞いた。
(取材通訳:丸山京子)
――十代の頃、どんな音楽を聴いてましたか?
ジャズに出会ったのは10代のころです。その頃は本当に音楽にすごく夢中だったんですよね。だから、自分が何を好きなのかを見つけるために、いろいろ探している感じでしたね。その中にジャズもありました。いろんなアーティストのディスコグラフィーを丸ごとダウンロードして、とにかく聴いていたんです。もちろん好きじゃないものもたくさんありましたし。だから、そうやって振り分けながら、自分の心を動かすものは何かを探していた感じです。自分は何が好きで何が好きじゃないのか、それはなぜなのかっていうことを見極めるプロセスにすごく興味がありましたね。
――ジャズを歌い始めたきっかけは何だったんですか?
それも同じ頃、高校の時期でしたね。私は小さい頃からずっと歌っていて、すごく自然に惹かれていた気がします。それでジャズシンガーにすごく共鳴したんだと思います。ジャズって、完璧じゃなくてもいいんですよね。むしろすごく不完全でいい。私にとっては、音楽って不完全であることが許されていて、その不完全さがむしろ一番価値のあるものじゃないとできないものだと思っていて。
毎回違うし、即興だし、そこがすごく面白いし、すごく人間的だと感じます。私は完璧主義なところがあるんですけど、だからこそ完璧にはできないものに惹かれるんですよね。それにジャズシンガーたちの知性にもすごく惹かれていました。「どうやってこんなこと思いつくんだろう?」って思っていましたね。
――ビリー・ホリデイをよく聴いていたということですが彼女のどんなところが好きだったんですか?
彼女がどれだけリラックスしているか、どれだけ自然体かというところなんです。私は彼女の声が本当に好きで、とてもユニークで、まるで頑張っていないように聴こえるんですよね。子どもの頃に初めて聴いて、「これが今まで聴いた中で一番クールだ」ってすぐに思いました。彼女は誰か別の人になろうとしている感じがまったくなくて、すごく居心地よく自分自身でいる。それが私の理想になりました。
それに聴いていると癒されるんです。今でも、悲しい時とか、ライブ前に緊張している時とか、どこかに向かう車の中で不安な時とか、必ず彼女を流します。そうするとすごく落ち着くんですよね。
高校の時はコロンビアのボックスセットを持っていて、テディ・ウィルソンとやっている初期の音源を聞きまくっていました。今好きな曲だと、「Good Morning, Heartache」とか、「Crazy He Calls Me」とかですね。それからテディ・ウィルソンとやっている「Sugar」もすごく好きなんです。
――さっきリラックスっていう言葉が出ましたけど、あなたの作品にはリラックスの要素がある気がするんです。リラックスって言葉は、自分の中で音楽にとって重要な要素ですか?
アーティストとして一番共鳴するのは音楽が持つ「癒す」機能なんですよね。ただ、それは必ずしも穏やかである必要はなくて、自分が感じている感情をすべて受け入れることだと思います。例えば怒りもそうで、怒りについて書いたり歌ったり、それを外に出すことも大事。それもまた私にとっての癒しになります。
つまり、音楽は感情が開かれている場所であること。それが大事だと思っていて。どんな感情であっても、それをそのまま感じていいと思えること。それが私の言う「癒し」なんです。静かである必要はなくて、ただ正直であること、それだけですね。
――大学でどんなことを学んでいたんですか?
私はサンフランシスコ州立大学に行っていました。最終的にはジャズ史が専攻になりました。学校自体は好きだったんですけど、音楽プログラムはそれほど充実していなかったんですよね。だから、結局、自分はサンフランシスコの音楽シーンに属しているような感覚でした。学校の外で、毎晩ギグをやっていたり、たくさんのセッションに行ったりしていました。ベイエリアは本当にいいシーンなので、そこでの経験が自分にとっての学びの時間になりました。つまり、シーンの中で学んでいた感じですね。
――どんな会場で演奏していたんですか?
たとえば、Club Deluxeです。すごくいいクラブで、パンデミックの影響で今はもうなくなってしまったと思います。私の最初のギグはYoshi’sで、ただ、大きいステージではなくて、レストランの中の方でした。それからMadrone Art Bar、それにオークランドのSmall Wonder。そんな場所で歌っていました。その後、ニューオーリンズに移りました。
――いろんなヴォーカリストを研究したと思うんですけど、ビリー・ホリデイ以外だと誰がいますか?
私にとってはビリー・ホリデイ、ナンシー・ウィルソンが大きかったですね。もちろんサラ・ヴォーン。それにソングライターとしてはエイミー・ワインハウスもすごく大きかったです。シャーリー・ホーン、フィリス・ハイマンもそうですね。
――ナンシー・ウィルソンはどんなところが好きですか?
ナンシー・ウィルソンは、私の中ではダイナ・ワシントンから直接つながってくる存在なんです。とても官能的なシンガーで、最初に好きになったビリー・ホリデイとは全然違いますよね。ナンシー・ウィルソンはもっと洗練されているので、彼女のテクニックにはすごく敬意を持っていました。でも、それをすごく個人的で親密なものにできるところがすごいと思います。すごく魅力的で、シンガーとしての人格も大好きなんです。ビリー・ホリデイよりも、私にはショーマンシップが強いように感じられました。でもそれも好きなんですよね。
――エイミー・ワインハウスはどうですか?
エイミー・ワインハウスは本当に大きな影響でしたね。特にソングライターとしてです。彼女の曲が本当に好きで、とても正直なんですよね。悪いところや醜い部分も恐れずに出していて、とにかく正直で。本当に素晴らしい声を持っていて、余計なものを切り裂いて、自分の人生についてそのまま語ることができる力がある。そこがすごいと思います。
――次はシャーリー・ホーンです。
シャーリー・ホーンは、私にとっては最後のボスみたいな存在でしたね。彼女に出会ったのは少し後で、それまでに挙げた人たちはもっと早い時期でした。彼女はとにかくすごく忍耐強いんです。本当に忍耐強くて。私はすごく共感しました。誰かの歌を聴いて、自分が理解されていると感じることがありますよね。たぶん、それが私の言う「癒し」なんだと思います。彼女は何かを頑張ってやろうとしているわけじゃなくて、ビリー・ホリデイと同じように、ただすごく忍耐強くてクリアで、自分が何を伝えたいのか、どう伝えたいのかとしっかりつながっているんです。フレージングがすごく後ろにずれても気にしない。それってベティ・カーターにも言えることで、さっき言うべきでしたね。ベティ・カーターも、自分のタイミングで歌いますよね。でも、シャーリー・ホーンのように歌う人は他にいないと思います。本当にその瞬間に存在していて、聴くたびにとても心を動かされます。
――意外だったのはフィリス・ハイマンです。
そうですね。彼女はナンシー・ウィルソンに少し似ている部分もあると思っていて、より現代的な時代にそれを持ち込んでいる感じがします。多分、多くの人は彼女をジャズシンガーとは考えないかもしれないけど、でも実際にはその系譜の一部なんですよね。
私は彼女の低い声がすごく好きで、すごく芯があって、その中心部分がしっかりしている感じがします。私はいろんなタイプのシンガーが好きなんですけど、結局戻ってくるのはシンプルで直接的なもの(simplicity and directness)なんですよね。今話している人たちはみんなそれを持っていて、すごくクリアに自分の言いたいことを伝える力があると思います。
フィリス・ハイマンは「声」という意味で史上最高の楽器のひとつだと思います。その楽器をどう使うかも本当に素晴らしくて、彼女はセクシーで、とても知的なんです。
――なるほど。その後、ニューオーリンズに移ったって話をしましたけど、その理由は?
実はバケーションで行っただけだったんですけど、そのまま住むことにしました。通りのあらゆるクラブから音楽が聞こえてきて、あらゆる場所に音楽があることに気づいてから魅了されたんですよね。着いて1時間くらいで「ここに住むべきだ」と思いました。タイミングも良かったし、自分にとって学ぶべきことがたくさんある場所だと感じたんです。
――ニューオーリンズで見たり学んだことの中で、今の音楽活動に影響しているものは何だと思いますか?
ニューオーリンズはこの音楽の発祥の地で、それを感じることができます。人々が音楽とつながっている、その在り方が全く違うんです。サンフランシスコから来た私は音楽を頭で考えるような感じでしたね。ステージの上のミュージシャン同士に向けて演奏している感じで、内輪のジョークみたいなものだったり、ミュージシャンを感心させたいという気持ちが強くて。それはそれで知的なものだし、楽しかったんですけどね。
でもニューオーリンズに来たら、音楽の目的が何なのかをすごく深く、しかもすぐに理解できた気がします。ニューオーリンズでは音楽は他者のためにあるんですよね。みんなで共有するために、観客とつながるために音楽がある街なんです。
ニューオーリンズに来てからシンガーとして自分の役割は観客とつながることなんだと強く感じるようになりました。音楽の目的や、人々がどう音楽とつながっているかを知って、自分の考え方が大きく変わりましたね。
――そう感じたきっかけはありますか?
ニューオーリンズはとにかくとんでもなく音楽に溢れていて、しかも密度がとても高くて、それが人を幸せにしたり、何かを感じさせたりするためにあるのがすごくはっきりしているんです。例えばGermaine BazzleというシンガーがRoyal Sonestaで毎週日曜日に演奏していて、私はいつもそれを観に行っていました。これまでに見た最も素晴らしいシンガーだったと思います。観客とのやり取りがとても遊び心にあふれていて、観客として自分もその中に参加しているといつも感じられるんです。特別なクラブの一員みたいな感じではなくて、彼女が自分を受け入れてくれているような感覚になれました。エリート的なものではなくて、つながることを大事にしていて、誰も排除しないんですよね。そういう感覚に惹かれていました。
――ファーストアルバム『Gabrielle Cavassa』の話を聞きたいです。どんなアルバムにしようと思ったんですか?
実はあのアルバムの目的は、ジャズから離れることだったんです。自分ではポピュラーなレコードを作っているつもりでしたね。その時は「自分は最高のジャズシンガーにはなれない」と思っていて、自分自身のことをやらなきゃいけない、自分の道を行かなきゃいけないと感じていました。それで「ジャズなんて気にしない」と思いながら、オリジナルな音楽を作ろうとしていたんです。でも、そのアルバムは自分が思っていた以上にジャズの世界で評価されていて(笑)。どうしてそれがジャズだと思われたのかも自分には分かりませんでした。ジャズを拒否したのに、逆にジャズに戻ってきてしまった。すごく不思議だし、なんだか皮肉ですよね。
――曲に関してはどんなインスピレーションがありましたか?例えば、「It Was Supposed to Be…」
あの曲は、もともとはラブソングのつもりだったんです。実は最初は「For ○○(※個人名)」みたいなタイトルで、終わりかけていた関係について歌っていました。でも、アルバムが出る直前に、その相手と電話で話していたら、違うかもって思って変えることにしたんです。ちょうど別れそうになっていた時期でしたし。
でも、なんだか腹が立って、家の中を歩き回って、携帯を投げて、イライラしていて、「どうして気に入らないの?これはラブソングなのに、どうして喜ばないの?」って思っていました。それで「was supposed to be」(するはずだった)というタイトルにしたんです。この曲は自分の問題についての曲で、このアルバム全体も基本的には自分の問題と恋愛についてのものなんですよね。その時の自分の人生の状態そのままでした。
「Oakland」は、夜にいろいろ思い悩んだり、落ち込んだりしていた時のことですし、「Inside My Arms」は、まあ、いわゆるダメな男についての曲ですね。当時はサンフランシスコにいて、曲を書き始めた頃で、かなりパーティー中心の生活をしていました。音楽的な意味でのパーティーなので、夜遅くまでジャムをやって、もっと良いミュージシャンになろうとしていた時期です。でも、内心はすごく孤独だったんです。だからこのアルバムは、愛を見つけたいという気持ちと、それがその環境ではうまくいかないことへの苛立ち、そういうものが詰まっているんです。
――そういえば、僕があなたのデビュー作を知ったのはブラクストン・クックがSNSでシェアしていたのがきっかけだった気がします。
彼はそのアルバムにも参加しています。彼の音楽にはとてもインスパイアされています。
――では、ブルーノートからリリースするアルバム『ディアヴォラ』について聞かせてください。まずはこのアルバムを出すことになったきっかけから。
さっき話したように、最初のアルバムはジャズにならないように作ったんですけど、その直後にサラ・ヴォーン・コンペティションで優勝してしまったんですよね。それがきっかけでジョシュア・レッドマンから連絡が来て、彼から一緒にアルバムを作りたいと誘われました。その時は「人生で一番ジャズな年だ」と思いましたね。本当にクレイジーでした。それで「まあいいか」と思って、一緒にアルバムを作りました。それが『Where Are We』です。あのアルバムは、彼のレーベル移行期間に作ったもので、すでに完成したものをブルーノートに持ち込んだんですよね。それをブルーノートが気に入ってくれて、ドン・ウォズが私のことを知ってくれて、それで私と契約したいと思ってくれたんだと思います。
――ジャズを離れたいと言っていたのに、なぜジャズのコンペに出たんですか?
実は前年に応募していたんですけど、パンデミックで延期になったんです。延期になっている間にアルバムを録音してリリースして、2年遅れでコンペが行われたので、それに出たんです。すべてはタイミングだったんだと思います。もうどうでもいいやと思っていた時に優勝したんですよね。
――すごいめぐりあわせですね。でも持ってますね。それで、ジョシュア・レッドマンのアルバムを経て、自分のアルバムを作ることになったと思うんですけど、その時にどんなアルバムを作りたいと思いましたか?
今回は、自分のルーツをもう少し受け入れようと思いました。ジャズスタンダードももっと入れたいと思いましたし、自分が今どこにいるのか、人生の中で何をしてきたのか、それを捉えたいとも思いました。
そして、ジョシュアがプロデューサーとして参加してくれて、演奏もしてくれましたし、ポール・コーニッシュも参加しています。それにレーベルと契約して初めてのアルバムなので、特別なものになると思いました。だったら、できるだけ正直に、自分がどこにいて、何者なのかを表したいとも考えました。
それと同時に、自分のやり方が決して型にはまったものではないということも示したかったんです。それを自由に表現したかったんですよね。
ブルーノートは全面的にサポートしてくれて、誰を起用するかも、どんな方向性でいくかも、すべて自由にやらせてくれました。だから自分が作りたかったアルバムを作ることができたんです。
コンセプトについても話していいですか?
――もちろんです。
アルバムのタイトルは『ディアヴォラ』。これは人の中にある善と悪、そしてどちらか一方になろうとする不完全な旅についての作品なんです。愛や運命、間違いについても扱っています。光と闇、その両方についての作品だと思います。なので、かなりコンセプチュアルなアルバムになっています。
――ゆったりした静かな曲が多いと思います。その意図も聞かせてください。
それは多分、自分の性質だと思います。もちろん強い瞬間もありますけど、私はあまり速く動くタイプではなくて、ゆっくり進むのが好きなんです。でも、それでも強さはありますし、ある意味では癒すためのものでもあると思います。だから、そういう強さや深さに到達できるミュージシャンを選びました。静かな時でも、ゆっくりな時でも、その強度に到達できる人たちと一緒に作りたかったんです。ニュアンスや奥行きを探ることに慣れている人たちとも言えますね。
――なるほど。
ジェフ・パーカー、ラリー・グレナディア、ブライアン・ブレイドはみんな、少なく演奏することで引き込む力を持っていることで知られていますよね。派手さで見せるのではなくて、むしろ少ない音数を演奏することで惹きつけることができる。それがすごくミステリアスで、私にとっては癒しにもなります。正直に言うと、ただ速く動いてエネルギーを出すようなものよりも、ずっとエキサイティングだとも思っているんです。もちろん早いものもそれはそれで楽しいですけど、今の私にとってはそれはやりたいものとは違うんですよね。
――そのコンセプトとスローな雰囲気を考えると、ジェフ・パーカーの存在は重要だったんじゃないかと思います。アルバムでの彼の役割を聞かせてもらえますか?
初めてジェフの演奏を聴いたとき、さっき話していた「自分のことを理解されている感覚」が強くあったんです。自分の音楽が彼のアプローチやサウンドにつながっていると感じられました。このインタビューでずっと「癒し」という言葉を使っていますけど、本当にそういう感覚でしたね。彼の音はとても美しいんですよね。サウンドチェックで最初の一音を聴いた時点で、すごく感じるものが彼の演奏にはあります。
それに彼はすごく反骨的で、大胆。クリエイティブ・ミュージックの分野でも、ギターの分野でも、パイオニアなんです。勇敢で大胆だけど、同時にミステリアスで、謎めいた存在でもある。そういう彼の演奏に私はすごく惹かれていますし、彼のあれだけはっきりした個性を持ったサウンドは、このアルバムの重要な要素になっています。強い個性があっても、私を覆い隠すのではなくて、補完してくれていると感じるんです。
――今回のアルバムを象徴するようなプロセスで録音された曲があれば教えて下さい。
セッションを象徴する曲なら「雨にぬれても」を挙げたいですね。これはクラシックな曲なので、プロデューサーのドン・ウォズとジョシュア・レッドマンは、この曲をやることにあまり乗り気ではありませんでした。数少ない意見が分かれた曲のひとつなんです。でも結果的にはドンのお気に入りになったと思いますし、私にとっても満足いくものになりました。
この曲はジェフのアンビエントなギターのイントロ(アルバムでは1曲目の「ヘヴン・サイズ」)から始まって、そのあとブライアン・ブレイドがクールなグルーヴを作っていきます。私はあまり細かく指示を出したくないので、このアルバムはスタジオでアレンジされていった部分が大きいんです。私はこのバンドはみんな天才だと思っているので、彼らの直感を私が制限したくはなかったんですよね。中でもこの曲は特にスタジオの中で形になっていった曲です。最初はジェフに自由にやってもらって、そこからグルーヴが自然に発展していきました。
あと、実はこの曲のブリッジの部分が原曲とは全然違うんです。それは私がこの曲のブリッジの存在を知らなかったことがきっかけなんです。母が子どもの頃に使っていたオルゴールがあって、そこから「雨にぬれても」のメロディが鳴っていたんですけど、ブリッジは流れなかったんです。だから私はこの曲のブリッジをずっと知らなくて、あとで本来の形を知ったんですよね。でも、自分がもともと知っていたオルゴールのアレンジが好きだったので、それをそのまま採用しました。
――へー、面白い。
それから最後にサックスソロが入っているんですけど、最初は入っていませんでした。これは最後の最後に録音したものなんですけど、ジョシュアが「ここでちょっと吹いてもいい?」と提案してくれたんです。
私はそんなことは考えもしなかったので、「本当に?」って感じでした。彼はプロデューサーとして導く立場でいたい人なので、普段そういうふうに前に出るタイプじゃないんですよね。その彼がわざわざ言ってくれたのもあって、やってみようって思いました。結果的に曲が一段上に引き上げられたと思います。全てがすごくオーガニックなプロセスでしたし、この曲はリハーサルでも最初にやった曲で、レコーディングでも最初に録った曲。そして、アルバムの最初の曲にもなっています。だから、このアルバムの始まりを象徴するような曲だと思います。
■ガブリエル・カヴァッサ プロフィール
1994年カリフォルニア州生まれ。幼い頃から音楽に親しみ、独学でジャズ・ヴォーカルを学ぶ。サンフランシスコ州立大学で音楽学士号を取得。その後ニューオーリンズに拠点を移して活動し、2020年に初のアルバム『Gabrielle Cavassa』を自主制作でリリース。2021年にはサラ・ヴォーン国際ジャズ・ヴォーカル・コンクールで優勝。その才能をいち早く見抜いたジョシュア・レッドマンが自身のアルバム『ホエア・アー・ウィー』(2023)でヴォーカリストとして抜擢し、大きな話題を呼んだ。2024年に名門ブルーノートと契約。2026年に待望のメジャー・デビュー作『ディアヴォラ』をリリースする。ナチュラルな歌声の中にも圧倒的な表現力を持つスタイルは近年のヴォーカリストの中でも類を見ないもので、ジャズ界の新星として一躍注目を集めている。
“ガブリエルの歌声を聴くことは、まるで彼女が耳元で秘密を囁いてくれているような体験だ。彼女の物語に込められた誠実さは息をのむほどで、今後の音楽シーンにとって重要な存在になるだろう” – ドン・ウォズ
“深みと豊かさを持ちながらも、儚い歌声を持つ若きシンガー…間違いなく将来有望なスターだ” – ダウンビート
■リリース情報
ガブリエル・カヴァッサ ディアヴォラ
Available to purchase from our US store.ガブリエル・カヴァッサ AL『ディアヴォラ』
2026年5月1日リリース UCCQ-1229 SHM-CD ¥3,300 (tax in)
収録曲:
01. ヘヴン・サイズ
Heaven Sighs (Jeff Parker)
02. 雨にぬれても
Raindrops Keep Falling On My Head (Burt Bacharach, Hal David)
03. プリズナー・オブ・ラヴ
Prisoner Of Love (Clarence Gaskill, Russ Columbo, Leo Robin)
04. ボシー・ノヴァ
Bossy Nova (Gabrielle Cavassa)
05. トゥ・セイ・グッバイ
To Say Goodbye (Lani Hall, Edu Lobo, Torquato Pereirade, Araujo Neto)
06. アンジェロ
Angelo (Luigi Tenco)
07. ビー・マイ・ラヴ
By My Love (Nikolaus Brodszky, Sammy Cahn)
08. ディアヴォラ
Diavola (Gabrielle Cavassa, Alexander Warshawsky)
09. クッド・イット・ビー・マジック
Could It Be Magic (Barry Manilow, Adrienne Anderson)
10. 別れの夜
La notte dell’addio (Alberto Testa, Arrigo Amadesi, Memo Remigi, Giuseppe Diverio)
パーソネル:ガブリエル・カヴァッサ(vo, ag on #4)、ジェフ・パーカー(eg)、ラリー・グレナディア(b)、ブライアン・ブレイド(ds)、ジョシュア・レッドマン(ts on #2, 9)、ポール・コーニッシュ(p on #8, 9, 10)
プロデュース:ドン・ウォズ、ジョシュア・レッドマン
★ドリームランド・レコーディング・スタジオにて録音
