さる9月16日、今秋、注目作品をリリースするアーティストを招き、ライヴを披露する完全招待制ショーケース「EVERYTHING JAZZ presents SPECIAL SHOWCASE 2026」が開催された。「EVERYTHING JAZZ」として初の取り組みだというこの会に登場したのは、同日に3年半ぶりとなる新作『Garden』が発売となったベーシスト、ヴォーカリストの石川紅奈、そして2025年に『Animaru』でアルバム・デビューを果たし、同年のフジロックフェスティバルにも出演した日系アメリカ人シンガー・ソングライター、メイ・シモネス。会はまず石川紅奈のパフォーマンスからスタートした。

高校1年の夏からウッドベースを始め、高校在学中に世界的ピアニストの小曽根真にその才能を見出され、大学は国立音楽大学ジャズ専修に入学した石川紅奈。2021年に丸の内「コットンクラブ」で演奏したマイケル・ジャクソン「Off The Wall」のカバーを収めた動画がYouTubeで290万回以上再生(9月末時点)されて一躍注目を集めることとなった。2023年には小曽根真プロデュースでファースト・アルバム『Kurena』をジャズの名門レーベル〈Verve〉よりリリース。同時に国内やアジア圏でのライヴ活動を精力的に続けてきた。
石川紅奈 Garden【LP】
Available to purchase from our US store.今回のライヴはギターにTaka Nawashiro、パーカッションにKanを配したトリオ編成。これまでも石川のライヴや『Garden』のレコーディングに参加しているメンバーだ。1曲目に演奏されたのは前作『Kurena』に収録のオリジナル曲「Sea Wasp」。アルバム・バージョンはピアノとドラムスを含めたスリリングなジャズ・チューンだが、このトリオの演奏は曲の骨格をより感じさせるものであった。以降、3曲は新作から。2曲目の「Les Fleurs」は清らかでキュートなハイ・トーンで知られるシンガー、ミニー・リパートンのソロ1作目『Come To My Garden』(1970)に収録の、クラブ・クラシックとしても有名なナンバー。これをディープでミステリアスな前半から多幸感たっぷりのサビへとコントラストをつけて展開する秀逸なアレンジで聴かせた。続く「Erica」は新機軸として取り組んだ英語詞のオリジナル曲。ほのかにただようブラジル音楽のムードも心地よいこの曲の終盤、テンポ・アップして演奏が熱を帯びるのも見どころであった。ラストはこちらもオリジナルの「In the Rain」。アジムスやアイアート・モレイラを思わせるブラジリアン・フュージョンといった風情の曲に、軽やかなでどこか前向きな歌詞がうまくマッチし、親しみやすいメロディとも相まって印象に残った。サウンド的にはどっしりと、ときにメロディアスにボトムを支える石川のウッドベースに、ギター、そしてカホン、パンデイロなどのパーカッションが彩りを添えるといったアプローチで、こうした方向性はともすると土っぽく傾いてしまいがちなのだが、そこに石川の穏やかで澄んだ歌声が加わるとグッと洗練されたものに聴こえるのが実に興味深かった。
しばしのインターバルののち、メイ・シモネスがステージに登場。このショーケースに彼女が出演することは当日まで秘されていたので、会場に到着して驚いたかたも少なくなかったのではないだろうか。もともとピアノを習っていたメイは、11歳ごろに観た『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)でマーティ(マイケル・J・フォックス)が弾くギターに感化されギターに転向。ジャズのプログラムがあったこともあり高校でジャズ・ギターを学び、ボストンのバークリー音楽大学に進んだ。

普段はバークリーで出会った仲間とのバンド形態での演奏が多いメイだが、この日はギターと歌というソロ・パフォーマンス。最初に演奏したのは2025年リリースのシングル曲「Itsumo」だった。ボサノヴァとロックを行き来する起伏に富んだこのナンバーに観客もグッと前のめりになる。続いての「Kabutomushi」は子どものころの夏の日へのサウダージを感じさせる曲だ。このあとはショーケース開催時点では未発表だった作品を3曲披露。「Towards Manhattan」、「Howl」、「素直になりたい」というタイトルのこれらの楽曲は、2027年1月15日発売の〈Verve〉移籍第一弾アルバム『Howl』に収録されるという(うち「Howl」は9月30日に先行でデジタル・リリース済)。果たして録音物でこの3曲がどう表現されるのか––––気づけば興味津々でステージを見つめていた。ラストはファースト・アルバム『Animaru』からの「Dumb Feeling」。音源ではバンド演奏によるダイナミックなコントラストが印象的だが、ギター1本と歌でも優しく繊細なパートと力強さは見事に共存していた。
6曲のソロ・パフォーマンスを観て思ったのは、彼女の前ではジャンルはあまり意味をなさないということ。便宜上、ボサノヴァだロックだと書いたが、彼女が大切に思うことが音楽として表現されているにすぎず、いわばひとと音楽とがイコールで結ばれているようなものだからだ。ただ、それを表すうえでジャズを学んで身につけた技術は大いに役立っているのはまちがいない。実際、ギターの演奏能力はとてつもなく高いが、それが曲中にさりげなく置かれているところは彼女の大きな魅力になっている。それからもうひとつ、彼女の曲は「会話しているような音楽」だということに気づいた。ひとが話すとき、その言葉はゆっくりになったり速くなったり、戻ってみたり繰り返したりして、およそ直線的とはいいがたい展開をすることが多いだろう。彼女の音楽にはそんな自由さ、自在さがあるように思う(彼女の声質やシームレスかつ明瞭な英語と日本語もその一助となっている)。こうした個性をより際立たせてみせたという意味で、今回の弾き語りでのパフォーマンスは素晴らしい機会だったと同時に、新作がますます楽しみになった。
メイ・シモネス Howl
Available to purchase from our US store.終演後、アーティストとのMeet & Greetを経てお開きとなった本ショーケース、出演アーティストの新しい魅力を発見できたり、新曲にいち早く触れられたりと、一般的なライヴとはまたちがった楽しさを味わうことができ、ありがたい体験だった。これからもこうした取り組みが継続して行われることに期待したい。
ヘッダー画像:Photo: © Yukitaka Amemiya
