アルト・サックス奏者のイマニュエル・ウィルキンスは、ジャズ史上最も名高いクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」に初めて足を踏み入れた時のことを鮮明に覚えている。「初めてヴァンガードに行った時、まさに想像していた通りの光景が広がっていたんだ」。彼はジュリアード音楽院で学ぶため、フィラデルフィアからニューヨークへ引っ越してきたばかりだった。そして、そこで見た最初のライブについてこう振り返る。「バリー・ハリスだった。母と一緒に見に行ったんだ。バリー・ハリスと同じ時期にニューヨークにいたことは、本当に感謝している。彼は真の巨匠だった。当時、バリー・ハリスはミッドタウンでジャズのクラスを教えていて、彼のボーカルの生徒たちがみんなそこにいたんだ。演奏中、客席からたくさんの声が聞こえてきて、みんな一緒に歌い始めるんだ。彼が奏でていた音楽は、本当に魔法のようだった」

1935年にフォーク・ミュージックや詩の朗読会場としてオープンしたヴィレッジ・ヴァンガードは、1957年までにウェスト・ヴィレッジの活気溢れるジャズ・ライブの拠点となり、その地位は21世紀に入っても変わることなく続いている。10代の頃、ジャズの歴史に没頭していたウィルキンスは、グリニッジ・アベニューのすぐ側にあるその地下クラブで録音された数々の伝説的なジャズ・アルバムを聴き込んで腕を磨いた。「もちろん、コルトレーンやソニー・ロリンズも聴いたよ」と彼は言い、ヴァンガードで録音された、より最近の愛聴盤をいくつか挙げる。「ジェイソン・モランのヴァンガードでのライブ盤は両方とも大好きだ」と触れられたアルバムは2003年の『The Bandwagon』と、2017年の『Thanksgiving Live at the Vanguard』だ。「この2枚は、僕にとって本当に最高峰のアルバムだ。ブラッド・メルドーの『Art Of The Trio Live at the Village Vanguard』も素晴らしい。ヴァンガードには偉大な録音が数え切れないほどあって、今になって過去のアーカイブにと向き合うのが楽しくてしょうがないんだよ」

ウィルキンスもまた、同会場で録音された2夜分の演奏を収めた『Immanuel Wilkins Quartet: Live At The Village Vanguard』のリリースにより、その由緒ある名だたるリストに名を連ねることとなった。本作では、彼の常連カルテットが探求心あふれる実験的な演奏を披露しており、Vol. 1で見られるような横への広がりを見せる演奏は、先達であるコルトレーンやロリンズの徹底的なサックス・ワークと即座に比較されることだろう。Vol. 3に渡るほぼすべての曲が10分を超え、ウィルキンスとそのホーンが豊かな詩情とハーモニーを惜しみなく注ぎ込む余白が十分に確保されている。ピアニストのマイカ・トーマス、ベーシストの竹永龍馬、ドラマーのクウェク・サンブリーの支えも盤石だ。

「コルトレーンは、僕にとって最初のインスピレーションだったと思うよ。特にヴァンガードでの録音に備えて聴き直したいと思って最初に思い浮かんだのが『ジョン・コルトレーン/ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』さ」とウィルキンスは熱を込めて語り、すぐにソニー・ロリンズの名盤を付け加える。「『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』でのソニーの演奏は、もう常軌を逸しているよ。あのサウンドが大好きなんだ。ヴァンガードそのものを感じさせるんだ。あれを聴くと、あの空間がありありと目に浮かぶ。だから、あのアルバムからは本当に色々と学んだよ」

ウィルキンスにとって、「ヴァンガード」はジャズクラブの理想形そのものだ。「素晴らしいジャズ・クラブというのは、どこもああいう居心地の良さがある。いいジャズ・クラブほど、小さいものだ」と彼は言う。「ある程度小さくないといけないし、残響が少なくないといけない。カーペットが必要で、しかもあの古びたカーペットでないといけない。ヴァンガードの色だって完璧じゃないか。カーテンのあの暗みがかった深紅。すべてが、あの部屋のサウンドと、数々の名盤と、古き良きジャズ・クラブというものを体現しているんだ」

イマニュエル・ウィルキンス
イマニュエル・ウィルキンス。写真:ミン・スミス。

空間だけではない。ヴァンガードで録音された全ての名盤に共通し、その音楽を成立させているもう一つの秘密がある。聴衆そのものだ。「ヴァンガードの雰囲気を美しく彩っているのは、実は聴衆なんだ」と彼は言う。「あそこには本物のリスナーがいる。音楽に真剣に向き合っている人たち、毎年サンクスギビングにモランを観に来る人たち、あるいは毎年クリスマスにヴァンガードへケニー・バロンを観に来る人たち。ニューヨークのリスナーにとっても、旅行者にとっても、素晴らしいスポットだ。最高の観光スポットでありながら、観光地らしくない場所、それがヴィレッジ・ヴァンガードなんだ」

2枚の批評的に高く評価されたスタジオ・アルバムによってジャズ界の力強い新たな声としての地位を確固たるものにしたウィルキンスは、あの伝説のバンドスタンドで全てを出し切れたことに安堵を覚えている。「解き放たれた感覚があって、自由だった」と彼は語る。「ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ録音は、綱渡りをしているようだった」そして、こう付け加えた。「それも、とても長い綱のね」

このアルバムのもう一つの秘訣は、ウィルキンスが、プレッシャーが大きくなりすぎるのを避けるため、グループの最新メンバーである21歳のベーシスト、竹永龍馬にレコーディングを行っていることを明かさなかったことだ。「ヴァンガードで初めて演奏した時のことを覚えているが、それだけでもかなりのプレッシャーだった」とウィルキンスは振り返る。「その上にレコーディングまで加われば、精神的な負担が大きすぎる」。竹永は、2夜の演奏が全て終わってから初めてそれを知らされ、胸をなでおろしたという。


アンディ・ベータは、近日刊行予定の著書『Cosmic Music: The Life, Art, and Transcendence of Alice Coltrane』の著者。ニューヨークを拠点としている。


ヘッダー画像:イマニュエル・ウィルキンス・カルテット、ヴィレッジ・ヴァンガード。写真:ミン・スミス。