21世紀のECMを代表するギタリスト、ウォルフガング・ムースピールとスコット・コリー(ベース)、ブライアン・ブレイド(ドラムス)を擁するトリオ(「彼らの間にはビル・エヴァンス・トリオのような共感がある」―ダウンビート誌)が、『ダンス・オブ・ジ・エルダーズ』以来2年ぶりとなる新アルバムを10月1日にリリースすることが発表され、先行トラック「ロール」の配信がスタートした。

キース・ジャレットの「リスボン・ストンプ」を繊細に解釈し、おそらくグループ史上最も冒険的なトリオ録音となる舞台を整えながらスタートするトリオ3作目のレコーディングは、スウィング感たっぷりで臨まれたようだ。

しかし、アルバム全体を通しては、ウォルフガングの魅惑的なオリジナル曲にスポットライトが当てられている。バラード的な叙情性(「プラデラ」「トラヴェルシア」)、繊細なフォークの要素(「ストラミング」「フライト」)、間接的な室内ジャズ(「ワイル・ユー・ウェイト」)、そしてトワンギーなロックンロール(「ロール」)などが展開される。

ウォルフガング・ムースピール 東京

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「このトリオでは全てがつながっている」とウォルフガングは語る。「ソロの独り舞台ではなく、全てが絡み合い一つの物語を形成する。そして、それは双方向性——絶え間ない対話だ。この仲間たちと演奏する最大の魅力はそこにある」とウォルフガングはコメントしている。実際、オーストリア人のウォルフガングはここ数年、スコットとブライアンというトリオ仲間との絆を深め、演奏もより流暢になってきた。この成長は、ヨーロッパ、アメリカ、日本を跨ぐ数々のツアーを通じて磨き上げられてきたのだろう。タイトルが示す通り、本作は東京で昨年レコーディングされており、本トリオでの東京録音は2020年のアルバム『アンギュラー・ブルース』に続く2作目だ。トリオの3作目のスタジオ録音となる本作は、おそらく活動中のバンドだけが発揮しうる深遠なダイナミクスと繊細な相互作用の証左である。

ウォルフガングの作曲の背景にあるインスピレーションの一部は意外なものだ。彼はフォーク調の「ストラミング」におけるシンプルなギタリストとしてのアプローチについて、伝説的なソングライターであるボブ・ディランとレナード・コーエンを引用しているフォーク調の「ストラミング」、サンティアゴ巡礼の道でハイキングしながら書かれた「トラヴェルシア」、作曲家クルト・ヴァイルへの直接的なオマージュであり駄洒落を効かせた「ワイル・ユー・ウェイト」などさまざまなオリジナルを経て最後にポール・モチアンの「アバカス」を鋭く解釈した演奏で締めくくることで、ムースピールはジャズとECMの歴史の大きな断片を暗示しながらアルバムを包み込む。

ギター・トリオの演奏が心地よい、今秋のジャズの注目作品だ。

    

■作品情報

ウォルフガング・ムースピール『東京』
日本盤リリース: 10月1日 (輸入盤+デジタル:9月26日リリース)
UCCE-1218

ウォルフガング・ムースピール 東京

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ヘッダー画像:Photo © Tomoya Takeshita / ECM Records