170万人のSNSフォロワーを持つ“ノスタルジックな新歌姫”。絹のように滑らかなヴォーカルで、今を生きる音楽ファンにスタンダード・ナンバー/グレート・アメリカン・ソングブックの限りない魅力を伝えるステラ・コールが待望の再来日を果たした。昨年リリースのアルバム『It’s Magic』、去る2月に配信されたEP『My Funny Valentine』も話題を集め、ブルーノート東京公演も全セットがソールド・アウトに。勢いを増すばかりのステラに話を聞いた。

Stella Cole
『It’s Magic』

ステラ・コール It's Magic

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「両親がミュージカル映画の大ファンで、ある日『オズの魔法使』(原題:The Wizard of Oz)のビデオを家で見ていたところ、当時2歳だった私が大喜びしたらしいんです。あまりにも子供の頃のことですので、私自身は鮮明には覚えていないのですが(笑)。“この子がこんなに喜んでいるのだから、他の作品もどうだろう”ということで、『サウンド・オブ・ミュージック』、『メリー・ポピンズ』、『若草の頃』(原題:Meet Me in St. Louis)を見せてもらった頃には、すっかりミュージカル映画に夢中になっていました。

ノスタルジックなところ、心を穏やかにさせてくれるところ、テクニカラーの画面、音楽、衣装、女優さんたちなどに惹かれました。そのうち役者になってブロードウェイの舞台に立つのが夢になりましたが、大学では演劇のほかに国際法も学んでいたので、法律家や外交官になれたらいいなという気持ちもありましたね。いろんなクラブで歌い始めたのはパンデミックの後、2021年にシカゴからニューヨークに移り住んでからです」

間もなく、彼女の歌手キャリアを大きくステップアップさせる出来事が起こる。名プロデューサー、マット・ピアソンとの出会いだ。

「ニューヨークにやってきて間もなく友人になったサマラ・ジョイやパスクァーレ・グラッソを通じて、マット・ピアソンの名前は聞いていました。ある日、返事は戻ってこないだろうと思いながら彼にメールを送ったところ、翌日に“君のレコードを作ろう”と連絡が来たんです。そうして完成したのがファースト・アルバムの『Stella Cole』(2024年)でした。マットは本当に経験豊かな、何百もの作品に関わってきた素晴らしいプロデューサーで、たくさんのミュージシャンを知っていて、ブルーノート、ワーナーミュージック、ソニーといった大手レーベルでの経験があります。今はマネージメントも依頼していて、ユニバーサル・デッカとの契約も彼の力があって成立したのだと思っています」

Photo ©Sissi Lu

    

名匠アラン・ブロードベントとのコラボレーション

La Reserve Recordsからリリースされた『Stella Cole』、そしてメジャー・デビュー以後のアルバム『It’s Magic』、デジタルEP『My Funny Valentine』でピアノとアレンジを担当しているのはアラン・ブロードベント。アイリーン・クラールを筆頭に、シーラ・ジョーダン、シャーリー・ホーン、ナタリー・コール、ダイアナ・クラール、ポール・マッカートニー等、数えきれないほどの歌い手に極上のバックグラウンドを提供してきた彼とステラの組み合わせもまた、マット・ピアソンによる“名案”である。

「正直に言いますと、最初の頃は、アランのあまりの素晴らしさに圧倒されるばかりでした。彼は天才的なマエストロですからね。共に作業を続けていくうちに彼の優しさに触れて、感情で音楽を捉えていくところに共通点を感じるようになりました。『It’s Magic』のレコーディング中、歌っていて何度も涙がこぼれたことを覚えています。まさにマジックを感じたという言い方しか思い浮かばないのですが、録音に参加したストリングスには全米でも屈指の演奏家が集まっていて、アランも一緒にプレイしてくれて、ここにいられる私はなんて幸運なんだろうという気持ちに包まれました。

『It’s Magic』をウィズ・ストリングス・アルバムにしたのは・・・私は“オールド・ハリウッド・マジック”という言い方をするのですが、古き良きハリウッド映画が作り出していた魔法の世界を、私自身がアルバムで打ち出したかったからです。ハリウッドには華やかさで偉大なところもあるけれど、同時にどこかセンチメンタルというか、感傷的なところもあるでしょう。SNSが示すように、今の世の中にはどんどん速く流れてゆくところがあります。そんな世界をちょっと一瞬でも逃れて、アルバムを聴いているときは、バラードの世界に身を任せて心を穏やかにしてもらえたら。その思いも込めてウィズ・ストリングスで歌いました」

世の中にはスタンダード・ナンバーが星の数ほど存在する。ステラは歌詞と旋律のどちらにウェイトを置いて選曲しているのだろう。

「もちろん両方とも大切ですが、『It’s Magic』では気持ちをあげてくれるようなポジティブなラブソングを中心に考えました。基本的には、私がここ数年、夢中になっている楽曲ですね。歌詞の面では、自分にとって真実に感じられるような、共感できるものを選んでいます。あと、特徴を挙げるのなら、フランク・シナトラが専属歌手だった頃のトミー・ドーシー楽団のレパートリーを「セイ・イット」、「イマジネーション」、「フールズ・ラッシュ・イン」と3曲選んでいることでしょうか。一時期、彼らの楽曲ばかり聴いていたことがありました」

     

アルバムとは対照的な『My Funny Valentine』

「セイ・イット」といえば、少なくとも日本のジャズ・ファンの間では特にジョン・コルトレーンのサックス演奏で名高い。同曲の“歌入り”を、このアルバムで初めて聴くリスナーも多そうだ。いっぽう、よりくつろいだ、一種アフター・アワーズ的なムードが感じられるのが『My Funny Valentine』である。

「『It’s Magic』と同時期の収録ですが、ある種対照的な内容だと感じています。「マイ・ファニー・バレンタイン」はアルバムに入れずに、せっかくだからバレンタインの日にリリースしようと残していた曲です。「ザ・ニアネス・オブ・ユー」は、アランと2人だけで“なにか録音してみようか”とワン・テイクで取り組んで、続いてバンド・メンバーと共に「ユー・ゴー・トゥ・マイ・ヘッド」もレコーディングしました。その時の楽しい雰囲気がそのまま捉えられていると思います」

ところで、3月6日から国内公開されているリチャード・リンクレイター監督映画『ブルームーン』は、作曲家リチャード・ロジャースとの名コンビで知られる作詞家ローレンス(ロレンツ)・ハートを中心に描かれた一作(イーサン・ホークがアカデミー賞主演男優賞にノミネート)。この映画の評判や、ステラやサマラ・ジョイの精力的な音楽活動はどこかでリンクしているのではないか、今後さらにスタンダード・ナンバー/グレート・アメリカン・ソングブック再認識への波が高まってゆく契機となるのではないか、と、心をはずませてしまうのは筆者だけではないはずだ。

「ようやくそういう時代になったということなのでしょうか。私は、周りでジャスティン・ビーバーやセレーナ・ゴメスが大人気の頃にエラ・フィッツジェラルドやジュディ・ガーランドを聴いていた珍しい子供だったのですが、最近、私のフェイヴァリット・ミュージシャンでもあるレイヴェイやオリヴィア・ディーンのような、ヴィンテージな要素を取り入れた作風がクール(=かっこいい)という風潮が若者の間で出てきているようにも感じます。普遍の美しさがあるものは世代を超えて愛され続けてゆくんでしょうね。私のコンサートのお客様には、“両親や祖父母のこと、自分の子供の頃を思い出して涙が出た”という方もいらっしゃいます。グレート・アメリカン・ソングブックはノスタルジーや愛情を感じさせる音楽であり、楽曲が本当に美しいところも大きな魅力だと思います」

フェイヴァリット・シンガーについて尋ねると、ルイ・アームストロング、エラ・フィッツジェラルド、ペギー・リー、ビリー・ホリデイ、ジュディ・ガーランド等の名が次々と挙がった。こうした面々が歴史的な傑作を残した名門レーベル“デッカ”から、今、ステラは作品を出している。

「今もデッカのロゴマークのついたアナログ盤やCDを見つけては買っているほど、大好きなレーベルです。パンデミックの頃にたまたま自分が歌っている映像をSNSに投稿して以降、デッカに録音するまでの歩みは、私自身も信じられないほどです。投稿した映像には“すごくいいね、新鮮に感じる”といったコメントが多く寄せられて、やっぱり多くの若い人はグレート・アメリカン・ソングブックをここで初めて耳にしたのかなと思いました。今、そうした音楽をよりたくさんの人に紹介できていることがとても幸せですし、その意味では目標の半分はすでに達成されたような気もします」

     

Stella Cole
『It’s Magic』

ステラ・コール It's Magic

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ヘッダー画像:Photo ©Sissi Lu