音楽とレコード店の文化を祝い、音楽の魅力を共有するためのイベント、RECORD STORE DAYが開催される春と秋は毎年、強力な作品がリリースされ、音楽ファンにとって心躍るシーズンとなっているが、今年は超強力なジャズ・アルバム5作品が発表され、とびきり嬉しいものとなった。いずれのアルバムも、ジャズ史を揺るがす驚愕の未発表音源を数多く発掘し、“ジャズ界のインディ・ジョーンズ”との異名をとるゼヴ・フェルドマンがプロデュースした未発表音源による作品。レゾナンス・レコードとエレメンタル・ミュージックという2つのレーベルで制作された5タイトルをレーベル別に紹介していこう。

レゾナンス・レコードは、1960年代半ばからレコード・プロデュースとエンジニアリングの両面で活動してきたジョージ・クラビンと、ポリグラムやコンコードなどさまざまなレーベルでマーケティングを担当してきたゼヴ・フェルドマンのふたりが2008年に共同で設立した非営利レーベル。これまでにウェス・モンゴメリーやビル・エヴァンス、ソニー・ロリンズら数多くのジャズ・レジェンドの未発表音源作品をリリースするほか、ポリー・ギボンズやタワンダら気鋭のシンガーのアルバムも制作している意欲的なレーベルだ。今回は、ケニー・ドーハム、フレディ・ハバード、チャールス・ミンガスという3アーティストの未発表ライヴ・アルバムが新たにリリースされた。

    

■ケニー・ドーハム『ブルー・ボッサ・イン・ザ・ブロンクス:ライヴ・フロム・ブルー・モロッコ』

The Five Spot NYC 1967 ©Raymond Ross Archives (CTSIMAGES)

本作と、次に紹介するフレディ・ハバード作品はともに、1960年代後半にブロンクスで営業していたジャズ・クラブ、ブルー・モロッコで録音されたもの。ブルー・モロッコでのライヴは、バーナード・ドレイトンというレコーディング・エンジニアが、ラジオ局WLIBの人気番組“Jazz Night”で放送するために録音していたので音質も良好。会場の雰囲気がビビッドに伝わってくるのが嬉しい。1967年録音の本作では、タイトルにもなっている「ブルー・ボッサ」が聴けるのが最大の魅力だ。同曲は、ドーハムが作曲し、数多くのアーティストがカヴァーする人気スタンダードとなっているが、ドーハム自身の録音は、ジョー・ヘンダーソンのリーダー作『ページ・ワン』に参加しているトラックがひとつあるのみ。ジャズ・ファンが長年聴きたいと思っていた夢のライヴ・ヴァージョンだ。

ケニー・ドーハム
『ブルー・ボッサ・イン・ザ・ブロンクス:ライヴ・フロム・ブルー・モロッコ』

    

■フレディ・ハバード『オン・ファイア―:ライヴ・フロム・ブルー・モロッコ』

Photo by Freddy Warren ©Simon Whittle

このアルバムが録音された1967年当時、ハバードは29歳。名作『バックラッシュ』をレコーディングして勢いに乗るころのライヴだ。演奏するのは、フレディ以下、ベニー・モウピン(ts)、ケニー・バロン(p)、ハービー・ルイス(b)、フレディ・ウェイツ(ds)という当時のハバードのワーキング・バンド。随所で熱いブロウを繰り広げるハバードが素晴らしいのはもちろんのこととして、後年にハービー・ハンコックのフュージョン作『ヘッドハンターズ』で活躍するベニー・モウピンのハード・ボイルドなテナー演奏や、デビュー間もない当時24歳のケニー・バロンの軽やかなピアノが聴けるのも嬉しい。

フレディ・ハバード
『オン・ファイア―:ライヴ・フロム・ブルー・モロッコ』

    

■チャールス・ミンガス『ミンガス・イン・アルゼンチン:ブエノスアイレス・コンサート』

©Uberto Sagramoso

ジャズ史に大きな足跡を残す偉大なアーティスト、チャールス・ミンガスのライヴ・アルバムがリリースされるのも大きな喜びだ。本作は、ミンガスの1977年・南米ツアー中にアルゼンチンで開催された2回のコンサートを収録。ミンガス後期の傑作のひとつ『クンビア&ジャズ・フュージョン』を録音した直後とあって、ミンガス自身も好調そのもの。23歳のリッキー・フォード(ts)、31歳のジャック・ウォラス(tp)という、当時売り出し中のパワフルなふたりをフロントに据えたホットな演奏を展開している。コンサートのミキシングを担当していたエンジニア、カルロス・メレロが所有していたテープが音源になっているので、コンサート・ホールにいるかのような臨場感で楽しむことができる。

チャールス・ミンガス
『ミンガス・イン・アルゼンチン:ブエノスアイレス・コンサート』

エレメンタル・ミュージックは、スペインの音楽プロデューサー、ジョルディ・ソレイがフェルドマンとパートナーシップを結んで2012年に設立したレーベル。新たに発見された音源の発表と、絶版になってしまった歴史的名盤のリイシューの2本の柱による作品制作を展開しており、その範囲はジャズだけでなく、ロック、ポップス、R&B、ソウル・ミュージックなど多岐に及ぶが、ジャズ分野では、ビル・エヴァンス、アーマッド・ジャマル、チェット・ベイカー、キャノンボール・アダレイら数多くのレジェンド作品をリリースし、ファンを喜ばせている。今回はビル・エヴァンスとアート・ペッパーの未発表ライヴ盤がリリースされた。

   

■ビル・エヴァンス『ファーザー・アヘッド:ライヴ・イン・フィンランド (1964-1969)』

Bill Evans Comblain la tour, 8 août 1964
Photo by Jean-Pierre Leloir (Leloir Archives)

1964年から69年にフィンランドで行われたエヴァンス・トリオの3回のコンサートを収めたアルバム。1964年にヘルシンキで開催されたチェック・イスラエル(b)&ラリー・バンカー(ds)とのトリオ・コンサート、1965年ヘルシンキ・ジャズ・フェスティヴァルにおけるニールス・ペデルセン(b)&アラン・ドウソン(ds)とのトリオ演奏[CD-1(8)にはリー・コニッツ(as)も参加]、そして1969年タンペレ大学でのエディ・ゴメス(b)&マーティ・モレル(ds)を迎えたトリオ演奏という、時代とメンバーの異なる3組のエヴァンス・トリオ演奏を、フィンランドの放送局が録音した鮮明なサウンドで再現。エヴァンス・トリオのスタイルの変化をコンパクトに味わうことができる魅力的なアルバムだ。

ビル・エヴァンス
『ファーザー・アヘッド:ライヴ・イン・フィンランド (1964-1969)』

    

■アート・ペッパー『アン・アフタヌーン・イン・ノルウェー:ザ・コングスベルグ・コンサート』

©Tom Copi

波乱万丈の生涯を送った不世出のアルト・サックス奏者であるペッパーは、1960年代後半~70年代前半に引退同然となっていたが、1974年に不屈のカムバック。それまでの空白期間を取り返すかのような精力的な活動を行ったが、本作は、1980年6月に出演したノルウェーのジャズ・フェスティヴァルでの未発表音源を収録したもの。コンサートのサウンドポートから録音したテープをもとにしたハイ・クオリティなサウンドが、ペッパーの熱演をドラマチックに伝えてくれる。

アート・ペッパー
『アン・アフタヌーン・イン・ノルウェー:ザ・コングスベルグ・コンサート』


ヘッダー:Photo ©Don Schlitten