ソロ・ピアノでのライヴ演奏の可能性、概念をも大きく変え、現代音楽を代表する孤高のピアニスト、キース・ジャレットの2016年に行われた最後のヨーロッパ・ソロ・ツアーからのライヴ・アルバム『ウィーン・コンサート 2016』がリリースされた。

『ウィーン・コンサート 2016』は、キース・ジャレットの2016年の夏に行われたヨーロッパ・ソロ・ツアーからリリースされる4枚目のライヴ録音作品で、『ミュンヘン2016』、『ブダペスト・コンサート』、『ボルドー・コンサート』に続くものだ。キース・ジャレットは2017年2月15日にニューヨークのカーネギー・ホールで行われたソロ・コンサートを最後に活動を休止、さらに、2018年に脳卒中を2回発症して麻痺状態となったため、2016年のこのヨーロッパ・ツアーが最後のソロ・ツアーということになる。

キース・ジャレット ウィーン・コンサート 2016

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ウィーンは1991年7月13日に行われた伝説のライヴ盤『ウィーン・コンサート』がすでにリリースされている思い出の土地でもあり、本作はその25年後に再び“音楽の都“で録音されたソロ・ライヴ・アルバムだ。

『ウィーン・コンサート』は世界で最も重要なオペラハウスのひとつ、ウィーン国立歌劇場におけるライヴで、即興の全2トラック、合計68分弱の収録となっている。40分を越える「パート1」は、いくつもの美しいメロディが連なり、「パート2」でさらに深く壮大な世界感に導いてくれる。

キース・ジャレット ウィーン・コンサート

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対し、『ウィーン・コンサート 2016』は、もう一つの重要なライヴ・ヴェニューで毎年ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニュー・イヤー・コンサートが行われることでおなじみのウィーン楽友協会黄金のホールで行われたライヴで、即興9トラックを含む全10トラック、合計約70分を収録している。前『ウィーン・コンサート』から25年もの年月が経ったものの、体力や気力の衰えなど一切感じさせることはない。

その瞬間瞬間に新しい音楽を形成するキース・ジャレットならではのソロ・コンサートの醍醐味を十分味わえる内容だ。曲は短くなり、自然発生的な音の渦や、静寂の中で和音が浮かび上がる曲、ゆったりとした旋律が引き出される曲、リズムが前面に押し出された曲、讃美歌的な曲、バラード、叙情的な衝動を屈折させてより抽象的にした曲、基本に立ち返ったようなブルース、ゴスペル・カントリー的な曲など、音楽の百科事典のような内容だ。キース・ジャレットはそれぞれの手で別々のパターンを展開し、それを織り交ぜる能力を際立たせており、またジャレットの音楽的ヴィジョンがいかに包括的であったかを思い起こさせる。アンコールに選ばれた「虹の彼方に」は、『ラ・スカラ』、『ア・マルティテュード・オブ・エンジェルズ』、『ミュンヘン 2016』などこれまでにもたびたびソロ・コンサート録音作品に登場してきたが、今作では少し異なるフレージングで演奏し、本作で描かれたストーリーを感動的に締めくくる。

聴き比べてみるのもとても興味深い新作だ。

キース・ジャレット ウィーン・コンサート 2016

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https://Keith-Jarrett.lnk.to/NewViennaPR


ヘッダー画像:©Roberto Masotti