前作の『Speak To Me』ではジョー・ヘンリーをプロデュースに迎え、バンドを拡大し、アンサンブルの比重を高めた新境地を聞かせてくれた。続く新作の『Scenes from Above』ではオルガン奏者を入れて、オルガン・カルテットという新たな編成を提示している。
ジュリアン・ラージ シーンズ・フロム・アバヴ (直筆サイン入りアートカード付)
Available to purchase from our US store.しかも、参加したオルガン奏者はジョン・メデスキ。メデスキ・マーティン&ウッドでの活動でジャムバンドのムーブメントをけん引した個性派を迎えた。オルガンジャズはギター相性がいい編成で1960-70年代にブルーノートが数々の名盤を生み出したことでも知られるが、ジュリアンはその伝統も視野に入れつつ、オルガンジャズに新たな領域を開拓しようとしている。しかも、そこに様々な「アメリカ的な音楽」の要素を散りばめている。ジュリアンらしい「アメリカーナ」的な探求も聴こえてくる。
そんな意欲作についてじっくりと話を聞いた。ジュリアン・ラージというアーティストが到達した高みを感じてもらえると嬉しい。
(取材通訳:丸山京子)
――『Scenes from Above』のコンセプトを聞かせてください。
実はずっと、オルガン奏者と一緒にレコードを作りたいと思ってたんだ。しかも、具体的にはジョン・メデスキ(John Medeski)とね。ただ、ギターとオルガンの組み合わせって、どうしても「ファンク寄りの作品になる」ってイメージがあるでしょ。実際、それはそれで最高だし、素晴らしい作品もたくさんある。
でも今回のチャレンジというか、夢だったのは、オルガン+ギターのカルテットで「詩的」な作品が作れないだろうか、ってことだったんだ。バラードがあって、空間があって、少しメランコリックで、余白があるような音楽。グルーヴ中心のファンクというより、もう少し魂の側面に触れるような感じとか、あるいはカリプソだったり、南米音楽にあるような精神性とかね。
だからこの作品の一番大きなアイデアは「この編成で、こういうアプローチは可能なのか?」という問いだったと思う。
――そのアイデアをジョー・ヘンリーに話した時、彼はどんな反応でしたか?
ジョーはすごく前向きだったよ。彼は本当に特別な存在で、僕が頭の中で考えていることを話すと、表面的な話じゃなくて、その奥にあるものをすっと見抜くんだ。彼が感じ取ったのは、僕が“自由”を求めているってことだったと思う。安心して信頼できて、思い切って演奏できて、少し危険なこともできる。そういう環境を探してるんだ、って。それを彼がそのまま言葉にして返してくれて、「ああ、そうだ。このバンドなら一番自由になれる」って自分でもはっきりしたんだ。すごく直感的で、しかもレベルの高いバンドなんだ。今回の作品はシンプルで、開かれている感じがあると思う。
――特に好きな、オルガンとギターの組み合わせのジャズ・アルバムって、何かありますか?
このプロジェクトのきっかけになったのは、2年くらい前かな、WasFestっていうイベントだった。ドン・ウォズ(Don Was)が企画したフェスで、ボストンで一夜限りで行われたものだったと思う。そこで彼から、「ブルーノートのアルバムを再現する企画をやらないか」って言われて、選ばれたのがグラント・グリーン(Grant Green)とラリー・ヤング(Larry Young)による『Street of Dreams』だったんだ。
もちろん、僕は子どもの頃からパット・マルティーノとジョーイ・デフランチェスコとか、ウェス・モンゴメリーとジミー・スミスもたくさん聴いて育ってきた。でも『Street of Dreams』に取り組んだことが特別だったのは、収録曲を学んでから、「アルバムの曲 → 僕のオリジナル曲 → アルバムの曲 → 僕のオリジナル曲」という構成で演奏したことだった。それをやってみて、「古い音楽も本当に好きだし、同時に、自分たちの曲もちゃんと同じ場に存在できてる」って感じたんだ。時代を越えてちゃんと機能してる感じがした。だから、出発点としては『Street of Dreams』かもしれないね。
――ハモンドオルガンって、ゴスペルと深く結びついていて、アメリカ音楽の中ではスピリチュアルで荘厳な側面もある一方で、とてもグルーヴィで楽しい楽器でもありますよね。オルガンとギターの組み合わせのジャズに、どんな魅力を感じていますか?
実は、僕がこの組み合わせで好きなところって、同時に一番難しいところでもあるんだ。ハモンドオルガンの音って、僕にとっては理想のギターの音なんだよ。
――ギターの音?
だって、豊かで、温かくて、歌っていて、ものすごく表情があるでしょ?だからメデスキと一緒に演奏すると、「ギターでちゃんと表現したいなら、相当表現しないと釣り合わないぞ」っていう感覚になる。そこがすごく刺激的なんだ。
それに、オルガンって、1音だけでとんでもない倍音を持っている。ドローバーの設定次第で、ピアノなら和音で弾くようなことを、たった1音で、立体的で豊かな響きとして出せる。音を詰め込まなくても、音楽に命を与えられるんだ。しかもジョンは本当にすごくて、スタジオで彼が和音を弾くと、 「え、今こんな音も鳴ってた?」って思うことが何度もあった。実際には弾いてない音が、倍音として聴こえてくるんだよね。それって、ソウルやゴスペルというより、オリヴィエ・メシアン(Olivier Messiaen)とか、古い教会オルガン音楽に近い感覚なんだ。だから正直、めちゃくちゃ鍛えられる。そこが好きなんだよ。
――オルガン+ギターの編成だと多くの場合はオルガン・トリオ、つまりドラム+ギター+オルガンの組み合わせで、ベースがいない形が多いですが、今回はカルテットですよね。
普通ならトリオになるよね。でも今回は、ホルヘ・ローダー(Jorge Roeder)に入ってほしかったんだ。それは僕だけじゃなくて、メデスキもケニー・ウォロセン(Kenny Wollesen)も、みんな同じ気持ちだった。メデスキと話した時も、「ベースありでもなしでもいけるよね」って言ったら、彼はすぐに「いやいや、ホルヘが必要だ」って。オルガンがベースラインも担当すると、どうしても役割が増えてしまう。でもホルヘがいると、彼が彼らしい仕事をしてくれて、全体が良くなるし、みんなが解放される。結果的に、僕らはもっと自由に演奏できるんだ。だからこのバンドにとって、ホルヘは本当に不可欠な存在なんだ。
――メデスキの参加が、このアルバムを特別なものにしていると思います。そもそも彼と知り合ったのはいつ頃で、どういう流れで今回のアルバム制作に至ったんでしょうか?
彼と最初にちゃんと関わったのは、かなり前だね。たしかMedeski Martin & Woodの結成20周年(2011年ごろ)あたりだったと思う。その頃、僕はジョン・ゾーンのプロジェクトで、Bagatelles(ジョン・ゾーンが2015年3月から5月にかけて作曲した300曲をまとめたソングブック)の作品群を演奏していた。メデスキはその中でもかなり重要な存在だった。4時間とか、時には12時間とか、マラソンみたいなコンサートを一緒にやって、みんなが入れ替わりで演奏するんだ。そういう現場で、何年も一緒に時間を過ごしてきたんだ。
その後、ニューヨークのLe Poisson Rougeで、Medeski Martin & Woodのアニバーサリー公演があった。その時はクリス・ウッド(Chris Wood)の代わりにリス・ライトキャップ(Chris Lightcap)が参加していて、さらにネルス・クライン(Nels Cline)やスティーヴン・バーンスタイン(Steven Bernstein)といったゲストもいた。当時、僕はネルスとよく一緒に演奏していたから、そこに呼ばれたんだ。それが、フルセットを一緒に演奏した最初の機会だったと思う。90分くらい、ほぼ即興でやった。あれはたぶん、6〜7年前かな。本当に素晴らしい体験だったよ。
それからも何年も話はしていて、実はこのアルバムって少なくとも3回は作りかけてるんだ。
でもそのたびに、「今じゃない」とか、「ちょっと方向を変えよう」とか、なんかタイミングが合わなかった。転機になったのは、サンフランシスコでこのカルテットでやったライブ。その時に、「これはもう、すぐレコーディングするべきだ」って確信したんだ。
――僕は大学生だった20-25年くらい前、僕もMedeski Martin & Woodの来日を観に行ったし、CDが出るたびに買っていました。あなたにとって、Medeski Martin & Woodはどんなバンドですか?
25年前っていうと、僕にとっても、彼らは「どこにでもいる存在」だった。名前もよく聞いてたし、何枚かは聴いてたけど、正直言うと、音楽を深く理解していたわけじゃなかった。ただ、「エッジが効いていて、冒険的なバンド」というイメージは強くあった。僕がすごく若い頃、スティーヴ・キモック(Steve Kimock)っていうギタリストとたくさん演奏してたんだ。彼はジャムバンド・シーンの人でね。だから当時は、「Medeski Martin & Woodも、きっとスティーヴと一緒にやってた音楽に近いんだろうな」って、勝手に想像してた。それで満足してたし、深く掘り下げることもなかった。
でも、ゾーンと演奏するようになって初めて、「ジョン・メデスキって、MMWの一員ってだけじゃないんだ」って気づいたんだ。ものすごいバンドのメンバーでもあり、同時に、ピアノも弾くし、あらゆる音楽をやる、途方もないミュージシャンがいる。そのことに、僕は何年も気づいてなかったんだよね。
――今回、ジョン・メデスキが参加してるのはアルバムの大きな特徴ですよね。彼はハモンドオルガンを中心に演奏していて、しかも“メデスキならでは”の弾き方があります。ハモンドオルガンはすごく特殊で、エフェクティブなサウンドを作れる楽器だと思うんですが、ジョン・メデスキにはどんなハモンドの音を期待していたのか、求めていたのでしょうか
アルバムに「Ocala」って曲があるんだけど、あれで彼が使ってる音がまさに一つのイメージだった。ジョン自身が「これはアル・グリーン(Al Green)のオルガン・サウンドみたいな感じ」って言ってたことがあって、僕もそれはまさに「こういうのを想像してた」って思ったんだ。明るさがあるんだけど、同時に甘さもある。
それと、低いところがゴロゴロ鳴るような、ゴスペルっぽいレスリー・スピーカー(Leslie speaker)の揺れも思い描いてた。大きいうねり、スウェルみたいなやつね。たとえばオープニング曲の「Opal」。曲の途中からオルガンがだんだん大きく膨らんでいくところがあるでしょ。あれがさっき言ってた、“ギターでもそれができたらいいのに”って思うようなやつなんだ。「ジョン、頼むから、ああいうのやってくれ」って心の中で思ってたし、実際に彼はやってくれた。最高だったよ。
――僕はこのアルバムを聴いて、オルガンが出せる響きの多彩さや空間的な鳴り方をこれだけ聴かせる作品って、なかなかないなと思いました。
うん、それがジョンの手腕。彼は“空間の力”をわかってるんだよね。さっきも話したけど、彼は「ここだ」って時に、1音を長く伸ばす。ただそれだけなのに、たくさんの音や和音を重ねるより、ずっと強くて効果的だったりする。彼には無限のサステインがあるし、それをいつ、どう使うかを理解してる。だから、グランドピアノでも、ローズ(Rhodes)でも、ウーリッツァー(Wurlitzer)でも、もちろん別のギターでも、同じことは起きない。オルガンだからこそ、ジョンだからこそなんだ。
レコーディングが終わってから何度も聴き返したんだけど、そのたびにジョンにメッセージしてた。「今ここで何やってんの?」「ここのこれ、どうなってるの?」って。録ってる時は、彼がやってたことの半分も聴き取れてなかったと思う。聴き方がわからなかったんだよね。でも今聴くとわかるんだ。「うわ、彼ここで80個くらい超重要なことやってるじゃん」って。今はそれに気づいていくのが、めちゃくちゃ楽しいんだ。
――あなたが要求しているのかと思ってましたよ。
僕は「何が起きてるのか」わかってなかったからね(笑)。ただ現場に行って、一緒にやった、みたいな感じだよ。
――今回、ハモンドオルガンの音色そのものを意識的に聴かせる曲やアレンジが多い気がします。持続音(ドローン)もかなり使われている印象がありますが、その辺は作曲の段階から想定していたんですか?メデスキがどう弾くかまで考えながら書いていたんでしょうか。
“どう弾くか”は想像できなかった。でも“ジョンという人”のことは考えてたよ。ジョンって、すごい聞き手だし、会話も上手いし、頭が良くて、めちゃくちゃ面白い。だから僕は、ジョンが入れる余白がある音楽、つまりスペースが残っている音楽を書こうとしてたんだと思う。ただ、彼が実際に何をやるかは、本当に想像できなかった。何度か、PCに打ち込んでオルガン音色で試したりもしたけど、全然わからなかったよ(笑)。
でもね、必要なことは彼が必ずやる、っていう全面的な信頼があった。だから僕はすごく開かれていたと思う。実際、やってみたけど機能しなかった曲もたくさんある。リハーサル時間が限られてたから、前日の夜にたくさん曲を通して、最終的に「これなら信頼できる」って感じた曲を選んだんだ。一方で、「いつかジョンとやりたい曲」はまだ他にも山ほどある。もっと探究が必要な曲もあるしね。それはまた別のアルバムになるかもしれないね。
――1曲目の「Opal」は、ほとんどドローンですよね。
そう、ドローンだね。僕ならああいう発想はしなかったと思う。
――あれもメデスキが考えたと…
そう。たぶん僕だったら、「もっといろいろやらなきゃ」とか 「ソロを取らなきゃ」とか 「ここでメロディを弾かなきゃ」とか、そう考えちゃってたと思うんだ。でもジョンはずっとドローンのままいった。それがものすごく効果的だったんだ。ほんとにすごいよね。
――じゃあ「Solid Air」もメデスキのアイデアだと。彼の存在感が強い曲ですよね。
そうそう、あれは完全に彼が“そこにいる”曲だよ。あの曲は2部構成みたいになっていて、最初のフレーズはほとんどオルガンのためのフィーチャーなんだ。僕も同じフィギュアを弾くんだけど、ジョンはもちろん、他のメンバーも好きな方向に動ける。そこから、いわゆるゴスペルの賛美歌みたいなパートに入る。声部が重なった和音があって、一定の動き方をして、そこからまた最初のオープンな部分に戻っていく。ジョンとバンド全体が前に出る構造だね。この曲は、ソングライターのジョン・マーティン(John Martyn)に捧げた曲なんだ。彼のアルバム『Solid Air』と、その中の曲「Solid Air」から取ってる。僕、この曲すごく好きなんだ。
――ジョン・マーティンのアルバムのどんなところが好きなんですか?
僕にとっては個人的な理由が大きい。子どもの頃、父と一緒にあのアルバムをよく聴いてたんだ。父はジョン・マーティンの大ファンで、たぶん彼がシーンに出てきた当時から追ってたんだと思う。でも僕自身は、長い間その音楽を思い出すことがなかった。今回このアルバムの準備をする中で、「もう一度向き合いたい音楽」を考えていて、ジョン・マーティンはその一人だったんだ。
それで彼の録音に合わせてギターを弾いてみたりして、改めて思ったんだけど、ジョン・マーティンって本当に唯一無二なんだよ。ソングライターとしても、ギタリストとしても、シンガーとしても、誰にも似てない。僕にとってすごく感情的で、喚起力が強い。それを聴くと、いろんな景色が立ち上がってくる。
そこで思い出したのが、リッチー・ヘヴンス(Ritchie Havens)なんだ。今回のアルバムには「Havens」って曲も入ってるけど、あれはリッチー・ヘヴンスに捧げた曲。この二人のソングライターって、ものすごくユニークで、それぞれ唯一無二なんだけど、声の次元とか、音楽の次元みたいなところで、どこか似てるところもある気がする。まあ、とにかく僕が言えるのは、僕は子どもの頃からジョン・マーティンが大好きだった、ってことだね。
――その「Havens」ですが、リッチー・ヘヴンスのどんな部分をキャプチャーしようとしたものなんでしょう?
彼の作品で、たしか『Mixed Bag II』だったと思うんだけど、その中で彼がボブ・ディランの曲「Sad Eyed Lady of the Lowlands」をカヴァーしてるんだよね。あれをすごくよく聴いてたんだ。大好きで。細かいことはあんまり覚えてないんだけど(笑)、とにかくその録音を何度も聴いて、その曲を聴いた時に自分が感じた感覚に近いものを、曲として書こうとしてた。「Havens」は、そういう流れで生まれた曲の一つだね。もちろん、僕らがリッチー・ヘヴンスそのものを再現してるわけじゃない。そんなの無理だよ。あれは彼の声だし、彼の存在そのものだから。でも、あの音楽には“スピリット”があると思うんだ。推進力があって、勢いがあって、ほとんど催眠的とも言えるような感覚がある。僕がリッチーの音楽に感じるのは、まさにそのヒプノティック(催眠的)な質感で、僕らがこの曲で触れようとしたのはそこなんだよね。たとえば「Havens」をライブでやるとしたら、いくらでも長くできると思う。もっと開けていくはず。アルバムではかなりフォーカスしてまとめてるけど、それでもずっと転がっていく感じは残してるつもり。そういう要素に惹かれて、リッチーへのトリビュートを書いてみたくなったんだ。
――リッチー・ヘヴンスって、アコースティックギターでひたすらグルーヴするというか、フォークギターをドラムみたいに鳴らす人ですよね。
うん、まさに。それでね、ジム・ホール(Jim Hall)がリッチー・ヘヴンスのことをよく話してたんだ。ジムは彼が大好きだった。もちろんリッチーを嫌いな人なんていないと思うけど(笑)、でもジムがあそこまで理解して、魅力をわかった上で語ってたのがすごくかっこいいなと思って。それが僕にとっても、“あの美しさ”をちゃんと見る助けになった気がする。それに、みんなそうだと思うけど、ウッドストック(Woodstock)の映像で、リッチーが「Motherless Child」を歌って弾いてるのを見ると、もう……あれは史上最高レベルのパフォーマンスの一つだよね。
――ハーモニーを展開させるわけでもないし、装飾もしないし、ソロもあんまり弾かない。でも、強烈なアコースティックギターの音だけで、とてつもない印象を残す人ですよね。リッチー・ヘヴンスを聴き返していて、彼みたいな人って他にいないのかなとも思うし、彼ってどういう系譜にいるんだろう、って考えたんですよね。系譜ってことだと彼の前に誰がいて、彼の後に誰がいると思います?
正直、ちゃんと勉強して答えられるほどの知識はないんだ。どこから来たのか、僕もよくわからない。50年代に何が起きてたのか、とかも含めてね。でも、僕が「似たスーパーパワー」だと思うのは、ビッグバンド/オーケストラでのフレディ・グリーン(Freddie Green)だよ。彼ってリズムギターとしての声が完全に確立していて、聴けばわかるし、感じればわかる。ソロを弾かなくても成立してるんだ。だから僕の中では、リッチー・ヘヴンスとフレディ・グリーンには、どこか繋がりがある気がしてる。ただ、それ以上は……はっきりとは言えないな。
他の例で言うと、トニー・ライス(Tony Rice)もいるかもしれない。トニーはとんでもなく素晴らしいソリストでもあるよね。でも彼のリズムギターはすごく象徴的だし、そこはジム・ホールのリズムにも通じる。ジムのリズムって、ある意味フレディ・グリーンのリズムの延長でもあるしね。でも“リズムギターだけを研究したい”って思える人って、実はそんなに多くない。
僕が面白いと思うのは 「コードを弾いてるからソロじゃない」なんて、どの教科書にも書いてないってことなんだよね。コードも表現だし、リズムも表現だ。でも僕らは、単音のラインのほうを“正統なソロ”だと思いがちだよね。それって結局、サックスやトランペットの発想とか、ピアノの右手の発想にフォーカスしてるからなんだ。そういう意味で、リッチー・ヘヴンスはすごくいいリマインダーになる。それに、例えばブッカ・ホワイト(Bukka White)みたいなブルース・ギタリストを聴くとわかりやすい。彼は歌に寄り添うリズムをずっと弾いてるんだけど、歌が止まった瞬間、その下で鳴ってるものがそのままソロに聴こえるくらい説得力がある。めちゃくちゃ強いんだ。だから、たぶん“伝統”は確実にある。ただ僕らがそれをあまり言葉にしてないだけで、存在してることはみんな知ってるんだよね。
――なるほど。僕も「Havens」ってタイトルを見て、リッチー・ヘヴンスを意識してるのかなと思って、彼のアルバムをいろいろ聴き直したんです。それで誰に近いのかなって考えながら、オデッタ(Odetta)を聴いたり、レッドベリー(Lead Belly)を聴いたりしてました。だから、さっきの話はすごく面白かったです。いろいろ聴かなきゃ。
君が挙げた二人、OdettaとLead Bellyは本当に大きいよね。今、思い浮かんだけど、たとえばキャット・スティーヴンス(Cat Stevens)みたいな人もいるかもね。あの世代のストロークの仕方って、どこか繋がってる感じがする。でも、正直僕も「これが系譜だ」って断言できるほどわかってるわけじゃない。ただ、そういうのを考えたり聴き比べたりするのは、僕も大好きなんだよね。たのしいよね。
――冒頭でカリプソって言ってましたよね。反映されているのは「Ocala」ですか?
うん、そうそう。まさに「Ocala」だね。カリプソって、ある意味どこにでもある音楽だと思うんだ。カリブ海の音楽だけど、たとえば、ハリー・ベラフォンテ(Harry Belafonte)を耳にして育ってる人も多いと思うし、そういう音楽は当たり前に世界に流れてる。それに、ソニー・ロリンズの「St. Thomas」もこの系譜の中にあるよね。それで僕は、あのグルーヴやフィールってもっと知りたい世界だなって思うようになった。正直、ほとんど何も知らなかったからね。
それで、50〜60年代のカリプソを遡って聴き始めたんだ。「ロード・キッチナー(Lord Kitchener)」みたいに、“Lord 〜”って名前の人たちが多いでしょ。そういう曲を聴いてると、歌詞がきわどかったり、不適切だったりすることもあって(笑)。それがまた面白くてね。それまで僕は、カリプソをすごく単純なものとして理解してたんだけど、実はものすごく深くて、大きくて、多面的な音楽なんだって気づいたんだ。リズムも感触も大好きだし、曲の長さも好きだった。カリプソの曲って、ブルーグラスにある“定型”みたいなものがあって、基本の曲があって、そこにちょっと長くなる拡張部がついてくることが多い。ハリー・ベラフォンテの曲で「Mama Look-a Boo Boo」って曲があって、毎回コーラスごとにすごく印象的な展開が入る。「Ocala」では、その構造を意識してた。曲が2回あって、そこにプラスして上昇していくパートが加わる、みたいな感じだね。結局のところ、「自分はカリプソのことは何も知らなかった。だからもっと知りたい」って気持ちが一番大きかったんだと思う。今も正直、まだ何もわかってないけど(笑)、でもそのフィールが大好きなんだ。
――僕は昔からアメリカの音楽にとってカリプソってどういう意味を持っているんだろう?って疑問を持ってるんですよ。たとえばヴァン・ダイク・パークス(Van Dyke Parks)が、トリニダードの音楽にすごく惹かれていたりしますよね。だから今回、あなたがカリプソに触れているのを知って、すごく興味深く感じました。
それは本当に重要な視点だと思う。バハマやアンティグアを含めて、カリブの島々の音楽は、アメリカにとってものすごく近い存在なんだ。地理的にも近いし、その影響はずっとここにある。だからカリプソは、この国にとっても、世界にとっても、すごく重要な音楽だと思う。ヴァン・ダイク・パークスはいい例だよね。 彼を辿っていくと、ライ・クーダー(Ry Cooder)に行き着くし、さらにライに大きな影響を与えた人として、ジョセフ・スペンス(Joseph Spence)にも行き着く。そこには本当に驚くほど豊かな世界がある。何か一つを深く掘り下げると、そこから無数のミュージシャンやスタイル、アプローチに枝分かれしていく。それが本当に素晴らしいところだ。それに、カリブ海にはレゲエの世界、ボブ・マーリー(Bob Marley)のこともあるし、そこからR&Bやソウルへとどう繋がっていくか、っていう話もある。全ては繋がってるんだ。
昔、読んだ本で、ジェリー・ロール・モートン(Jelly Roll Morton)のインタビューがあって、彼が「スパニッシュの影響がなければ、本当のジャズは存在しない」って言ってたんだ。あれを読んだ時、すごく興奮したんだ。だって、ギター自体がスパニッシュの影響を持った楽器だからね。それまでは、ジャズの話をしていて、最初にスペインの話になることってあまりないでしょ。でも、チック・コリア(Chick Corea)がスペイン的な要素を前面に押し出したものを聴けば、一気に見え方が変わる。ジャズって、本当に全部が入ってる音楽なんだ。そう考えれば、カリプソがそこに含まれるのは、すごく自然なことだよね。特に、ソニー・ロリンズの話をする時、ワシントン・ハイツやハーレムに住んでいた西インド諸島出身の人たちの存在を考えれば、この音楽の誕生に、島々との繋がりがどれだけ大きかったかがわかる。
――今回すごく面白いなと思ったのが、オルガンといえばエレクトリックギター、というイメージが強い中で、オルガンとアコースティックギターの組み合わせの曲がいくつかあったことです。オルガンとアコースティックギターって、意外とあまりない組み合わせですよね。
その点に気づいてくれて嬉しいよ。実は、僕自身もそこはすごくワクワクしてたところなんだ。それができた一番の理由は、スタジオだったから。
――どういうことですか?
ヘッドフォンをつけて録っていたから、僕はそんなに大きな音を出す必要がなかった。
ライブだと、正直もっと難しいと思う。オルガンってどうしても音が大きくなるからね。
でもスタジオだったら、ジョンは向こうでオルガンを弾いていて、僕はこっちでアコースティックを弾くこともできる。あとは、エンジニアが僕の音量を上げてくれるだけ。それで、あの組み合わせが成立したんだ。実は、最初から計画してたわけじゃない。どんな音になるかも、正直わかってなかった。でも、試してみたら、すごく面白くて、みんなで興奮した。だから結果的に、これはこのアルバムにとってすごく重要な要素になったと思う。
――アルバムの最後に「Storyville」という曲がありますよね。ニューオーリンズの有名な地名から取られていますが、これはどんな曲なのでしょう?
「Storyville」は面白い曲でね。僕の中ではこのアルバムにとって “最重要の曲”だったんだ。ところが途中で「やっぱりアルバムから外そう」って思って一回外して、結局また戻して……っていう、そういう経緯がある。
なぜ重要だったかというと、まず作曲された素材がすごく少ないんだ。この曲は、ミュージシャンたちに向けた“呼びかけ”みたいなものとして作った。僕が書いたものをそのまま演奏する、というより、ただ「演奏しよう」っていう招待状なんだよね。メロディも短い。すぐに終わる。でもそこから先は、探検というか、オープンな場所に入っていく。それがこのアルバムのスピリットだと思っていて、だから最初はすごく大事に思ってた。ただ、作っていくうちに他の曲がどんどん前に出てきて、「もうこれは合わないかもしれない」って思って外した。でも、外すと外したで、今度はアルバムがしっくりこない。だからまた戻したんだ。
結局、アルバムを納品する直前の最後の最後で、全体がまとまった感じがある。この曲の力は、やっぱり“書いたものが少ない”ってところにある。だからこそ、全員のアイデアが必要になる。曲の中心は僕じゃなくて、僕が書いた“曲”そのものでもなくて、メンバー同士の相互作用なんだ。そこが好きなんだよね。
――この曲ではメデスキがフリージャズっぽいことをやってるのもあって、かなり自由な印象はありました。
まさにそう。それにメデスキは、ピアノとオルガン両方をやってるんだよ。オーバーダブもしてる。たしか、最初にオルガンを録って、そのあとピアノを足したんじゃないかな。とにかく、すごくフリーな曲で、録るのも楽しかったね。
――それで思ったんですが、このアルバムってニューオーリンズをテーマにした曲があって、フロリダの地名があって、カリプソの要素が入って、教会っぽい要素が入って、カントリーっぽい曲もある。 “アメリカ的なもの”が散りばめられたアルバムなのかなと感じたんですが、それは意識的にやったことですか?
うん、「Storyville」はすごく“パン・アメリカン(Pan-American)”だと思う。かなり“南部的”でもある。そういう地域の話をしてる時って、僕の中では、これは“呼びかけ”なんだよね。 「来い、来い、来い」って、叫んでるみたいな感じ。その呼びかけは、ニューオーリンズとも繋がってるし、ブラスバンドとも繋がってる。アルバム全体で見ても、まさにその通りで、それこそが『Scenes from Above』のコンセプトなんだ。いろんな“シーン”があって、それを上空から眺める。飛行機で国の上を飛んでると、窓の外にいろんなものが見えるでしょ。ああいう感じで全てが見えてくる。
――これは最後の質問なのですが、やっぱりオルガンが入ってることが一番大きなポイントだと思うんです。オルガンという特殊な楽器があることで、あなた自身の演奏も触発されて、これまでのアルバムとは違うものが出てきたんじゃないかなと思うんです。たとえばドローンがずっと鳴っていればギターの弾き方は変わるはずだし、オルガンの音色がどんどん変化していく中で演奏すると、普段と違うものが出るはず。自分の演奏にどんな変化があったのか聞かせてください。
まず思うのは、ギターを“メロディ楽器”として扱うときの意図の強さを、より意識させられたってことかな。というのも、オルガンがいると、僕はものすごく支えられてるんだよ。 音の“あったかい毛布”に包まれてるみたいな感じ。だからこそ、ギターで何かを言う時、ギターのフレーズがスピーカーから飛び出してくるようにする時、よりはっきり意思を持って弾かなきゃいけない。ただ流して弾くとか、なんとなく漂うとか、そういう感じだと成立しない。
「フレーズを言う」「リズムを言う」。ちゃんと「これだ!」ってものを弾く必要がある。オルガンが僕の中に火をつけてくれて、「要点に行け」って背中を押された感じがあるんだ。そこにすごくワクワクしたよね。それと、さっきも言ったけど、オルガンの音色、特にメデスキの音色は、僕にとって“理想のギターの音なんだ。だからギターの音色について、いつも以上に考えた。だから、アコースティックに持ち替えること自体が、ソロを弾くのと同じくらいの“貢献”になることがあった。音を変えるだけで、バンドの中の別の色が浮き上がるからね。そういう“オーケストレーション”の意識が、オルガンがいることで前面に出たんだ。オルガン編成は、その「配置」と「色」の考え方がよりはっきり見える。僕が感じた変化を言葉にすると、だいたいそんな感じかな。
■リリース情報
ジュリアン・ラージ シーンズ・フロム・アバヴ (直筆サイン入りアートカード付)
Available to purchase from our US store.ジュリアン・ラージ AL『シーンズ・フロム・アバヴ』
2026年1月23日リリース UCCQ-1228 SHM-CD ¥3,300 (tax in)
収録曲:
01. オパール
02. レッド・エルム
03. トーキング・ドラム
04. ヘイヴンズ
05. ナイト・シェイド
06. ソリッド・エアー
07. オカラ
08. ストーリーヴィル
09. サムシング・モア
10. アバディーン ※日本盤限定ボーナス・トラック
パーソネル:ジュリアン・ラージ (g)、ジョン・メデスキ (org, p)、ホルヘ・ローダー (b)、ケニー・ウォールセン (ds, perc)
プロデュース:ジョー・ヘンリー
ヘッダー画像:Photo © HannahGrayHall
