デビュー作『Sonicwonderland』が大きな話題となった上原ひろみ Hiromi’s Sonicwonderの、1年半ぶりとなるセカンド・アルバム『OUT THERE』がリリースされた。結成から約2年、多くのツアーをこなし「バンド力がより強くなった」という本人の言葉どおり、本作ではユニットとして目指す音楽の方向性がさらに明確化され、またバンド・コンセプトでもあるエレクトリック・サウンドも慣熟した感がある。

上原ひろみ Hiromi’s Sonicwonder
『OUT THERE』

上原ひろみ Hiromi’s Sonicwonder OUT THERE

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ではそれは具体的にはどういう音楽なのか。以下、曲ごとに考察してみよう。

■XYZ

世界に衝撃を与えたデビュー・アルバム『アナザー・マインド』のオープニングを飾った名曲の再演。超絶変拍子と複雑なキメのオンパレード、という全体の構成はオリジナル版と大きくは変わらないが、トランペットのアダム・オファリルが加わったこと、随所で隠し味的にエレクトリック楽器が用いられていることで、音楽はよりカラフルになっている。上原のソロ・パートでは、曲の中枢を成すベースのオスティナートを敢えてなくしたことで、より自由で、凝集的で、それだけに爆発力のあるパフォーマンスが炸裂。四半世紀近い年月が、彼女をどう変化させたかを教えてくれるトラックだ。

■Yes! Ramen!!

上原ひろみのラーメン愛はファンなら誰しも知るところ。なにしろ、やはりラーメン狂の同志、矢野顕子と『ラーメンな女たち』というアルバムを作り、彼女とのライヴは「ラーメンたべたい」でクローズするのが定番になっているほどなのだから。これはそんな上原のラーメンへの情熱が爆発したようなトラック。冒頭、シンセの中華風サウンドにのせてあらわれるトランペットは、まるで「ラーメン!」と言っているよう。メイン・セクションはスカのリズムになるが、これは東京スカパラダイスオーケストラとの共演が影響しているのだろうか。中盤、お約束のチャイニーズ・リフをはさんだあとは、エフェクトをかませたオファリルの、そして抑制的でありながら実は超絶的な上原のソロと続き、そのスペクタキュラーな流れはまさに“中国四千年の歴史”といった様相を呈している。

■Pendulum (feat. Michelle Willis)

上原の作詞・作曲によるナンバーで、矢野顕子とのコラボ・アルバム『Step Into Paradise』で発表された。今回の再演にあたり彼女は、自分の歌詞をもとに英語でリライトしてもらった上で、今大きな注目を集めているシンガー・ソングライターのミシェル・ウィリスをフィーチャーした(彼女と共演したデヴィッド・クロスビーは、ジョニ・ミッチェルやアレサ・フランクリンと並べてウィリスを激賞している)。共に詞を推敲したというだけあって、フォーキーかつスモーキーなその歌唱は、上原の書いたリリカルなメロディと完璧にリンクしており、矢野とのそれとはまた異なる世界を描き出している。中盤以降バンドが加わって、グッと視界が開けてくる感じも気持ちいい。

■OUT THERE

アルバム・タイトルにもなっているこの作品は、4部構成の組曲。“OUT THERE”という言葉には、「知らない世界へ飛び出そう」という思いが込められているという。

◎Takin’Off

印象的なピアノのリズム・リフに続いてあらわれるテーマは、複雑ではあるが訴求力があり、これから誘われる世界への期待感をいやが上にも高めてくれる。伸びやかなブリッジをはさんでまず上原のソロとなるが、最初探るように、しかし次第に饒舌になってゆくストーリー・テリングが見事。続くアドリアン・フェローとジーン・コイのソロも開いた口がふさがらないほどすごいが、必死感がまったくないところがクールだ。後テーマ前のポリリズミックなバンプは、次曲への伏線?

◎Strollin’

ゆったりとしたファンク・ビートと気持ちの良いコード進行に一瞬油断させられるが、シンコペーテッドなテーマを全員ユニゾンで奏して聴き手を幻惑させる“罠”も仕掛けられているので要注意(一所懸命数えてください)。オファリル、上原のソロは共に衒いのないストレートなものだが、歌としての完成度が半端ない。

◎Orion

前曲のモチーフだった3連符を引き継いだと思しきオファリルのフレーズに続いて上原とフェローの自由なインプロヴィゼーションとなり、ピアノの美しいアルペジオから叙情的かつ壮大なテーマに入っていく。ダブル・テンポでのオファリルのスリリングなソロを経て、上原のパッションを迸らせたピアノが曲をクライマックスへと導いていく。

◎The Quest

そのタイトルどおり、新たな冒険への期待と希望を感じさせるナンバー。7拍子を基調に様々なビートが交錯するが、そんなことは忘れてしまうほど曲想は多幸感に満ちている。上原のソロは本作中ハイライトのひとつと言ってもいいほど強力で、何度でも無限に聴けてしまう。終盤のゴスペル・ライクなセクションも実にエキサイティングで、圧倒的な盛り上がりのなか、曲は大団円を迎える。

■Pendulum

③のソロ・ピアノ・ヴァージョン(上原によればこの曲は元々ソロ・ピアノとして生まれたのだそうだ)。滴り落ちる雨粒のように繊細この上ない前半部分と、調性感の解像度が上がり音楽の輪郭がクリアになってくる後半部分のコントラストが、曲に得も言われぬパースペクティヴをもたらしている。

■Balloon Pop

シンセの愛らしい音色とメロディがユーモラスなナンバー。構成も、テーマ→ソロ→8バースのチェイス→テーマ、と見かけはオーソドックスなジャズ・マナーだが、中身の複雑さは尋常ではない。難解なのにキャッチーなコード進行。トリッキーなリズムのセカンド・リフ。絶妙に効果的なエレクトリック・サウンドの挿入。そしてもちろん各人の目を瞠るソロ。と、情報量過多な曲であるにもかかわらず、理屈抜きに聴き手をハッピーにしてくれるところに、この人の根っこにある音楽観が端的に示されているように思う。

上原ひろみ Hiromi’s Sonicwonder
『OUT THERE』

上原ひろみ Hiromi’s Sonicwonder OUT THERE

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CD ※初回限定盤・通常盤共通

1. XYZ
2. Yes! Ramen!!
3. ペンデュラム feat. ミシェル・ウィリス
4. OUT THERE: テイキン・オフ
5. OUT THERE: ストローリン
6. OUT THERE: オリオン
7. OUT THERE: ザ・クエスト
8. ペンデュラム
9. バルーン・ポップ

All Songs Composed by 上原ひろみ
ペンデュラム:Lyrics by 上原ひろみ&ミシェル・ウィリス

Hiromi’s Sonicwonder
上原ひろみ:piano & keyboards
アドリアン・フェロー:bass
ジーン・コイ:drums
アダム・オファリル:trumpet, w/pedals
ミシェル・ウィリス:vocals on 3

2024年8月13日~17日、ニューヨーク、パワー・ステーション・アット・バークリーNYCにて録音

初回限定盤DVD
・ レミニセンス (2023 東京国際フォーラム ホールA)
・ ソニックワンダーランド (2024 ブルーノート東京)

【UNIVERSAL MUSIC STORE特典情報】
・直筆サイン入りポストカード   ※特典はなくなり次第終了となります。


ヘッダー画像:Photo © Mitsuru Nishimura