その繊細なタッチと美しい旋律で“ピアノの詩人”と賞賛されるピアニストで、30年以上ジャズ界の最前線で活躍するヴェテラン・ピアニスト、フレッド・ハーシュが昨年リリースになったソロ・アルバム、『サイレント、リスニング』につづき、ECMからの初トリオ作品『ザ・サラウンディング・グリーン』を6月にリリースすることが発表され、先行トラック「Plainsong」の配信がスタートした。

Plainsong

深く研ぎ澄まされた三者間のコミュニケーション、洗練された、しかし控えめなセンスに裏打ちされた見事なインタープレイが聴きどころの本作でハーシュは、ドリュー・グレス(ベース)、ジョーイ・バロン(ドラム)と共に、スタンダードからあまり演奏されることのないジャズ曲まで、20世紀に作曲された曲の数々と3曲のオリジナルに取り組んでいる。

ドリューとジョーイはハーシュの長年の仲間で、それぞれ80年代初期と後期からフレッドのもとで演奏してきた。しかし、この作品はトリオとして初のスタジオ録音であり、数十年の経験によって形作られた彼らの卓越した集団的アプローチは、すべての曲で聴くことができる。

「ジョーイはダイナミクスの天才だから、オーディトリオでお互いの音を聴くのはまったく問題なかった。ドリューの演奏は、例えば『Plainsong』や『The Surrounding Green』では、ハーモニーをどうやり過ごすか、どこで一時停止し、どこで次に進むか、とても信頼されている。このアルバムでは、本当に歴史を聴くことができると感じている!相互作用の成熟度、音の世界、そして繊細さを感じてもらえたらと思う」とハーシュはコメントしている。

ハーシュ自身の作品は叙情的な激しさが印象的で、「Plainsong」では精巧なハーモニーと織り成す対位法が輝き、タイトル曲 「The Surrounding Green」では時代を超越したメロディの発明があり、「Anticipation」では抗いがたいブラジリアン・グルーヴがある。Plainsong “のソロ演奏では、メロディの親密さがすでに紹介されていたが、ここで聴かれるトリオ編成は、ベースとドラムが新鮮なパルスを加え、ハーモニーの次元を広げることで、静かに啓示的なものとなっている。タイトル曲と 「Anticipation」はハーシュのソングブックに新たに加わった曲である。

新曲を書くときのアプローチについて、ハーシュは通常45分という限られた時間の中で作曲すると主張する。「モンク、ウェイン・ショーター、デューク・エリントン、ケニー・ホイーラーなど、彼らの曲の多くは譜面上では大したことがないように見えるが、一種の世界を持っている。モンクが書いた曲はすべて86ページに収まっているんだ。私は、良い曲には2つ以上の本質的な要素は必要ないと信じている。そして、演奏者が何でも持ち込めるような、演奏していて楽しい曲であることだ」とコメントしている。

オーネット・コールマンの 「Law Years」をトリオで演奏すると、ポスト・フリーのスウィングが楽しめるし、エグベルト・ジスモンチの 「Palhaç 」では、繊細なトリオの掛け合いがエレガントな旅を演出してくれる。また、ガーシュウィン兄弟の「Embraceable You」では、ピアニストと伴奏者が伝染するようなノンシャランさを誇っている。また、チャーリー・ヘイデンの「The First Song」では、哀愁を帯びたメロディの心にしみる質感を追求している。故ベーシストは、1987年のハーシュの初期のスタジオ・デートに、ドラムのバロンとともに参加している。この曲に対する彼らの親密な絆は終始明らかで、特に心を揺さぶる解釈となっている。

惜しくも昨年来日公演が急遽中止になってしまったフレッド・ハーシュだが、ぜひ今年は日本のステージに戻ってきくれることを期待したい。

    

■フレッド・ハーシュ プロフィール

1955年、オハイオ州、シンシナティ生まれ。
即興演奏家、作曲家、教育者、バンドリーダー、コラボレーター、レコーディング・アーティストとして、30年以上にわたってジャズ・ピアノの流れを形作ってきた、現在ジャズにおける重要人物の一人。
USヴァニティ・フェア誌で「過去10年間のジャズ界で最も目を見張るような革新的なピアニスト」、L.A.タイムズ誌では、「音楽的発明のエレガントな力」、さらにニューヨーカー誌では「生きる伝説」と絶賛されている。 
グラミー賞に15回ノミネートされているほか、ジャズ界で最も権威のある賞を定期的に受賞しており、最近では、2021年ダウンビート批評家投票でジャズ・ミュージシャン・オブ・ザ・イヤー第2位、ジャズ・ピアニスト第3位に選出。また、仏ジャズ・マガジンでは2021年インターナショナル・ジャズ・アーティスト・オブ・ザ・イヤーにも選ばれた。
リーダーまたは共同リーダーとして50枚以上のアルバムを残しているハーシュは、待望の新作をリリースするたびに、常に惜しみない批評家の称賛と数々の国際的な賞を受賞している。
イタリア、トリエステ出身のトランペッター、エンリコ・ラヴァとのデュオ・アルバム『The Song is You』(2022年)でECMデビューを果たし、2024年4月にECMからの初ソロ作品を、そして2025年ECMからの初トリオ作品をリリース。

     

■作品情報

『ザ・サラウンディング・グリーン』
2025年6月27日世界同時発売

収録曲:

1. プレインソング Plainsong
2. ロウ・イヤーズ Law Years
3. ザ・サラウンディング・グリーン The Surrounding Green
4. パリャーソ (道化師) Palhaço
5. エンブレイサブル・ユー Embracable You
6. ファースト・ソング First Song
7. アンティシペーション Anticipation

〈パーソネル〉
フレッド・ハーシュ(p) ドリュー・グレス(double-b) ジョーイ・バロン(ds)

★2024年5月、スイス、ルガーノ、オーディトリオ・ステリオ・モロ RSIにて録音


ヘッダー画像:Photo © Roberto Cifarelli/ECM Records