百戦練磨の売れっ子ベーシストのネイザン・イーストの新作は、24歳のピアニスト/オルガン奏者である息子ノアとの双頭名義作だ。タイトルは、その名も『FARTHER SON』。まさしく、才ある父と子の忌憚のないやりとりが10曲強に落とし込まれている。以下の質疑応答は、25年11月のブルーノート東京での双頭公演のために彼らが来日した際に取ったもの。会話には出てこないが、同作にはメリー・クレイトン(1960年代後期にザ・ローリング・ストーンズと絡み脚光を浴びた喉自慢。彼女の2024年モータウン作はゴスペル作だ)が歌うアレサ・フランクリンのヒット曲「アンティル・ユー・カム・バック・トゥ・ミー」(元々はスティーヴィー・ワンダーの曲)や通受け激渋シンガーであるビリー・ヴァレンタインをフィーチャーした「ハード・タイムス」(レイ・チャールズ曲で、エリック・クラプトンも参加)といった歌ものR&B曲もそこには収められている。

ネイザン・イースト&ノア・イースト FATHER SON

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――ノアは1曲、お父さんのファースト・アルバム『ネイザン・イースト』(2014年)に参加していますよね。あのときは13か14歳?

ノア 「はい、13歳でした」

――そのころは、僕も大きくなったらミージシャンになるんだって思っていました?

ノア 「まさにあれを録音したときに、僕もこういう道に進みたいと思ったんだ。それで、それ以降父の仕事場に行ったりして刺激を受けてきた」

ーーその時は、すでにピアノを習っていたんですよね。

ノア 「子供のとき数年間クラシック音楽を勉強し、その後はジャズを勉強した」

――『FARTHER SON』ではハモンド・オルガンも弾いていて、その演奏がめちゃいい感じなんですが、オルガンは昔から弾いていたんですか。

ノア 「コロナウイルスのパンデミックのときに、オルガンを手に入れてを弾くようになった。YouTubeの動画をたくさん見たりしてね。時間だけはあったので練習したんだ」

――誰を手本にしたんですか。

ノア 「僕のヒーローは、ビリー・プレストン。オールド・スクールのレジェンドだったら、ジミー・マクグリフ、ジミー・スミスとかジャック・マクダフかな」

――オルガンでベース音を出すときは左手で弾きますか。それともフット・ペダル?

ノア 「両方だね。今もまだ勉強している」

――大学の時も音楽専攻だったんですか。

ノア 「カリフォルニア大学バークレー校に通って、音楽ビジネスを専攻した。音楽をやっていくんだったら、ビジネスのことも知っておく必要があると思ったから」

――とはいえ、小さい時からバリバリのプロの音楽家であるネイザンがいました。偉大な父親がいると自分はまったく違う道に進むぞと考える人もいると思いますが、それはなかったのでしょうか。お父さんはツアーで家を離れることも多かったのではないですか。

ノア 「そういう考え方する人もいるんだけど、ぼくはそういうふうには思わなかった。確かにTOTOとかツアーでずっと家にいない時も多かったけど、それも音楽家としての生活の一部なんだと理解していた。それに、一緒にツアーに連れて行ってもらえたりもしたしね」

――ちなみに今回、日本は何回目ですか。

ノア 「6回目。(父が参加する)フォー・プレイのときに一緒に来たり、川崎ジャズとか、エリック・クラプトンのときも来ている」

――ネイザンはノアにはミューシャンになってほしいと思っていました? それとも、本人の意思におまかせという感じでしたか。

ネイザン 「僕がやってほしいことを強制するわけにいかないよねえ。だけら、進みたい道に進めばいいと思っていたけれども、この道を選んでくれたのはうれしい。彼なりの音楽家になってくれればいいと思っている」

――さて、『FARTHER SON』についてお尋ねします。これを聞くと、お二人の関係は本当にうまくいっているんだなと痛感させられます。羨ましがる人もたくさんいると思いますが。

ネイザン 「親子は、人間関係の中でも一番重要な関係だからね。もし、ぼくたちの作業で他の人たちに刺激を与えられるんだったら非常にうれしい」

――今度の双頭名義作はいつ頃から作業を始めたんですか?

ネイザン 「2023年かな。そのころから曲を選び始め、アレンジしだした」

――当然ネイザンのこれまでの長い経験は活かされていますが、それとともにノアの秀でた部分をどう効果的に出すかということを練り、それにノアも応えているなと、これを聞いて思いました。

ネイザン 「うん。ノアのいろんな面を紹介したいと考えた。彼の美点が1番良く出ているのが、“ユートピアノア”という曲だと思う。これはアップライト・ベースとアコースティック・ピアノだけのデュオ曲で、僕たちの関係性が隠れようがないからね。この曲が僕たちの関係を一番語っていると思う」

――アルバムにはオリジナルもあればポップ曲もあれば、昔のスタンダードやジャズ曲もあるといった具合で幅広く選ばれていますが、どういう観点で選んだのでしょう?

ネイザン 「(ザ・ビートルズの)“イエスタデイ”、そして(ミュージカル『オズの魔法使い』の劇中歌)“虹の彼方に”は過去に僕のアルバムで演奏しているんだけど、今の僕たちを伝えるためにまた取り上げようと思った。それから、マツダ(松田聖子)さんが歌っている曲(ビージーズの「愛はきらめきの中に」)は、彼女の『SEIKO JAZZ 3』というアルバムを僕がプロデュースしノアがアレンジしたので、逆にゲストで入ってもらった。(クラシック曲の)“ポストリューディアム”はノアがピアノで練習しているのをたまたま聞いて、これをジャズっぽくしても面白いんじゃないかと思って取り上げた。あとは「キラー・ジョー」(クインシー・ジョーンズのヴァージョンが特に知られる、ベニー・ゴルソン作の有名曲)みたいな、みんな好きだろうと思い選んだ曲もあります」

――ライル・メイズの「クロース・トゥ・ホーム」も取り上げています。前にネイザンにインタヴューした際に、いろんな人の表現に関わることができたけどパット・メセニー・グループに入るのは夢だと言っていましたよね。これはライル追悼や彼が参加していたメセニー・グループ愛を表した選曲でしょうか。

ネイザン 「両方の意味合いもあるけど、実はエリック(・クラプトン)さんとの近さを示す曲でもあるんだ。エリックがこの曲がすごく好きで、彼の方から提案があったんだ。彼はショウでこの曲のさわりを弾いたこともあったんだ」

――こうして話を聞いていると、やっぱり人間関係って大事だなって思いますよね。

ネイザン 「それも出せていたらいいよね。絶対に、人間とはAIとは違うんだ」

――『FARTHER SON』にはいろんな属性を持つ曲が新たな表情を与えられ、おおらかに同じ地平に収まっていて、とても円満な気持ちになれます。そして、それこそははイースト親子の持ち味なんだろうとも思ってしまいます。

ネイザン 「そうだね。特にノアの才能というのは演奏だけじゃなくて、アレンジとか空間の生かし方のセンスが秀でているところ。だからこそ、いろんな曲を選びつつもアルバムには統一感があるんだと思う」

――今の発言はものすごく同意したいです。ノアの演奏ってさりげなく弾いても不思議な広がりを感じさせて、個性あるなと思いました。

ノア 「(はみかむように、微笑む)」

――たとえば、ピアノ奏者だとどういう人が好きなんですか?

ノア 「さっきライル・メイズの話が出たけど、彼の空間の使い方や音の選び方は素晴らしいし、影響を受けていると思う。あとは父の付き合いのある奏者で言うと2人のゴッド・ファーザーともいうべき存在がいて、1人はボブ・ジェームス。そして、もう1人はグレッグ・フィリンゲインズ(スティーヴィー・ワンダーやマイケル・ジャクソンのサポートで有名。ネイザンとはクラプトン・バンドやTOTOで重なったりもし、今作にも1曲参加)。その2人からも学ぶところは多大すぎる」

――ノアはアレンジも得意ということで、大きな編成のアレンジもできたりするんですか?

ノア 「興味があって、それは毎日勉強している」

――ネイザンは、今作ではアップライト・ベースは何曲弾いていますか。

ネイザン 「3、4曲。それは曲調に沿ってということだね。今回弾いているアップライト・ベースは250年前の素晴らしいものなんだ。デイヴ・カーペンター(ビッグ・バンド畑で、LAのスタジオ界でも活躍)が持っていたんだけど、彼が亡くなってしまい、奥さんが楽器店に売りに出したものを僕が買った」

――リーダーとしては、『FARTHER SON』がノアにとっては最初のアルバムになるんですよね。

ノア 「そう。自分のプロジェクトとしては初めてのもので、今はとても満たされた気持ち。そして、本当にうれしい。もともと居間で一緒に聞いていた曲を新たな形で取り上げて、世界に向かって発信できたことは感無量だな」

――次も、アルバムは一緒に作ります?

ネイザン 「一緒に作りたいね。もうアイデアはあって、すでに作業を始めている」

――ところで、ノアは父親の一番どういうところが好きですか。 

ネイザン 「(笑)」

ノア 「それはいい質問だな。今回一緒にスタジオにいて、そこで一緒に働く人たちとの関係の築き方がすごく上手だということに感心している。腕はいいのに人間関係を作ることが苦手だったりする人もいるけど、彼はそこらへんもすごく素晴らしい」

――では、逆にネイザンがノアのことを語ってください。

ネイザン 「子供の頃から絶対音感があったんだけど、ノアは年齢のわりにすごく成熟している。音楽の全体像を把握する能力に秀でているんだ。若いミュージシャンはどうしてもテクニックを見せびらかしたがるけど、そういうところはなくて音楽を全体として捉える感覚とか、そこにスペースを与える能力があるというところは自慢したいな」

ネイザン・イースト&ノア・イースト FATHER SON

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01. イントロ
02. クロース・トゥ・ホーム (feat. エリック・クラプトン)
03. ユートピアノア
04. マイ・フェイヴァリット・シングス
05. イエスタデイ
06. レミニス (feat. ジャック・リー)
07. ハード・タイムス (feat. ビリー・ヴァレンタイン&エリック・クラプトン)
08. 虹の彼方に
09. キラー・ジョー (feat. ヒューバート・ロウズ)
10. アンティル・ユー・カム・バック・トゥ・ミー (feat. メリー・クレイトン)
11. 愛はきらめきの中に (feat. 松田聖子)
12. 明るい表通りで
13. ポストリューディアム