
aron!(本名Aron Stornaiuolo)は、ノースカロライナ州シャーロット出身の現在22歳。クラシカルなジャズに独自のポップネスを融合させ、洒脱さとロマンチックなムードを漂わせた心地いいジャジー・ポップを聴かせるシンガー・ソングライターだ(彼は自身の音楽性を「シンガー・ソングライター・ジャズのようなもの」と言っている)。何しろギター、ヴォーカル、作詞作曲の能力に確かなものがあり、聴く者を心地よく……もっと言うなら幸せな気持ちにさせる才能と抜群のセンスを彼は有している。そのことは今回のショーケースでも実感できた。

aron! cozy you (and other nice songs)
Available to purchase from our US store.また筆者はこの日の昼間にインタビューしたのだが、ふにゃっとした柔らかな雰囲気を持ちながら人懐っこさもあり、「スタジオジブリの映画が好き」と言うから特にどの作品が好きかと尋ねると「ポニョ~~! 僕はポニョになりたいんだ」と無邪気に答える可愛らしさも。そうした側面からすぐにアイドル的な人気も出そうだなと思ったりもした。
「子供の頃、リビングルームでは両親が好きだったクラシック・ロックがかかっていたけど、僕はベッドルームでシナトラを聴いていたんだ」。そう話すaron!がギターを弾くようになったのは8歳の頃。「ロックもそれなりに好きだったから、初めは自分にできる限りのロック・ギターを弾いていた」「ヘヴィー・ロックが特に好きでね。だけどそういうのを歌える声を僕は持っていなかったんだよね」。
ギターを始めて大手楽器店で出会った当時80歳のジャズ・ギターの先生から受けた影響はずいぶん大きかったようだ。「譜面が読めるようになったのはその先生のおかげ。先生がいてくれたから僕はちょっと大人になれた。僕のメンターだよ」。そうしてジャズに対する思いが増し、また13歳のときに「JazzArtsCharlotte」という地元の音楽教育プログラム(NPO法人)に参加したことでプレイヤーとしてもっと上手くなりたいという向上心が高まった。ノースカロライナ芸術大学に進学すると、そこで作曲を真剣に学び、ショパンやラヴェルやバッハに対する理解も深めた(その頃はピアノを弾いていたそうだ)。それからマイアミ大学に全額奨学金を得て進み、ジャズ・ヴォイスと映画音楽を専攻。同じ頃、Sunny Side Up!というインディー・ポップ・バンドで自作の曲をギター演奏しながら歌い、パフォーマンスの力も身につけていったと言う。因みにそのバンドのメンバーたちは今も仲良しで、aron!のメジャー・デビューEP『cozy you(and other nice songs)』にも参加していたりする。

さて、そんなaron!が日本で初めて行なったショーケースの模様をレポートしよう。大きな拍手に迎えられて登場し、アコギを抱えたaron!の第一声は……「ハイ! フレンズ。(日本語で)トモダチ!」。そして「ここに集まってくれて、ありがとう。しかもこんなにたくさんの人がいるなんて!」と嬉しそうに言って、ギターを軽く爪弾いた。そうしてイントロなしで歌から始まった1曲目は、EP『cozy you(and other nice songs)』のオープナーでもある「cozy you」。甘くて伸びやかな歌声がよく響く。まさにcozy(=温かみがあって居心地がいい)。彼自身、さほど緊張している様子はなく、気持ちよさそうに歌っている感じだ。「cozy you」とは「あなたは居心地が良い」「あなたはくつろいでいる」といった意味で、文脈によっては「あなたは可愛らしい」といった意味でも使われるが、こうして集まった人たちの前で歌われるとまさに“みんなが気持ちよさそうに聴いてくれるから僕もリラックスして歌えるんだ”と伝えているよう。だから自然とこちらの居心地のよさも倍化する。心地よさを誘うための、ちょっとした催眠術みたいだ。
「ほんと、たくさんの人だなぁ。アイ・ラブ・東京、アイ・ラブ・ジャパン。日本に来るのは今回が初めてなんだけど、好きな食べ物も好きな服もあるよ。えーと、次の曲は“table for two”。楽しんで!」。そう言って2曲目に演奏したのはEPのリード曲で、軽やかな「table for two」。さりげなくも確かな腕前のギターと、少しくずしたヴォーカルが自然に混ざる。弾き語りとなれば、少しボサノヴァっぽい雰囲気もそこに。途中、「NO~、NONONONONONONO~~」のところで「一緒に歌える?」と言って観客たちに歌わせたりも。曲終わりのハイトーンがキレイだった。
3曲目は、EPでも3曲目に配置されていた「i think about u lots」。この曲は「“いつもキミのことばっか考えているんだよ”って実際好きだった人に言ったことがあって。で、それを口にしたときに“これ、いい歌詞になるな”って思って、あとで歌にしちゃったんだ」とインタビューで話していたが、そういうふうに彼はまさにそのときの気分を歌にすることが多いみたいだ。だからこんなに自然に、こんなにも力まず、目の前の誰かに語り掛けるようにさらっと歌えるのかもしれない。ギターもまた、テクをひけらかすようなところは1ミリもなく、言葉に寄り添うぐらいの感覚でさりげなく鳴らされる。その語りすぎなさが粋なのだ。
4曲目は、EPの最後に収められていた「eggs in the morning」。これもまた弾きすぎず、歌いすぎず。朝起きて、彼女がくつろいでいるそばで簡単な卵料理でも作りながら好きな歌を口ずさんでいる、そんな情景がイメージできる。大勢の観客を前に演奏しているといった力の入り具合ではなく、あくまでもそばにいる“キミ”だけに歌っているというような親密感がステキだ。まだ22歳なのにこんなに力が抜けていて風通しのいい生演奏ができるなんて! 度胸と経験がものを言っているのかもしれない。
拍手を受け、「ありがとう。もう1曲聴きたい? じゃあ、これはEPに入ってない曲なんだけど」と言って、最後にもう1曲。それは軽やかながらグルーヴもあり、メロディ的にも変化のけっこう多い都会的な曲だった。この曲を終えたあと、この日の進行を務めたディレクター氏からaron!への簡単な質疑の時間があったのだが、「最後にやった曲のタイトルは?」の問いに彼は「tandem bike」と答えていた。いつか音源になったものを聴いてみたいと思わせる、いい曲だった。

「初めてのショーケース、いかがでしたか?」の質問に、「本当に楽しかった。初めての日本で、やること全て初めてだったけど、いい経験になったよ」とaron!。あとで彼に聞いたら、この翌日にはプロモーションで韓国に飛ぶと言っていた。なんといっても若いので、こうしていろんな国を訪れることも好奇心いっぱいで楽しんでいる様子。これからaron!のcozyなジャジー・ポップが世界でどんなふうに受け入れられ、彼はどんなふうに進化していくのか、とても楽しみになった。
■イベント
aron! Special Showcase
ユニバーサルミュージック17階カフェテリアスペースにて
2025年7月15日(火) 19:00開演
演奏曲:
1. cozy you
2. table for two
3. i think about you lots
4. eggs in the morning
5. tandem bike
■aron! プロフィール
シンガー・ソングライター / ギタリスト / ピアニスト / プロデューサー
ノースカロライナ州シャーロットで生まれ育つ。
ギターに夢中になったのは8歳の時。『ギター・ヒーロー』というゲームがきっかけで初めてギターを手にし、地元の音楽学校のレッスンを受けるようになった。やがて、アメリカの大手楽器店サム・アッシュで御年80歳のジャズ・ギターの先生と出会う。その先生はaron!に楽譜の読み方を教え、さらにジャズへの情熱をかき立てた。
両親からパール・ジャムやレッド・ツェッペリンといったロック・アイコンを教えてもらって育ったが、ロックからジャズへと彼を突き動かしたのは、思春期の反抗心もひとつの要因だったのかもしれない。
その後、ノースカロライナ芸術大学でクラシックの作曲を学び、ショパン、ラヴェル、バッハへの理解を深めた。コロナ禍はピアノに専念し、毎朝7時30分に起き、88鍵で出来ることを探求し続けた。マイアミ大学の全額奨学金を得て、ジャズ・ヴォイスと映画音楽を専攻。同時にインディー・ポップ・バンド「Sunny Side Up!」で何十回ものショーに出演し、ライヴ演奏の腕を磨いた。
2023年、aron!は「ヴィンテージ・ポップ・サウンド」と呼ぶものを探求し、オンラインで強力な支持を集め始め、数多くのレーベルからも声がかかりった。
そして2025年、aron!は「cozy pop=居心地の良いポップス」をさらに発展させるために名門ヴァーヴ・レコーズと契約し、デビューEP『cozy you (and other nice songs)』をリリースすることとなった。
■リリース情報
aron! EP『cozy you (and other nice songs)』
2025年6月6日リリース

aron! cozy you (and other nice songs)
Available to purchase from our US store.トラックリスト:
1. cozy you
2. table for two
3. i think about you lots
4. a life with you
5. i hate it
6. eggs in the morning
ヘッダー画像:Photo @ alexandriapictures