アーロン・パークスの新作『By All Means』のスリーヴに用いられたタイポグラフィに見覚えがあると感じたなら、それは気のせいではない。それは、ジャッキー・マクリーンが1965年に発表した『イッツ・タイム』のスリーヴへの明確なオマージュであり、ひいてはモダニスト・ジャズの時代そのものへの敬意の表れなのである。

Aaron Parks - By All Means

アーロン・パークス By All Means

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『By All Means』は、シアトル出身のピアニスト、アーロン・パークスによる新作であり、ブルーノートからはバンドリーダー名義として3作目となるアルバムである。パークスは2000年代初頭、テレンス・ブランチャードのバンドの一員としてブルーノートに初登場し、その時点ですでに将来の輝かしいキャリアを予感させていた。14歳でワシントン大学の早期入学プログラムに参加した音楽家であることを思えば、それも当然の成り行きであったと言える。

パークスは、作曲的アプローチの二面性で知られている。バンドリーダーとしては、インディー、ロック、ヒップホップ、コンテンポラリー・ジャズといった幅広い源泉から引き出すことができる――特に彼のブルーノート初リーダー作『インヴィジブル・シネマ』は、アメリカン・ジャズの革新的な新星としての地位をさらに確かなものにした作品である。一方で、ジャズの伝統に真正面から向き合う際には、そのピアノ奏法もバンド運営もモダニスト的な枠組みの中で、同じく俊敏かつ高度な技量を発揮するのである。

アーロン・パークス
アーロン・パークス。写真:アイザック・ナミアス。

『By All Means』においてパークスは、後者の系譜――すなわちモダニスト的思考――から引き出し、和声の複雑性に関してはウェイン・ショーターらを参照している。アルバム全編に渡り、口ずさみやすい旋律がいくつも現れるが、だからと言って本作が「単純」であることにはならない。水面を静かに進む鴨のように、外からは穏やかに見えても、その前進を支えるのは水面下の忙しない足である。ここでは、正に和声が楽曲を推進させる原動力なのである。メロディとハーモニーのこの関係性によって、『By All Means』は対立を生まない穏やかな滑らかさを保ちながら、同時に豊富な創意を内包したアルバムとなっている。繰り返し聴くほどに新たな発見がある、そういう作品である。

また、本作をブルーノート前作『リトル・ビッグ III』と隔てる多くの要素の一つは、「夢」に起因する。2023年、42歳のパークスはポルトガルをツアー中に、近々行われるニューヨークの名門ヴィレッジ・ヴァンガードでの公演の夢を見た。彼は、長年ともに活動してきた優れたリズムセクション、ベーシストのベン・ストリート(ジョン・スコフィールド、カート・ローゼンウィンケル、マーク・ターナーらとの共演で知られる)と、1970年代初頭のハービー・ハンコックのエムワンディシ・バンドの一員であり、シャーリー・ホーン、スタン・ゲッツ、クエストとも仕事をして来たジャズ・マスター、ビリー・ハート、この2人と演奏することになっていた。3人は2012年から活動を共にしている。しかし、パークスはヴァンガード公演を前にして、このトリオに何かを「加えたい」という強い衝動に駆られたのである。

Aaron Parks - Little Big III LP

アーロン・パークス リトル・ビッグ III

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夢から目覚めたとき、パークスはサックス奏者をグループに迎え入れたいという思いを確信していた。その理由の一端には、ビリー・ハートが管楽器に対して「特別なやり方」を持っているという信念もあった。パークスには心当たりがあった。1年前、彼は31歳のサックス奏者ベン・ソロモンの演奏に強く心を動かされていたのである。ソロモンは、亡き名トランペッター、ウォレス・ルーニーの薫陶を受けた人物であった。そして話はすぐにまとまり、ソロモンはグループに新たな血とダイナミズムをもたらした。コルトレーン派の美学を吸収したその音楽性は、バンドに新鮮な空気を吹き込んだのである。この一連の公演を経てほどなくして、『By All Means』は最終的な姿へと結実した。

アルバムの中には、実にスウィングする瞬間がある。10代の頃に骨格を作ったという「Anywhere Together」や「Parks Lope」は、共にデューク・エリントンへのオマージュである。後者は、自身のぎこちない歩き方にちなんだ、ささやかな自虐的ジョークとして書かれた曲であり、家族のために書かれた2曲、慈愛に満ちた「For María José」と、2020年に誕生した第一子ルーカスのための子守歌「Little River」に続く構成となっている。「Little River」は三拍子で進む、アルバムの中でも比較的躍動感に富んだ1曲である。

自身の仕事を振り返りながら、パークスはこう語る。「このレコードはジャズの伝統、ブラック・アメリカン・ミュージックの伝統への愛に満ちている。でもノスタルジーや保存を目的としたものではないんだ。その系譜、その連続体の中で “生きている” という事が大切なんだ。タイトルが示すのはその事だよ。それは大きな“Yes”であり『よし!パーティーに参加しよう!』という意思表明なんだ」

パークスは『By All Means』を、影響を受けた多くの音楽、家族、バンドメイト、そしてジャズそのものへの感謝の気持ちを込めた作品と考えている。「何よりもまず、これは一緒に演奏し、ソング・フォームの上で互いに即興し合う喜びについての作品なんだ」とパークスは言う。「このレコードは、ただ音楽を愛するという事についての作品なんだよ」

Aaron Parks - By All Means

アーロン・パークス By All Means

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ヘッダー画像:アーロン・パークス。写真:アイザック・ナミアス。