
aron! cozy you (and other nice songs)
Available to purchase from our US store.少年時代に出会ったギター講師を通じてジャズに開眼した彼はいわゆるアメリカン・ソングブックに夢中になり、様々な音楽表現を専門的に学んだ末に、こうした蓄積をロマンティックでヴィンテージ感溢れるジャズ・ポップに昇華。自ら“cozy pop(居心地のいいポップス)”と命名した独自のサウンドを携えたそんなaron!が、まだ短くも実に豊かな音楽人生を振り返ってくれた。
――あなたが自分に音楽に才能があるかもしれないと初めて認識したのはいつでしたか?
たしか13歳の時、大人向けのサマーキャンプで、参加者の前であの古典的名曲「Cry Me A River」を歌う機会を得たんです。そうしたらみんなすごく感銘を受けた様子で、「へえ、歌で人々に喜びを与えることができるなんて、すごくクールなことだな」と感じたんですよね。あれが最初だったと思います。
――そういう20世紀のジャズ・スタンダード曲を知るきっかけを与えてくれたのが、あなたのギター講師だったわけですね。資料によると当時80歳の、ジャズ・ギターが専門の方だとか。
そうです。彼は一人暮らしで、家はものすごく散らかっていて、あちこちに新聞がうず高く積まれていて、やっとのことで僕と先生が座る椅子とギターとアンプを置くスペースを確保できたという感じでしたね。そこに通って、夜中の12時までレッスンを受けていました。と言っても、彼はいつも自分の人生について色んな話を聞かせてくれて、実際にギターをプレイしたのは最後の30分くらいでしたけど(笑)。
――まだ子どもだったあなたがジャズに惹かれた理由はなんだったんでしょう?
ジャズにはあまり壁が無いように感じたんですよね。自分の想いをリスナーに届けるにあたって、障害物が最も少ない気がするというか。ポップ・ミュージックを聞いていても、もちろん何となく言いたいことは分かるんです.でもジャズの場合はすぐに、「うん、そうだよね。僕もそれを感じる」と納得できた。アーティストが、自分が感じていることをそのまま、必要最低限の要素を介して表現していて、僕にとっては非常にコミュニケーション能力に優れた音楽なんです。
――当時はどんなアーティストを聞いていたんですか?
フランク・シナトラの曲はたくさん聞きましたが、ボブ・ディランもたっぷり。ボブは、ソングライティング力を磨くには絶対に聴かなければならない人。栄養源みたいなものです。ジョニ・ミッチェルもそうですね。
――高校卒業後はノースカロライナ芸術大学でクラシックの作曲を、マイアミ大学でジャズ・ヴォーカルと映画音楽を専攻。かつ、インディ・ロック・バンドのシンガーを務めていたとか。
今の時代、ミュージシャンになるためには可能な限り多様な表現方法を身につけて、多数の楽器を弾きこなさなければならないとアドバイスされたんです。それに、進路を決められずにいたということもあります。どれも楽しそうで、ひとつに絞れなかった。究極的には、ソングライティングや作曲にすごく惹かれましたね。
――そんな中で“cozy pop(居心地のいいポップス)”と呼ぶスタイルでデビューに至ったのはなぜでしょう?
まず重要なのは、“cozy pop”が僕の終着点ではないということです。これは今自分が鳴らしていて、すごく気に入っていて、僕をハッピーにさせてくれる音楽。でも飽きてしまう可能性もあるし、自分をもっと刺激してくれる音楽が見つかったら、そちらを試すと思うんですよね。というのも僕はこのEPを起点に、長い時間をかけて大きな弧を描くようにしながら活動したいと考えていて。次のステップは同じものにはならないかもしれない。でも、どんな音楽を作ろうともそこに必ず関連性が見て取れると思います。
――そしてヴァーヴ・レコードという歴史あるレーベルと契約に至りました。
はい。あまり考えないようにはしているんですが、レーベルについて訊かれるたびに「ルイ・アームストロングが僕と同じレーベルに所属していたなんてクレイジーだ!」と思い知らされます。それに、過去に活躍したアーティストたちの偉業を振り返ると、エラ・フィッツジェラルドが登場した時点で人間は音楽を作るのをやめて良かったんじゃないかと思ったりもする(笑)。でも、僕らは今も果敢に道を切り拓こうとしていて、そこにどんな意義があるのか日々答えを探しているところです。
――デビューEP『cozy you (and other nice songs)』はどんなコンセプトに基づいて作ったのですか?
全ての始まりは去年の春頃、僕はジャズ寄りの音源をInstagramに投稿していたんですが、すごく反響が大きかったことがこのEPを作るきっかけになりました。こういう音楽を気に入ってくれる人がそれほど大勢いるとは思っていなくて、想定外だったんですよね。で、興奮させられて、EPの収録曲を1週間で書き上げたんです。そして大学内のスタジオを借りて、友人たちの参加を得て2日間で全曲をレコーディングしました。
――レコーディング当時のあなたは学生だったんですね。
ええ。EPが完成したあとでヴァーヴと契約し、「あ、デビューEPならすでにありますよ!」という感じで(笑)。レーベルも出来を気に入ってくれて、そのままの形でリリースすることになりました。
――そしてあなたは、本作でプロデュースとアレンジも手掛けています。
スタジオでは僕が楽譜を書いて参加ミュージシャンに渡し、かなり具体的に自分がやりたいことを伝えました。そういう風に音楽監督の役割を務めるのが結構好きなんです。様々な音の要素がどう嚙み合ってストーリーを描くのかを考えるのは、すごく楽しいですから。そして可能な限りナチュラルさを心掛けてレコーディングしました。全員一緒に演奏し、僕もその場で歌って。とにかく“ヒューマンさ”をキープしたかったんです。もっとも、僕はそこまで歌が上手いわけではないのでヴォーカル音源は使い物にならず、あとで差し替えました(笑)。
――ソングライティングのプロセスについて教えて下さい。
これも曲ごとに違うんですが、ギターに触れる前に、まず自分の声とその時々に適当に思い付いた言葉だけで、曲に発展する可能性を探ることが多いですね。僕にとって言葉の感触というのがすごく重要なので。でも、最終的にどんな曲が生まれても構わない。どんな方法でやるにしろ、ソングライティングの作業そのものが楽しくて、興奮させられるんです。言葉を使った複雑なパズルみたいなものですからね。
――では、あなたが思う“グレート・ソング”の定義は?
具体例を挙げるならば、ジェイソン・イズベルの「Chaos and Clothes」、ボブ・ディランの「You’re Gonna Make Me Lonesome When You Go(おれはさびしくなるよ)」、ジョン・メイヤーの「You’re Gonna Live Forever In Me」といったところでしょうか。フィービー・ブリジャーズの曲も幾つか該当します。じゃあ定義は何か? きっと自分なりの基準があると思うんですが、端的に言えば、一定以上の数の人が素晴らしいと思えばそれは“グレート・ソング”になり得ると思いますよ(笑)。
――自分の作品でその基準に近付いたと感じた曲はありますか?
去年リリースした「only you」でしょうか。うまく曲に真実を封じ込められたと実感しています。それが全てなんでしょうね。本音を語り、それが聴き手に伝わるように曲を形作ることができればいい。他方で、ヒネリ過ぎるとグレート・ソングにはあたらないという場合もあります。「eggs in the morning」はあまりに具体的で普遍性が足りないし、「cozy you」は軽口を叩き過ぎている。「table for two」はいい線を行っているかもしれません。僕はアメリカン・ソングブックから学んだことをこれらの曲に反映できたと思うんですが、「グレート」と呼ぶにはそれぞれに不備がある。とにかくこれからも曲を書き続けて、グレート・ソングが生まれたら報告しますね(笑)。
――すでにファースト・アルバムのことも考えていますか?
ええ。まだ構想は深まっていないんですが、来年には作りたいですね。今もたくさんの曲を書いています。できるだけ多くの曲を用意して選択肢を広げて、30曲くらいレコーディングしてその中からベストなものを選びたいと思っています。
――最後にアーティスト名について教えて下さい。“aron!”の“!”にはどんな意味が込められているのですか?
メールを送る時にやたらたくさんの感嘆符を使うという、僕のクセに因んでいるんです。感嘆符がないメールを送ると、意地悪な印象を与えてしまうような気がして。だからアーティスト名も“aron!”と表記することにしました。「イヤなヤツだな」と思われないよう、念のために(笑)。
■aron! プロフィール
シンガー・ソングライター / ギタリスト / ピアニスト / プロデューサー
ノースカロライナ州シャーロットで生まれ育つ。
ギターに夢中になったのは8歳の時。『ギター・ヒーロー』というゲームがきっかけで初めてギターを手にし、地元の音楽学校のレッスンを受けるようになった。やがて、アメリカの大手楽器店サム・アッシュで御年80歳のジャズ・ギターの先生と出会う。その先生はaron!に楽譜の読み方を教え、さらにジャズへの情熱をかき立てた。
両親からパール・ジャムやレッド・ツェッペリンといったロック・アイコンを教えてもらって育ったが、ロックからジャズへと彼を突き動かしたのは、思春期の反抗心もひとつの要因だったのかもしれない。
その後、ノースカロライナ芸術大学でクラシックの作曲を学び、ショパン、ラヴェル、バッハへの理解を深めた。コロナ禍はピアノに専念し、毎朝7時30分に起き、88鍵で出来ることを探求し続けた。マイアミ大学の全額奨学金を得て、ジャズ・ヴォイスと映画音楽を専攻。同時にインディー・ポップ・バンド「Sunny Side Up!」で何十回ものショーに出演し、ライヴ演奏の腕を磨いた。
2023年、aron!は「ヴィンテージ・ポップ・サウンド」と呼ぶものを探求し、オンラインで強力な支持を集め始め、数多くのレーベルからも声がかかりった。
そして2025年、aron!は「cozy pop=居心地の良いポップス」をさらに発展させるために名門ヴァーヴ・レコードと契約し、デビューEP『cozy you (and other nice songs)』をリリースすることとなった。
■リリース情報
aron! EP『cozy you (and other nice songs)』
2025年6月6日リリース

aron! cozy you (and other nice songs)
Available to purchase from our US store.トラックリスト:
1. cozy you
2. table for two
3. i think about you lots
4. a life with you
5. i hate it
6. eggs in the morning
ヘッダー画像:Photo © alexandria pictures