半年から1年といった時間をかけて1枚のアルバムを制作するアーティストがいる一方で、アイデアと音楽に溢れ、新たな楽曲が絶えず湧き上がるアーティストも存在する。自分たちのアイデンティティを見つけ、スターダムに登るアーティストもいるが、必ずしも居場所が見つかるとは限らない。2023年のブルーノート・デビュー作『ホエア・アー・ウィー』のワールド・ツアーのために結成された若きカルテットについて、レッドマンは「途中で何かが変わった」と語る。その演奏力が自身の想定を超えていると気づいたとき、彼は2つの確信を抱いた。ひとつは、彼らをスタジオに連れて行かねばならないということ。もうひとつは、パンデミック下の静謐な時間に産まれた自身の楽曲群を、彼らと共に録音すべきだ、という確信だった。
それは切なく、美しく、そして希望に満ちた音楽である。現代ジャズ界を代表する最高のサックス奏者、作曲家、バンド・リーダーであるレッドマンが魔法をかけたように、これらの楽曲は命を吹き込まれ、聴かれるべきものとなった。
彼はこの偶然の巡り合わせとも言えるブルーノート第2作に『Words Fall Short(言葉は足りない)』というタイトルを与えた。この題名は、中国系アメリカ人作家イーユン・リーの著書『When Reasons End(理由のない場所)』に着想を得たものである。リーは喪失と悲嘆について思索する中で「言葉は足りない。けれど、時に影が、言葉にならないものへと手を伸ばすことがある」と記している。それ以上の意味については、聴き手それぞれに委ねられている。

ジョシュア・レッドマン / ワーズ・フォール・ショート
Available to purchase from our US store.それは理にかなっている。とろけるようなゴールド・トーンと頭の回転の速いインプロヴィゼーションを特徴とするレッドマンのサウンドは、長い間、具体性よりもニュアンスを重んじてきた。2023年、彼の通算16作目のバンド・リーダー作『ホエア・アー・ウィー』の収録曲のタイトルについて尋ねた際、彼は少し間を置いてからこう答えた。
「感情的にも概念的にもこのレコードに関係してはいるが、何かをはっきりと主張しているわけではない」と、当時と変わらぬ博識と親しみやすい語り口で語るレッドマン。場所は当時と同じく、カリフォルニア州バークレーの自宅オフィスである。「私は決定的ではなく喚起的なタイトルを選ぶのが好きなんだ」と、元法学部生でもある彼(現在56歳)は言う。「それらはひとつの意味だけを持つものではないのだから」
この『ワーズ・フォール・ショート』は、前回のプロジェクトとも密接に関連している。前作では、レッドマンが初めてヴォーカリストと共演し、歌詞の執筆にも取り組んだ。一方、本作は主にインストゥルメンタルで構成されているが、ガブリエル・カヴァッサが歌う「エラズ・エンド」では、彼女特有の繊細で軽やかな表現が再びフィーチャーされている。さらに、同様に輝きを放つゲスト陣、テナーサックスの女王メリッサ・アルダナ(「ソー・イット・ゴーズ」)、新鋭トランぺッターのスカイラー・タン(「イカロス」)も参加しているとはいえ、本作において最も深い意味を持つのは、言葉による指示をほとんど必要としない、自然発生的で即興的なアルバム制作のプロセスそのものである。
「すべてがあっという間にまとまったんだ。そもそもこのアルバムを作る計画はなかったんだ」とレッドマンは語る。「昨年9月に何本かライブがあって、サウンドチェック用にオリジナル曲を何曲か持って行ったんだ。20分で3曲を試してみたら、どれもとても良い音で、ニュー・アルバムを作るのが自然に感じられたんだ」
今回の新カルテットには、レッドマンが長年共演してきた名手、ブラッド・メルドー、クリスチャン・マクブライド、ブライアン・ブレイドらとは一線を画す、一回り以上若いリズム・セクションが揃っている。全員が20代ながら、その演奏には高い技術と成熟が宿っている。
ピアニストのポール・コーニッシュは、ヒューストン生まれ、ロサンゼルス在住の音楽家であり、ブルーノートの社長ドン・ウォズから「近年稀に見る革新的なピアニスト」と評され、同レーベルと契約を結んだ人物である(彼のデビュー・アルバムは8月22日リリース予定)。ベーシストのフィリップ・ノリスはカナダ・ウィニペグ出身、ニューヨーク在住で、ジュリアード音楽院を卒業。大胆で新境地を切り拓くような演奏スタイルの持ち主であり、レッドマンは「クリスチャン・マクブライド以来、これほど若くしてすべてを備えたアコースティック・ジャズ・ベーシストには出会ったことがない」と賞賛している。さらに、フィラデルフィア出身のドラマー兼パーカッショニスト、ナジル・エボは、ブーツィ・コリンズ、ウィントン・マルサリス、そして先述のクリスチャン・マクブライドらとの共演歴を持ち、そのグルーヴは確固たる存在感を放つ。レッドマンのサックスとのコール・アンド・レスポンスは鋭く、そして胸を打つ。
「以前ほどジャズ・シーンに深く関わっているわけではないが、今どんなミュージシャンがいるかには常に注意を払っているよ」とレッドマンは語る。「共感、結束、そして協働の精神、バンドリーダーとして私が最も重んじるのはこの3つ。個人として卓越した演奏ができるミュージシャンは多いが、即興演奏を主体とするジャズ・グループにとって重要なのは、単なる技巧ではなく、全体としていかに融合するかということなんだ。彼らは各々の強みをグループ全体のために見事に活かしているよ」
カヴァッサを迎えての2024年のNPR「Tiny Desk Concert」でのパフォーマンスでは、このカルテットの一体感と信頼関係、そして抑制と複雑さの絶妙なバランスが体現されていた。レッドマンはまた、NPRの「Jazz in America」にも定期的に登場しており、亡き父である名サックス奏者、デューイ・レッドマンへのトリビュート回などにも出演している。
それら全て、いやそれ以上のものが『ワーズ・フォール・ショート』には封じ込められている。8曲の空気感ある楽曲群の中には、冒頭を飾る「メッセージ・トゥ・アンセンド」のように、輝きと哀愁が混在する曲もある。また、ラストを飾る「エラズ・エンド」は、同名曲の別キーによるインストゥルメンタル・ヴァージョンであり、アルバム中唯一の歌詞付き楽曲でもある。そこには「送りたくなかったメッセージ」という一節が含まれており、レッドマンは「我々は時に、過去に戻ってやり直せたらと願うものだ」と語る。
若きメンバーに、自らの若い頃を重ねることはあるか?そう問われた彼は、冗談めかしてこう答える。「自分もかつては若かった、という点だけだね。彼らは当時の自分より遥かに優れているよ」と。そして少し真剣な表情で続ける。「でも、そう、あのエネルギー、情熱、音楽の中に入り込んで、繋がり、対比し、何かを見出すその速さには共通するものを感じるよ」
「演奏しているときに年齢差を感じることはない。我々はみな、言葉にならないものへと到達しようとしている。形を持たぬ可能性の感覚を音楽という手段で伝えようとしている。言葉も、音符さえも、意味というものを完全には捉えきれないのものだ」
では、その「意味」とは何なのか?
再び、少しの沈黙があり、「それこそが、謎の一部なんだ」と彼は微笑んだ。

ジョシュア・レッドマン / ワーズ・フォール・ショート
Available to purchase from our US store.ジェーン・コーンウェルはオーストラリア出身でロンドンを拠点に活動するライター。アート、旅行、音楽に関する記事を執筆し、『Songlines』や『Jazzwise』など英国とオーストラリアの出版物やプラットフォームに寄稿している。ロンドン・イブニング・スタンダード紙の元ジャズ評論家。
ヘッダー画像:ジョシュア・レッドマン。写真:ジェン・ローゼンスタイン。