ジャズの飛躍や滋養と現代ポップの輝きやグルーヴをつなぐ唯一無二のシンガー/クリエイターであるホセ・ジェイムズの新作が届けられた。その表題は、『1978:リベンジ・オブ・ザ・ドラゴン』。そのタイトルが示唆するように昨年作『1978』の続編的な内容を持ち、かつカンフー映画やブラックスプロイテーション映画(1970年代初頭に米国を席巻したアフリカ系アメリカ人を主人公とする映画)からもインスピレーションを受けているという。

興味深いカヴァー群も含むその新作について、彼に様々な問いを投げかけてみた。

    

ホセ・ジェイムズ
1978:リベンジ・オブ・ザ・ドラゴン

――前作『1978』はどんなアルバムだったと思っていますか?

いま振り返ると『1978』はあの時代のクラブ・カルチャー〜特にニューヨークの伝説的なクラブ“スタジオ54”だね〜、そしてマーヴィン・ゲイやリオン・ウェアたち、あとは70年代のブラック・パワー・ムーヴメントといったものに対する自分なりのオマージュが形になったアルバムだと思っているよ。

――それに続く新作『1978:リベンジ・オブ・ザ・ドラゴン』は『1978』の続編的な作品です。どうして、そうしたものを作ることにしたのでしょうか。また、今回新たな意図が含まれているとしたら、どういったことになりますか。

『1978』を作ったあとに、まだ言うことがある、と思ったんだ。なぜかというと、それを経て新しい曲が自分の中に生まれ始めていたので、そういう場合はそうした“声”に従うようにしているから。その新たにできたオリジナル4曲と、僕は77年から79年の曲を集めたプレイリストを作っているので、その中から4曲を選んだ。その4曲は、どれもがディスコ・ミュージックに面白い角度からアプローチをしている曲なんだ。

――新曲の中から「トーキョー・デイドリーム」を今作の1曲目に置いた理由を教えてください。

この曲ってすごく映画的だなって僕は思ったし、(ヴォーカリストで妻の)ターリと僕が大好きな東京のファッションとかナイト・ライフ、ジャズ・クラブとかレコード・バー、そういったもののエネルギーがあふれる曲なので、この曲でアルバムを始めたいと思った。というのも、前作はどちらかというと、少しスピリチュアルで抑えめな感じだったので、それとの対比でこれを1曲目にしたんだ。

    

日本に来るたびに魂が新しくなるような気持ちになる

――今回の来日は、その曲のミュージックビデオの撮影のためだそうですね。それはどういった内容になるのでしょうか? クルーは日本人ですか?

クルーは全員日本人。ダンサーも日本人で、六本木をメインに東京各所で撮影したんだ。特に金曜や土曜の夜の高揚を収められたらと思った。“Electrik神社”での撮影シーンは気に入っているし、ラーメン店や居酒屋も出てきて、楽しめると思うよ。

――あなたは過去に高尾山を題材にした曲(「オラクル」)も作っていますが、日本のどういった部分に惹かれたりインスパイアされたりしているのでしょうか?

初来日時から、古い部分と新しい部分がうまく同居しているところがとても好きなんだ。日本の歴史とか伝統とかカルチャーを残しながらも、すごい最先端な技術やデザインやアイデアを持って前に進んでいる。そこに日本の精神が感じられるし、日本の人たちがいろんな場面で選ぶチョイスの1つ1つに共鳴でき、リスペクトできるんだ。以来、来るたびに自分の中の魂がすごく穏やかになって、新しくなるような気持ちにさせられるんだ。

©Janette Beckman

    

アルバムの参加メンバーたちは家族のようなもの

――さっきおっしゃったように、今作はあなたの新曲とともに1978年ごろの曲をカヴァーしています。その中にはマイケル・ジャクソンの「ロック・ウィズ・ユー」もありますが、実は前作でもマイケルが好きなのかな、と思わせる曲が入っていたと思います。

「サタデー・ナイト」のことかな。あの曲はクインシー・ジョーンズとマイケルのコラボレーションへの自分なりのトリビュートだから。この2人があの時代に作ったものは、その後ファレル・ウィリアムスやアッシャー、ジャスティン・ティンバーレイクなど、それらディスコ/R&Bのちょっとアップ・テンポやミッド・テンポな曲のテンプレートになったと思う。それぐらい音楽を変えるものだったんじゃないかな。「サタデー・ナイト」はターリとカヴェー・ラスティガー(元ニーボディのベーシスト/クリエイター)が関与した曲で、「トーキョー・デイドリーム」も2人が作曲に関わっているのでそこら辺は繋がっているよね。

――その「ロック・ウィズ・ユー」なんですが、この曲においてすごい顕著ですが、今作ではドラムのジャリス・ヨークリーがとても現代的なビートを叩いていると思います。それは、前作との大きな違いであると思うのですが?

うん。それについては意識したころで、ジャリスと話して一緒に試した。今回、レコーディング自体は70年代風のアナログ・レコーディングだったんだけど、それでモダンなヒップホップ・ビートを録音する実験を突き詰めたんだ。

――ジャリス以外にも、あなたのファミリーと言えるような人たちがレコーディングに参加しています。特に前作には参加していなかったBIGYUKIが入っているのが個人的に嬉しかったです。

ああ、参加メンバーたちは家族のようなものだね。BIGYUKIは本当にすごいし、面白い。バークリー音大でジャズのトレーニングも受けてきているのに、未来に住んでいる。彼はジャズ、R&B、ヒップホップ、J-POPの世界でも本当に引っ張りだこだし、彼には境界線というものが一切ない。ああいうシンセサイザー奏者って他にいない。ロバート・グラスパーも彼のことを大好きだし、今作も彼なしでは作れなかったと思う。すごいソフトなニュアンスのある演奏もする一方、もう行くところまで行っちゃう両面を持っている人だよね。

     

ディスコ・ミュージックにちなんだカヴァー選曲

――「ロック・ウィズ・ユー」以外にも、今回はビー・ジーズの「ラヴ・ユー・インサイド・アウト」、ハービー・ハンコックの「アイ・ソート・イット・ワズ・ユー」、ザ・ローリング・ストーンズの「ミス・ユー」もカヴァーしています。どうして、これらの曲を取り上げたのでしょうか。選曲の観点について教えてください。

78年はディスコが王様だった。そのまさに最たるものがビー・ジーズの「サタデーナイト・フィーヴァー」で、あの時はもういろんな賞を総なめにしたよね。だけど、以前はオーストラリア出身の彼らはブラック・ミュージックが大好きだったけど、アメリカのブラック・ミュージックがかかるラジオ局では曲が流れなかった。やっぱりそれを成さないと自分たちの本当の成功はないという意識を持った結果の偉業で、それをすごく僕はリスペクトできるので、この曲を取り上げた。アバとかビー・ジーズってちょっと色目がちに見られるけど、実はミュージシャンシップも高かったし、この曲自体もすごくクールだと思うね。

ハービーに関して言うと、ブルーノート・レコードからデビューして以来、マイルス・デイヴィス・クインテットでの仕事、70年ごろのワーナー時代、そしてヘッドハンターズや(ヒップホップを導入した)「ロックイット」があったりもして、今に至るレジェンドとしてずっとやってきたんだけれども、彼がアプローチしたディスコ・ミュージックもすごく面白かった。決してジャズを犠牲にしていないしメロディもすごく面白い。ヴォコーダーを使ってやったけど、あれはその後のロバート・グラスパーとかケイシー・ベンジャミンに繋がってると思うし、「アイ・ソート・イット・ワズ・ユー」は最も高いレベルでディスコをやった曲だと思う。

――では、ストーンズの「ミス・ユー」は?

「ミス・ユー」は時代がディスコ・ミュージック期になり、彼らのようなバンド・サウンドは時代遅れみたいになった時にディスコに取り掛かった曲だった。それについて、僕はものすごい勇気のあることをしたなと思ったんだ。それは男性のロック・スターが、男の弱さみたいなものを全面に出すような歌詞の曲をやってみせたというところでもね。「ミス・ユー」は彼らの曲として、個人的には一番興味深い1曲だと思っているよ。

――あなたはビル・ウィザーズやエリカ・バトゥのトリビュート・アルバムも作っていますし、古くはジョン・コルトレーンの曲を歌うライヴ・プロジェクトも持っていましたし、またビリー・ホリデイのトリビュート盤も出しています。あなたにとって、偉大な先達に対するオマージュはどういう意味を持っているのでしょうか。

いま名前が出たアーティストたちからはいろんなものをもらい、彼らがいなかったら現在の自分はいないという想いで事にあたっているんだ。みんなヒーローだし、その全員に共通しているのは、ある種の逆境を乗り越えてきているアーティストだと思えること。それは幼少時代のことだったり、コルトレーンの場合は当初は音楽的には認められていなくて、マイルスのバンドに入ったときも彼を代えろみたいに言われてたこともあったという。ビリー・ホリデイにしてもエリカ・バドゥにしても、様々な逆境に潰されることなく自分のスタイルや音楽を作り上げてきた。そういうことを、僕のファンにも分かってもらえたらという思いでやっているんだ。

――1978年は、僕は高校生でした。なので、今回アルバムで取り上げている曲はどれもリアル・タイムで聴いています。そして、あなたの今のヴァイブを宿すヴァージョンを聞いて幸せな気持ちになり、ポジティヴな気持ちにもなりました。また、一方で2000年代に入ってから生まれた若いリスナーには、自分が生まれる前の音楽にも目を向けなきゃなと思わせるものになっていると思います。

ありがとう。それこそは、僕の目標とすることだ。音楽ってタイム・トラベラーのようなものだと思うので、古いものであろうと新しいものであろうと、現在に意味がある。古い音楽には先人の物語が詰められていて、それはいまも耳を引く。僕のバンドにはエバン・ドーシーという2000年代/Z世代生まれの奏者もいるけど、彼女は未来とのつながりを僕に与えてくれているんだ。

©Janette Beckman

    

午前中はカンフー映画撮影、午後はレコーディング

――ところで、ウッドストックにあるレコーディングに使ったドリームランド・スタジオはあなたお気に入りのスタジオですよね。

僕にとって特別なスタジオだね。森の中にあって、そこに住むような感じでレコーディングができるんだ。キーボード、ピアノ、オルガン、シンセサイザー、ギター、ベース、自分の理想とするようなヴィンテージの楽器があって、そこだと僕はお菓子屋さんに連れてこられた子供のようになってしまうんだ。そして、アナログ・レコーディングができる数少ないスタジオであるのも大きい。それって、いまは貴重だから。それから、教会を改造してるので、なんかスピリチュアルな空気みたいなものがあるのもいい。

――実際のレコーディングは、どんな感じで進んだのでしょう?

今回、午前中は作品に基づくカンフーのショート・フィルムの撮影をして、午後はレコーディングをした。そういうスケジュールで3日間やったんだけど、なかなか面白い体験だったね。朝食を摂ったら、みんなカンフーの衣装を着て森の中を1マイル歩いて撮影場所まで行ってファイト・シーンを撮り、シャワーを浴びて午後はレコーディング。みんなミュージシャンなのか、俳優なのか、カンフー・キャラなのか分からない(笑)。そんな不思議な仮想現実のなかにいるような感じも得て、楽しかった。そういう遊び心みたいなものが、アルバムからも伝わってくるんじゃないかな。

――マスタリングはロンドンのアビー・ロード・スタジオでやっていますね。

これまでレインボー・ブロンド・レーベルの作品、自分のものとジャリス・ヨークリー、ターリのアルバムはそうしている。アビー・ロードでやってるのは、フランク・アークライトというマスタリング・エンジニアがいるから。彼はオアシスなんかもやってる人だけれど、本当にレーベルの音によく合っている。アナログ・レコーディング/サウンドを、彼も信じているんだ。

――今作でターリはどのようなサポートを果たしてくれたんでしょうか?

彼女はレインボー・ブロンド・レーベルの社長なので、A&Rの僕がこういうことをしたいと言うと、承認し予算を組んでくれる(笑)。このアルバムでは3人分、4人分の働きをしていて、オリジナル曲は一緒に書いているし、彼女は僕にとって最高の歌手のひとりで、「トーキョー・デイドリーム」でフィーチャ^し、コーラスの妙を与えてくれもいる。

――そんなレインボー・ブロンドの今後、そしてこれからのあなたの活動について教えてください。

最近は新作のレコーディングがメインになっていて旧譜のアナログでの再リリースがちょっとできていないので、『ザ・ドリーマー』とか『ブラックマジック』のそれを出したいのと、クリスマス・ソング3曲を7インチで出す予定がある。それは、(ベーシストの)ベン・ウィリアムスがストレング・アレンジをしてくれている。それから、“The Art of Jazz Singing”という本を執筆中で、それに合わせる形で、ピアノ・トリオで正統派なジャズを歌うことをやりたいと思っているよ。

    

ホセ・ジェイムズ
『1978:リベンジ・オブ・ザ・ドラゴン』

1. トーキョー・デイドリーム feat. ターリ
2. ロック・ウィズ・ユー feat. 黒田卓也
3. ライズ・オブ・ザ・タイガー
4. ゼイ・スリープ、ウィ・グラインド (フォー・バドゥ)
5. アイ・ソート・イット・ワズ・ユー feat. エバン・ドーシー
6. ミス・ユー
7. インサイド・アンド・アウト feat. ベン・ウェンデル
8. ラスト・コール・アット・ザ・マッド・クラブ

ホセ・ジェイムズ(vo)
BIGYUKI(synth, key)
デヴィッド・ギンヤード、カイル・マイルス(b)
ジャリス・ヨークリー(ds)
タリア・ビリグ(vo)
黒田卓也(tp)
エバン・ドーシー(as)
ベン・ウェンデル(ts)
★ニューヨーク、ドリームランド・スタジオにて録音