黒田卓也、エスペランサ・スポルディングからイギー・ポップまでトップ・アーティストから熱烈なオファーを受ける作曲家/ヴォーカリスト/マルチ・インストゥルメンタリストのコーリー・キングが、新作『Change the Wind』をリリースした。現代音楽シーンにおいて、最も多才なクリエイターの一人として唯一無二の音世界を描いているコーリーだが、黒田卓也主宰のイベント「THE BUNDLE 2026」(8月2日、渋谷・WOMBで開催)に出演のために来日。イベントの翌々日に話を聞いた。

コーリー・キング
『Change the Wind』

Corey King Change the Wind

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「THE BUNDLE」で新作『Change the Wind』収録曲のライヴ・パフォーマンスを拝見しましたが、アルバムでの緻密なサウンド・プロダクションが生楽器で再現されていて新鮮でした。新作の曲をバンド・セットで披露した感想と、バンド・メンバーについてお話しいただけますか?

「すごく解放された気がした。アルバムの曲をライヴで演奏できるか、実は自分でもわからなかった。もちろんやれることはわかっていたけど、『本当にできるのか?』という気持ちもあった。『メンバーたちがどこまで音楽に身を委ねてくれるんだろうか?』と。でも実際、彼らはやってくれた! それがすごく嬉しくて。他人から『なんて変なサウンドだ』と思われたとしても構わない。初めてそう思えたくらい、演奏し終えて最高の気分だった。

そう思えたのにはマーティ(・ホロベック)とシュン(石若駿)の存在が大きかったと思う。二人がちゃんとアルバムを聴き込んできてくれて、全身で音楽に飛び込んでくれたんだ。おかげでたくさんのことがもたらされた。自由な空気というか。本当に心から興奮できた演奏になったよ」

新作は、コロナ禍で孤独の中で制作をスタートしたとのことですが、スタート時点でアルバムにする構想はあったのでしょうか?

「最初はEPの予定だったんだ。そもそも、自宅で曲を書き始めて少ししたところに、イギー・ポップから『ヨーロッパ・ツアーに行かないか?』と誘われ、夏の4か月をツアー・バスで過ごすことになった。特に長く滞在したフランスでは、これまでイギーが築いてきた歴史を目の当たりにして、本当に驚かされた。だってトゥールーズでは、40年前に演奏したのと全く同じ場所で演奏したんだよ。信じられないだろ? しかも、その頃と同じマネージャーが今もついている。なんか色々なことを感じさせられて、自分自身アーティストとしてまだまだ表現したいことがあるんじゃないか?と思った。

ギターを持って行っていたので、その夏、ヨーロッパで曲をたくさん書いて過ごし、アメリカに戻った頃には、『これはEPには収まらないな』と思えるだけ曲ができていたというわけさ」

そこからアルバムが形作られて行った、という感じですか?

「そう。ヨーロッパ滞在中にパートナーが妊娠していることがわかり、それからしばらく娘が生まれた。でも、その子が生まれつき珍しい症状を抱えていたことが判明した。その時点で、僕はなぜかすごく落ち着いて、瞑想のような精神状態に入っていた。そうでなかったら、自分がどうにかなってしまっていたかもしれない。そして、アルバムもとても深い、温かみのある音になっていったんだ。きっとそれは宇宙がそう言ってるんだ、と思ったよ。僕にとっても、リスナーにとっても、これは重いサウンドの作品でいい。そうである必要があるんだ、って」

再び世界中をツアーするようになったことが、アルバムの仕上がりに何らかの影響を与えましたか?

「『Did We See That Coming』のようなロックのグルーヴを持つ曲はまさしく、イギーと一緒に演奏したことが大きく影響している。『Wild One』みたいな曲をやる時の、あのドラム・グルーヴとか、あのグイグイと前に進んでいく感じとか、いろんなものが絡み合いながら、どんどん大きくなっていく感じっていうのかな。間違いなく、ツアーに出ていたことの影響はあったと思う。『Worms』もそんな1曲だよ」

新作の歌詞は、全体的に内省的で、ほの暗い世界のなかに一筋の光が差すような希望を感じさせます。この世界感はあなたの心情を投影したものでしょうか?

「ああ、まさしく。どうにも言葉で説明するのが難しいんだけど、僕は会話をしているとき、何かに答える方法がいくつもあるんだ。誰かに何かを質問されたとき、『どう答えるのが一番いいだろうか?』と考える。今がそうだと言ってるわけじゃないよ。一般的な話さ。自分の中で、どう説明したいのか、いろんな考えが何層にもあるということ。

それに詩が大好きなので、話す時も比喩を使ったり、自分の経験を通して説明するのも好きだ。単に『これはこうだ』ではなく。例えば、テーブルの上に水のボトルがあったら、普通は『水のボトルがテーブルの上にある』と言うんだろうけど、僕はもっと詩的な言葉でそれを表現したくなる。そんなふうに、物事を考えるのが好きっていうことさ。

実際、ジャズをやっていた頃もそれが大きく関係していた。大学の先生が『即興演奏をするときは、最初に浮かんだアイデアに従うのではなく、第3の考えに従え』と言ってたんだ。『ああ、なるほど』という感じで、腑に落ちたのを覚えている。そうすることで、周りで起きていることに本当の意味で耳を傾け、意識を集中させ、『どうしたらこういった要素をもっとよくできるだろう?』と考えられるようになる。歌詞についても、同じように考えているよ」

最後に、新作にはエスペランサ・スポルディングと黒田卓也という、あなたの音楽キャリアの中でも重要なふたりがゲストで参加しています。両者にオファーした意図を教えてください。

「エスペランサとはもう何年も一緒にやってきたけれど、不思議と、自分のプロジェクトに彼女に参加してもらうのに、何をしてもらったらいいのかがずっとわからなかった。ツアー・バスの中ではいつもお互いの音楽を聴かせて合っていたし、彼女は僕の最大のサポーターの一人であり続けてくれた。ソロとしての音楽もいつも応援してくれていたんだ。彼女の歌い方を僕はよく知っているし、声も大好きで、本当に素晴らしいシンガー/アーティストだと思う。でもどうすれば、彼女の声を自分の表現にはめ込めるのか…。

今回、ようやくそれがわかった。『Worms』に関して『このパンクバンド風の曲をどうしたら僕らしい曲にできるだろうか?』と考え、『そうだ、エスペランサにアップライトベースを弾いてもらおう』と思った。彼女をシンガーとして見ている人が多いけれど、僕が知るエスペランサはアップライトベース奏者だ。そして歌もめちゃめちゃうまい(笑)。それで、彼女にベースを弾いてもらい、ソロも弾いてもらって、どうなるか試してみようと思った。

結果はすごく面白かった。かなり自由に、僕にプロデュースさせてくれたよ。僕からは『ベースでダブルストップを弾いて、その上からソロを弾いてもらえる?』といったリクエストを出した。彼女のベースを何度もオーヴァーダビングしたよ。あの曲ではとにかくアップライトベースを使って、いろんな実験を試したんだ。

タクヤ(黒田卓也)は僕の大親友の一人だ。ただ、自分のプロジェクトにどうホーンを入れたらいいかがわかるまで、結構時間がかかったんだと思う。最初の2枚のEPを出したのはもうだいぶ前だけど、自分でも歌い始め、いわゆるソングライターとしての作品を作りたいと思ってからは、そういうソングライター的な曲の中でどうホーンを使えばいいのかがわからなかった。自分が若かったというのもあって、どうプロデュースすればいいのかを見つけるには、まだ経験が足りなかったんだと思う。

今回のプロジェクトでようやくホーンを入れることができた。というか、曲が書ける前から、ホーンがイメージできたんだ。ベルリンの自分のアパートに近いテンペルホーファー・フェルトを歩いているとき、『Off the Embankment』のギターリフが頭の中に浮かんだ。『なんだこれは? ヒュー・マセケラとフェラ・クティが出会ったかのような…カーティス・メイフィールドかもしれない』と。そして『これならタクヤが吹いている姿がイメージできる』と思い、彼に演奏してもらう前提で、彼のことを考えて書いたんだ」

      

コーリー・キング
『Change the Wind』

Corey King Change the Wind

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1. R.M.K
2. Distant Ray
3. Spyder
4. Woms feat. Esperanza Spalding & Urian Hockney
5. The Damndest
6. Off the Embankment feat. Takuya Kuroda
7. Did We See That Coming feat. Morgan Guerin
8. Ill-Will to Goodwill
9. Annapurna