1959年に初めて録音されたジョン・コルトレーンの「ジャイアント・ステップス」は、ジャズ界で最も有名な楽曲の一つであり、コルトレーンの和声の使い方は、それ以来ジャズ・ミュージシャンたちに多大な影響を与えてきた。

「ジャイアント・ステップス」の和声構造は、まるで音楽理論の研究課題であるかのように、非常に体系立てて設計されている。その中でも特に際立っているのが、コード同士を長3度(メジャー・サード)の音程で結び付けるという発想である。では、この楽曲の構造を詳しく見ていこう。

以下、「ジャイアント・ステップス」のリードシートで、メロディ・ラインとコード記号が示されている。

[図1 – 「ジャイアント・ステップス」リードシート]

ここから分かるように、この曲は16小節構成を基本としており、ハーモニーには数多くの規則的なパターンが組み込まれている。まずはメロディを取り除き、コード進行だけに注目してみよう。

[図2 – 「ジャイアント・ステップス」のコード]

クラシック音楽、ジャズ、ポップスをはじめ、幅広い音楽で和声の基本概念として用いられるものに五度圏(Circle of Fifths)がある。これは、半音階を構成する12の音を、完全5度ずつの関係で円形に配置したものである。例えば最初の音をCとすると、時計回りに次に来るのはCの完全5度上に当たるG、その次はGの完全5度上であるDというように並んでいく。図のような配置である。

[図3 – 五度圏]

アーティスト、ジョディ・ハントによる「五度圏」のインフォグラフィック
デザイナー、ジョディ・ハントによる作品「五度圏」。クリックで拡大表示。

このように5度の関係で音を並べた五度圏には、音楽理論上さまざまな用途がある。代表的なのが、各調(キー)の調号を示すことである。円の頂点にハ長調(Cメジャー)、またはその平行調であるイ短調(Aマイナー)を置くと、そこから時計回りに1つ進むごとに調号のシャープ(♯)が1つずつ増えていく。逆に反時計回りに進むと、フラット(♭)が1つずつ増えていく。そして円の最下部で、それぞれシャープまたはフラットの数が最大となる。図はその関係を示したものである。

[図4 – 長調・短調の調号を示す五度圏]

このように5度の関係で音を並べた五度圏には、音楽理論上さまざまな用途がある。代表的なのが、各調(キー)の調号を示すことである。音楽における「カデンツ(終止形)」においても、5度進行は非常に重要な役割を果たしている。カデンツとは、調の中心(キー・センター)を明確にするために用いられる和声の流れのことである。ジャズで「ツー・ファイブ・ワン」と呼ばれる進行(ローマ数字では一般的に II-V-I と表記される)は、強い終止感を持つコード進行である。伝統的な和声理論では、「完全終止(Perfect Cadence)」とは、コードの5度から1度へ進む V-I進行 のことである(それぞれ「ドミナント」と「トニック」とも呼ばれる)。この進行には、音楽を本来の調へと戻し、解決感を生み出す力がある。たとえば、その楽曲のキーがCメジャー(ハ長調)である場合、最も基本的な3和音として考えると、この2つのコードはGメジャーとCメジャーになる。

[図5 – C調における完全終止]

この進行における解決感は、ドミナント(V)のコードを通常のメジャー・トライアド(三和音)ではなく、セブンス・コードにすることでさらに強めることができる。この場合、コードはG7とCメジャーになる。五度圏の図(図3)を見ると分かるように、ドミナント、つまりV(5度)のコードは、「トニック」、つまりI(1度)のコードから五度圏上で1つ隣に位置している。

[図6 – ドミナント・セブンスの例]

このようなカデンツにおける音楽的な解決感は、その直前に五度圏上でさらにもう1つ先にあるコードを置くことで、より強めることができる。クラシック音楽では、このコードは「セカンダリー・ドミナント」と呼ばれる。一方、ジャズでは、II-V-I(ツー・ファイブ・ワン)進行におけるII(2度)に当たる。そこで、例として再びCメジャーを考えてみよう。五度圏を2段階進むと、Dを根音とするコードが得られる。これはスケールの第2音にあたるため「II」と呼ばれる。ただし、ほかの2つのコードとは異なり、このコードはマイナー・コードになる。なぜなら、CメジャーのキーにはF♯が存在せず、Dメジャー・コードを作るために必要な音がないからである。その代わりにFナチュラルが含まれるため、Dマイナーになる。したがって、Cメジャーにおける完全なII-V-I(ツー・ファイブ・ワン)進行は、次のようになる。

[図7 – CメジャーにおけるII-V-I進行]

「ジャイアント・ステップス」には、このようなII-V-I進行の例がいくつも存在する。

[図8 – 「ジャイアント・ステップス」におけるII-V-I進行]

しかし、「ジャイアント・ステップス」において、五度進行を基盤としたこうした伝統的なパターン以上に特徴的なのは、長3度による進行への強いこだわりである。

「ジャイアント・ステップス」は、伝統的な意味で単一の「キー」に属しているわけではない。その代わりに、異なる「キー・センター(調の中心)」の間を移動していく構造になっている。それぞれのキーは一時的に楽曲内に現れるだけで、すぐに次のキーへと急速に移行する。(これが、曲のテンポの速さと相まって、演奏が難しいとされる理由である)

[図9 – 『ジャイアント・ステップス』における長3度の進行]

見て分かるように、これら個々のキー・センターは長3度の間隔で移動している。そして実は、この長3度による移動もまた、五度圏に根差したものと考えることができる。ジョン・コルトレーンの決定版的な伝記を著したコルトレーン研究家ルイス・ポーターは、次のように記している。



「1950年代後半、彼は五度圏を描き、そこに12のキー・センターを線で結んでいた…。時には円の中に正三角形を配置し、“マジック・トライアングル”を作ることもあった。そしてマルチェロ・ピラスが示したように、そのようにすると、三角形の頂点は長3度離れたキー・センターを結び付けることになる」

五度圏の上に、このような正三角形を描いてみると、頂点を上部のCに置いた場合、次のようになる。

[図10 – Cを頂点とする五度圏上の正三角形]

見て分かるように、この三角形は長3度離れたキー・センター(C、E、A♭)を結んでいる。

さらに、この三角形を五度圏上で1度回転させると、次のようになる。

[図11 – 五度圏上の正三角形(1度回転)]

すると、今度結ばれるキー・センターはG、B、E♭になる。ここで「ジャイアント・ステップス」における長3度進行の図(図9)をもう一度見ると、これらこそ正に、この楽曲の中で繰り返し登場するコード(正確にはメジャー・セブンス・コード)であることが分かる。

ジョン・コルトレーンがアムステルダムのコンセルトヘボウで、アルバム『ジャイアント・ステップス』によりエジソン賞を受賞。
『ジャイアント・ステップス』でエジソン賞を受賞するジョン・コルトレーン 1961年11月20日 アムステルダム、コンセルトヘボウにて。 1961 年 11 月 20 日。写真: デイブ ブリンクマン、アネフォ コレクション/国家保管所長。

「ジャイアント・ステップス」のコード構造は、以下の2つの原理に基づいて極めて体系的に組み立てられていることが分かる。

1)長3度による移動によって異なるキー・センターを作り出すこと
2)それぞれのキー・センターを強調するカデンツ(終止形)的な進行を組み込むこと

では、これをどのように組み立てていくのか、段階を追って見ていこう。

それぞれのキー・センターは、コード進行の中では「メジャー・セブンス・コード」によって表現される。

メジャー・セブンス・コードとは、基本的なメジャー・トライアド(たとえばCの場合、C-E-G)に、長7度の音を加えたものである。つまりCの場合ではBを加え、C-E-G-Bという構成になる。

[図12 – Cメジャー7th和音]

まず「ジャイアント・ステップス」に、すべてのメジャー・セブンス・コードを書き込み、それ以外のコードはいったん空白にしてみよう。

[図13 – 『ジャイアント・ステップス』のメジャーセブンス・コード]

最初の4小節からなる1段目を見ると、Bメジャー・セブンスから始まり、図11で示した正三角形の頂点を反時計回りに回転するように進んでいる。つまり、まず長3度下へ移動してGメジャー・セブンスへ進み、さらにもう一度長3度下へ移動してE♭メジャー・セブンスへ到達する。

2段目の4小節では、まったく同じパターンが繰り返される。ただし今回は、開始地点が長3度下へ移調されている。つまりGメジャー・セブンスから始まり、そこから長3度下のE♭メジャー・セブンスへ、さらにもう一度長3度下のBメジャー・セブンスへ進む。

3段目では、全体のパターンをそのまま継続するように始まる。つまり、前の段の開始地点からさらに長3度下がったところ、E♭メジャー・セブンスからスタートする。しかし、ここでは変化が起こる。それまでのように1小節ごとに1つのキー・センターを下降していくのではなく、今度は上昇方向へ進む。もちろん移動幅は引き続き長3度であるが、速度は緩やかになり、2小節につき1回の長3度移動となる。したがって、E♭メジャー・セブンスの後にはGメジャー・セブンスが続き、その後Bメジャー・セブンス、さらにE♭メジャー・セブンスへと進み、曲のフォームの終わりに到達する。

このことから、「ジャイアント・ステップス」におけるメジャー・セブンス・コードによるキー・センターの配置には、極めて明確なパターン構造が存在していることが分かる。これによって、この曲における長3度による移動のすべてが説明できる。残された作業は、これらのコードの間にある空白部分を、各キー・センターを強調する五度進行によるカデンツで埋め、楽曲全体を完成させることである。これは完全に、V-I(ファイブ・ワン)進行またはII-V-I(ツー・ファイブ・ワン)進行のみを使って構成されている。V(5度)のコードにはセブンス・コードが用いられ、I(1度)のコードにはメジャー・セブンス・コードが用いられる。

[図14 – 『ジャイアント・ステップス』の終止進行]

このように見ていくと、「ジャイアント・ステップス」全体の和声構造は、これら2つの概念から設計されていることが分かる。使用されているコードは3種類だけである。メジャー・セブンス・コード、セブンス・コードマイナー・セブンス・コードである。それぞれのメジャー・セブンス・コードは、新たなキー・センターとして機能する。それぞれのセブンス・コードは、次のキー・センターへ導くドミナント(V)のコードとして働く。そして、それぞれのマイナー・セブンス・コードは「II」のコードとして機能し、そこからドミナント(V)へ進み、さらに次のキー・センターへと導いていく。

ジョン・コルトレーンが音楽におけるパターン構造に強い関心を持っていたことは明らかである。「ジャイアント・ステップス」は、その探究心を最も明確に示した作曲上の代表例であり、結果としてジャズ史における最も象徴的な楽曲のひとつを生み出すことになったのである。


ジョン・オプスタッドはロンドンを拠点に活動する作曲家。映画・テレビ、コンテンポラリーダンス、コンサート音楽、アルバム制作など幅広い分野で活躍している。代表作には、Netflixのヒット作『ボディーズ』や『ブラック・ミラー』、そしてマックス・リヒターと共同で作曲したエリザベス・モス主演のスリラー『ザ・ベール』などがある。熱心なレコード収集家でもあり、特にECMの音楽に深い愛着を持っている。