ジョン・コルトレーンは1967年、肝臓癌により40歳という若さでこの世を去った。しかし、それまでの10年間ですでに彼はジャズ・サックスの歴史を根本から塗り変えていた。彼が楽器にもたらした革命的な発展は、その後に続く幾世代ものミュージシャンたちへ計り知れない影響を与えたのである。

サックス奏者としての圧倒的な技巧、揺るぎない芸術的信念、そして深い精神性は、その後のすべてのジャズ・ミュージシャンにとって道標となった

コルトレーンという巨人が存在しなければ、おそらく誕生しなかった音楽の潮流もある。その代表が、現在しばしば「スピリチュアル・ジャズ」と呼ばれるジャンルであり、その源流は、とりわけ1964年の歴史的名作『至上の愛』にある。また、世界各地で発展したフリー・インプロヴィゼーションの潮流も、『アセンション』で提示された大編成による即興演奏のコンセプトや、サックス奏者ファラオ・サンダース、ピアニストのアリス・コルトレーン、ベーシストのジミー・ギャリソン、ドラマーのラシード・アリと組んだ晩年のクインテットが生み出した多方向へ展開するリズム、自由なハーモニー、そして圧倒的なエネルギーに多大な恩恵を受けている。

ジャズ史上、最も重要なアルバムとは?

ジャズ・ファンに「これまでに録音されたジャズ・アルバムの中で最も重要なものは何か」と尋ねれば、他のどの作品よりも頻繁に挙げられる2枚のアルバムがある。マイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』(1959年)とジョン・コルトレーンの『至上の愛』(1964年)である。コルトレーンは前者において極めて重要な役割を果たし、後者はまさに彼自身の最高傑作となった。1960年代の終わり、ジャズは大きな分岐点、あるいは存在そのものを問われる危機に直面していた。1970年代へ音楽を受け継いだ多くのミュージシャンたちは、大きく二つの道のいずれかを歩むことになる。1960年代後半にマイルス・デイヴィスが切り開いた方向性、あるいはジョン・コルトレーンが示した方向性である

マイルスの門下生たちは、『イン・ア・サイレント・ウェイ』(1969年)、『ビッチェズ・ブリュー』(1970年)、『ジャック・ジョンソン』(1971年)によって示された道を発展させていった。エレクトリック化とロックやファンクとの融合は、ウェイン・ショーターとジョー・ザヴィヌルによるウェザー・リポート、ハービー・ハンコックのヘッドハンターズ、チック・コリアのリターン・トゥ・フォーエヴァー、ジョン・マクラフリンのマハヴィシュヌ・オーケストラ、そしてトニー・ウィリアムスのライフタイムといった、いずれも1960年代にマイルスの音楽を支えたミュージシャンたちによるグループの大成功へと結びついた。

Miles Davis' Birth of the Cool cover image

マイルス・デイヴィス クールの誕生 [ハイブリッドSACD]

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一方、そのようなロックやファンクの影響を受けたエレクトリック路線が広がるのと並行して、コルトレーンに近しいミュージシャンたちは、対照的で、よりアコースティックな方向性を追求していた。彼らはコルトレーン亡き後も、その精神と音楽の力を受け継ぎ、彼が1967年に早すぎる死を迎えるまで探求していた音楽的方向性をさらに発展させて行ったのである。

コルトレーンの死後、その炎を最も力強く受け継いだのは、1960年代の二つの主要グループで彼と共演した最も身近な仲間たちだった。まず挙げられるのが、クラシック・カルテットのメンバーである。

彼らはいずれも自身の楽器における先駆者であった。特に、マッコイ・タイナーは、伝統的な3度ではなく4度間隔で構成された左手のコンパリング・コードを優先するピアノ奏法を確立し、ドラムのエルヴィン・ジョーンズは、四肢すべてを駆使した流れるようなトリプレット(3つずつのグループに分割されたビート)の動きを体現し、音楽に止めようのない推進力をもたらした。

1965年になると、このグループはコルトレーン晩年のクインテットへと発展する。クラシック・カルテットから残ったのはギャリソンだけであった。タイナーに代わってコルトレーンの妻アリス・コルトレーンがピアノを担当し、ジョーンズの後任には、より抽象的で「多方向的」なドラミングを特徴とするラシード・アリが加わる。そして若きファラオ・サンダースという、極めて個性的なもう一人のサックス奏者が前線に加わった。音楽はさらに抽象的で、密度が高く、激烈なものへと変貌していった。この新しい方向性を理解不能と感じる者もいた一方で、それこそが音楽の最も深く、最も高次の姿であると考える者もいた。

エルヴィン・ジョーンズ(ドラム)

エルヴィン・ジョーンズは、ジョン・コルトレーンの死去翌年の1968年にブルーノートと契約し、1973年までの5年間で同レーベルのために数々の傑作アルバムを録音した。ブルーノートの創設者であるアルフレッド・ライオンは前年に引退しており、これは同レーベルの芸術的に最も高く評価され、商業的にも最も成功した時代の終焉をある程度示唆していた。また、それまで独立系レーベルだった同レーベルは、より規模の大きな企業による所有へと移行しつつあった。

ブルーノートを代表する名盤の多くは1968年以前に録音されている。その後もジョーンズ、ボビー・ハッチャーソン、ホレス・シルヴァーらによる優れた作品は数多く生まれたが、発売地域が限定されたもの(日本のみで発売された作品もある)もあり、知名度や流通の面では初期作品に及ばなかった。そのため、ジョーンズのブルーノート作品は本来受けるべき評価を十分に得ていないと言えるだろう。しかし、その内容はいずれも第一級である。『プッティン・イット・トゥゲザー』は彼のブルーノート第1作であり、ジョー・ファレルがコルトレーンのポジションを務めた、実質的に「マッコイ・タイナーを除くコルトレーン・カルテット」とも言えるピアノレス・トリオ編成による最初のアルバムである。

そこには最高水準の、推進力に満ちた探究的なアコースティック・ジャズが収められている。ピアノを置かない編成によって、ギャリソンとジョーンズによるリズム・セクションの対話がより鮮明になり、ジョーンズのタムの豊かな響きや、ドラム・セット全体を絶え間なく駆け巡る流麗な演奏を余すところなく味わうことができる。続く『ポリ・カレンツ』では、テナー・サックスのジョージ・コールマン、バリトン・サックスのペッパー・アダムス、さらにコンガを加え、編成はさらに拡大された。

elvin jones - poly-currents - front cover

エルヴィン・ジョーンズ ポリ・カレンツ

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Elvin Jones: Puttin' It Together 1LP (Blue Note Classic Vinyl Series) album cover

エルヴィン・ジョーンズ プッティン・イット・トゥゲザー

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ブルーノート後期になると、ジョーンズはデイヴ・リーブマンとスティーヴ・グロスマンという二人の若きコルトレーン派サックス奏者を擁するピアノレス・カルテットを結成する。この編成による『エルヴィン・ジョーンズ・ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』2部作は現在入手困難であるものの、まさに傑出したライヴ録音である。

マッコイ・タイナー(ピアノ)

ジョーンズと同様、タイナーもジョン・コルトレーンの死の前後にブルーノートでの録音を開始した。レーベル第1作『ザ・リアル・マッコイ』は、創設者アルフレッド・ライオンがプロデュースした最後期の作品の一つであり、現在でもブルーノートを代表する名盤として広く評価されている。しかしジョーンズの場合と同様、本当にコルトレーンが切り開いた道を継承し、その音楽をさらに前進させていると感じられるのは、アルフレッド・ライオン退任後のブルーノート時代に録音された、より後年の、そして比較的知られていない作品群である。

マッコイ・タイナー ザ・リアル・マッコイ

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『エクステンションズ』は1970年に録音されたものの、発売は1973年まで見送られた。当時は、エレクトリック・フュージョンの商業的成功によって、高品質なアコースティック・ジャズが埋もれがちな時代であった。このアルバムは、ジョン・コルトレーンかマイルス・デイヴィスのどちらかと深い関わりを持つミュージシャンだけで構成されたアンサンブルによって録音された。クラシック・カルテットからタイナーとエルヴィン・ジョーンズ、さらにハープにアリス・コルトレーン。そこへ1960年代のマイルス・デイヴィス・クインテットからウェイン・ショーターとロン・カーターが加わり、最後にアルト・サックスのゲイリー・バーツが参加している。バーツは、この録音の直後にマイルス・デイヴィスのバンドへ加入することになる。

冒頭を飾る長編「メッセージ・フロム・ザ・ナイル」は、タイナーがコルトレーンの音楽に宿る精神や本質を受け継ぎながら、新たな世界へ踏み出していることを明確に示している。リズム、モーダルな構造、そして低音で繰り返されるベース・リフには『至上の愛』を思わせる雰囲気が漂っているが、その音楽は決して過去の焼き直しではない。

マッコイ・タイナー エクステンションズ

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同じ年の後半に録音された『アサンテ』は、タイナーにとってブルーノート最後の録音であり、そのコンセプトをさらに発展させた作品である。コルトレーンが目指した方向性を、より一層先へ押し進めている印象を与える。ここでもオープニング曲「マリカ」は『至上の愛』に通じるスピリチュアルな精神性を持ちながら、パーカッションや歌詞を持たないヴォーカルを加えることで、新たな広がりを獲得している。

フロントを務めるのはアルト・サックス奏者アンドリュー・ホワイトである。彼はジョン・コルトレーンの音楽を学術的なレベルで徹底的に研究し、何百もの採譜を出版するとともに、多数の著作も残した興味深い音楽家である。その一方で、ウェザー・リポートやスティーヴィー・ワンダーのエレクトリック・ベース奏者を務めたり、オーボエ奏者としても活動するなど、多彩な経歴を持つ。本作ではアルト・サックスで、コルトレーンに強く触発された圧巻の演奏を披露している。そしてリズム・セクションを支えるのは、ジャズ史上屈指の名コンビであり、ハービー・ハンコックのムワンディシ・バンドの中核でもあったバスター・ウィリアムスとビリー・ハートである。

McCoy Tyner

マッコイ・タイナー アサンテ

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アリス・コルトレーン(ピアノ、ハープ)

アリス・コルトレーンは、「スピリチュアル・ジャズ」と呼ばれる潮流を代表する最も重要なミュージシャンの一人である。彼女は亡き夫ジョン・コルトレーンの音楽的遺産を受け継ぎ、それをさらに発展させる上で極めて大きな役割を果たした。しかし、彼女を偉大な夫の影にいる存在として捉えるなら、それは20世紀音楽史において独自の価値を築いた一人の偉大な芸術家としての重要性を見誤ることになる。

アリス・コルトレーンは、ジョン・コルトレーンの最も重要な作品群を送り出したインパルス・レコードと、彼の死の翌年である1968年に契約した。 最初のアルバム『ア・モナスティック・トリオ』は、コルトレーン晩年のクインテットが目指した方向性を引き継ぐ作品であり、そのグループの残されたメンバーが参加している(ただし一部の曲ではラシード・アリに代わってベン・ライリーがドラムを担当している)。その後1973年までの6枚のアルバムを通して、彼女は作曲家・演奏家として完全に独自の個性を確立していった。弦楽器や複数のパーカッショニストを加えた、より壮大な編成もしばしば用いられている。

アリス・コルトレーン ア・モナスティック・トリオ

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これらの作品は、ジョン・コルトレーンの音楽が持つスピリチュアルな方向性をさらに発展させ、新たな境地へと導いている。インドへの旅や、精神的指導者スワミ・サッチダーナンダとの出会いを通じて得た東洋思想の影響も、彼女の音楽に深く刻み込まれている。まさに「スピリチュアル・ジャズ」という呼称を体現する作品群である。『ジャーニー・イン・サッチダナンダ』はこの時期を代表する最も高く評価されたアルバムの一つであり、一方『ザ・カーネギー・ホール・コンサート』は近年になって発掘された貴重なライヴ録音である。瞑想的な静けさと激しいエネルギーが同時に存在するアリス・コルトレーンの音楽を知るうえで、極めて重要な作品となっている(その極致である28分間の「アフリカ」は、まさに猛烈な迫力だ!)。『至上の愛』とのつながりは、とりわけ『ジャーニー・イン・サッチダナンダ』オープニング曲に明確に感じられる。反復するベース・リフの催眠的な持続、そして音楽全体を包む精神性、そうした要素を受け継ぎながらも、アリス・コルトレーンはその方向性を、これまで誰も足を踏み入れたことのない新たな領域へ押し広げている。

アリス・コルトレーン / ジャーニー・イン・サッチダーナンダ

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ファラオ・サンダース(サックス)

アシュリー・カーンは著書『The House That Trane Built』の中で、コルトレーンが多くの若手サックス奏者をインパルス・レコードに紹介した経緯について記している。その全員が契約を得たわけではなかったが、実際にインパルスから作品を発表した主要な演奏家――ファラオ・サンダース、アーチー・シェップ、マリオン・ブラウン――はいずれも同レーベルに数々の傑作を残した。その中でも、コルトレーンと最も深い関係を築いたのがファラオ・サンダースである。彼は『アセンション』で初めてコルトレーンと共演し(シェップ、ブラウンも参加)、その後1965年から1967年まで続いた晩年のクインテットでは、コルトレーンと並ぶもう一人のサックス奏者として重要な役割を担った。

サンダースのインパルス・レコードからのリリースは、コルトレーンが亡くなった年に始まり、それ以降1974年までの間に、実に実り多い11枚のアルバムがリリースされた。アリス・コルトレーンと同様、サンダースもまた、その音楽が「スピリチュアル・ジャズ」という用語と密接に関連付けられることが多いアーティストの一人である。サンダースの音楽には、他には類を見ない生々しい強烈さと感情の深みが宿っている。テナー・サックスの音色も奏法も完全に独自のものであり、それこそがクインテットでコルトレーンにとって理想的な対照を成す存在となった理由である。そして、その演奏は逆にコルトレーン自身にも影響を与えた可能性がある。サンダースは、それまで誰も聴いたことのない音をサックスから引き出したのである。

彼のインパルス作品は、『至上の愛』に見られるスピリチュアルでモーダルな音楽言語を土台としながら、アリス・コルトレーン同様、その先の未知の領域へと歩みを進めている。アフリカやラテンなど多様な音楽文化の要素を取り込み、複数のドラマーやパーカッショニスト、ときには2人のベーシストまで起用することで、深いグルーヴを生み出している。そして、その演奏には、時として非常に長大な作品全体を貫く圧倒的な精神的エネルギーが満ちている。『ブラック・ユニティ』は37分に及ぶ一曲のみで構成されたアルバムであり、その代表作の一つである。

Pharoah Sanders / Black Unity album cover

ファラオ・サンダース ブラック・ユニティ

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これは、公民権運動後のアメリカに生きる黒人たちの経験に深く根ざした音楽である。『ラヴ・イン・アス・オール』と『エレベーション』は、サンダースがインパルスに残した最後の2作品であり、同時に最高傑作の一角でもある。一方、『テンビ』はやや穏やかな作風で、初めてサンダースを聴く人にとって格好の入口となるだろう。これらのアルバム群は総じて、音楽的に極めて深遠な世界を築き上げている。

Pharoah Sanders - Karma

ファラオ・サンダース カーマ

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Pharoah Sanders

ファラオ・サンダース Elevation

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ジョン・オプスタッドはロンドンを拠点とする作曲家。映画・テレビ、コンテンポラリーダンス、コンサート音楽、アルバム制作など幅広い分野で活躍している。代表作には、Netflixのヒット作『Bodies』や『Black Mirror』、マックス・リヒターと共同作曲したエリザベス・モス主演のスリラー『The Veil』などがある。熱心なレコード収集家でもあり、特にECMの音楽に深い愛着を持っている。