そこから気にしていたらルイス・コールのノワーやテラス・マーティンなど、様々な作品に起用されていることを知り、かと思っていたら2024年のジョシュア・レッドマンの来日ではアルバム『Where Are We』で弾いていたアーロン・パークスの代役として同行していた。どうやら今、重要なポジションにいるんだろうなと思っていたら、ジョシュアの次作『Words Fall Short』に起用され、更にコーニッシュ自身もブルーノートと契約しデビュー作『You’re Exaggerating』を発表した。

Paul Cornish / You're Exaggerating!

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このデビュー作が飛んでもなく素晴らしかった。アコースティックのピアノ・トリオの中にジェリ・アレンやセロニアス・モンク、初期のロバート・グラスパーやクラシック音楽まで様々な要素が混じっているこの作品には全編で新しい感性が鳴っていた。

今年4月にブルーノート東京での来日公演もあるということで、名門ブルーノートが絶賛する新鋭を紹介するために話を聞くことにした。

(取材通訳:丸山京子)

――子どもの頃、教会で演奏を始めたと聞きました。その教会での経験について教えてください。

最初に始めた楽器はドラムなんだ。たしか2歳くらいのときだったかな。自然とその楽器に惹かれたんだよね。それに、毎週教会に通っていたから、いつも音楽を聴く環境にあったし、実際に演奏している人たちを見ることもできた。母は聖歌隊のディレクターをやっていたし、兄もいて、上の兄たちは二人とも演奏していたんだ。それで、僕が5歳になったときに母がピアノを始めさせてくれた。そこからドラムとピアノを同時に学び始めるようになったんだ。

――ダウンビートの記事にあなたがセブンスデー・アドベンチスト(7th Adventist)の教会で育ったとありました。信仰や教会での経験は、音楽にどのような影響を与えましたか?

僕にとってはすべてだよ。人生の目的そのものと言っていい。僕は神に仕えるために生きていると思っているし、音楽を通してその目的のための器でありたいと思っているんだ。

たとえ曲そのもののメッセージが直接的に宗教的なものじゃなかったとしても、演奏するたびにそれが神への奉仕になってほしいと思っている。誰かの心に届いて、何かの形で神へと意識を向けるきっかけになればいいと思っているんだ。

――ところで教会で音楽やる場合、宗派によって曲や演奏スタイルが違ったりするわけですよね?

もちろん。キリスト教の中でも宗派ごとに独自の音楽スタイルがある。僕が育ったのは、さっき話したセブンスデー・アドベンチストの教会で、そこでは比較的伝統的なスタイルが多かった。だから讃美歌集(hymn book)を見ながら歌うことが多くて、典型的な四声のハーモニーで歌うような音楽だったね。

それに、僕が通っていたのはカリブ系のセブンスデー・アドベンチスト教会だったんだ。だから母や、ジャマイカ出身の人たちが子どもの頃から歌っていたコーラス曲なんかも歌っていた。

それで、もう少し大きくなってからは、ミッショナリー・バプティスト(Missionary Baptist)系の教会にも触れるようになった。いわゆる伝統的なバプティスト教会のスタイルで、ラジオで流れているような、よりコンテンポラリーなゴスペル音楽が演奏されていたね。

――その後、高校はヒューストンの名門High School for the Performing and Visual Artsに進みます。その高校での経験を聞かせてください。

大きな転機だったよ。まず、自分と同じように音楽、あるいはそれぞれの芸術に本気で向き合っている同級生たちに囲まれていたことが大きかった。僕と同じくらい、あるいはそれ以上に情熱を持っている人たちばかりだったんだ。それに、周りの仲間たちの演奏レベルがとても高かった。だから自分が目指すべき具体的な基準みたいなものが目の前にあったんだよね。

例えば、ジェイムズ・フランシーズ、ジェレミー・ダットン。それに音楽以外の芸術分野の人たちもすごく優秀で、今ではブロードウェイで活動していたり、MET(メトロポリタン歌劇場)で演奏していたりする人もいる。とにかく、とても刺激的な時間だった。

それから、この学校にはたくさんの有名な卒業生がいるから、校内の壁にその名前が並んでいるのを見ることができる。そういうのを見るとプレッシャーもあるけど、同時にすごく刺激にもなる。自分もベストな自分になりたいって思わせてくれるんだ。

――高校生の頃には、どんな音楽をよく聴いたり研究したりしていましたか?

たぶん中心はモダン・ジャズだったと思う。というのも、僕の両親はかなり厳しくて、子どもの頃はポピュラー音楽をあまり聴くことができなかったんだ。でもジャズに出会ってからは、完全に夢中になった。それで、自分はジャズに関して“追いつこうとしている”感じだったと思う。今でもそう感じるくらいで、まだ聴いていないクラシックな名盤もたくさんあると思うんだ。だから、とにかくできるだけ多くのジャズのレコードを聴こうとしていた。特に友達が教えてくれたアルバムをどんどん聴いていったね。

それと同時に、サンダーキャットやジョニ・ミッチェルみたいなアーティストにも触れていたし、ヒップホップもたくさん聴いた。ちょうどケンドリック・ラマーが大きく注目され始めた頃だったんだ。とにかくジャンルに関係なく、できるだけ多くの音楽を吸収しようとしていたよ。

――大学ではまずUSC(南カリフォルニア大学)に進学されていますよね。その頃、印象に残っている先生や授業などはありますか?

まず、偉大なピアニストのパトリース・ラッシェンに1学期だけだけど学ぶ機会があった。それからアラン・パスクァ、そしてイエロージャケッツのラッセル・フェランテも素晴らしいピアニストだね。

それから、特に大きな影響を受けた先生としてレオン・ンドゥグ・チャンクラーがいる。彼は本当に素晴らしいドラマーで、マイケル・ジャクソンからセロニアス・モンク、マイルス・デイヴィス、ハービー・ハンコックまで、本当に数えきれないほど多くのミュージシャンと演奏してきた人なんだ。彼から学んだのは、とにかく自分の技術や音楽を徹底的に研究する姿勢だった。自分のクラフトをどれだけ深く追求するか、その基準を示してくれた人だね。残念ながら彼は亡くなってしまったけど、USCでは本当に多くの人を支えていた先生だった。彼と時間を過ごせたことにとても感謝しているよ。

――アラン・パスクァからはどんなことを教わりましたか?

 もちろん。あ、その前にもうひとり、僕にとってとても大きな存在だった先生を挙げさせてほしい。ヴィンス・メンドーサ(Vince Mendoza)だね。素晴らしい作曲家でアレンジャーだよ。

それで、アラン・パスクァだけど、本当に素晴らしい先生だった。僕がUSCで学んだ2年目のときの先生だね。彼はボストンの伝統、特にジャッキー・バイアード(Jaki Byard)につながる系譜のピアニストなんだけど、一方でトニー・ウィリアムス(Tony Williams)とツアーをしたり、ロサンゼルスのスタジオ・シーンでもたくさんのレコーディングをしてきた人なんだ。だから彼からは、ピアノに対する幅広い視点を学ぶことができたと思う。それは僕にとってちょうど理想的だったんだ。というのも、自分は将来的に幅広い活動ができるキャリアを築きたいと思っていたから。でも同時に、伝統的なジャズの精神をしっかり理解していること、そして楽器をきちんとコントロールできる技術を持つこと、その両方を大切にする姿勢を彼から学んだと思う。

――その後、UCLAのハービー・ハンコック・インスティテュート(旧モンク・インスティテュート)に進まれましたよね。そのときの経験についても教えてください。

特に大きかったのはウォルター・スミス三世(Walter Smith III)かな。彼はヒューストン出身で、僕にとって昔から憧れていた存在なんだ。でも同時に、彼自身もこのプログラムの出身者で、その後演奏家としても教育者としても素晴らしいキャリアを築いている。

それに年齢もそこまで離れていないから、僕たちにとっては一番共感しやすい存在だった。彼は本当に素晴らしいアドバイスをくれたし、すごく励ましてくれた。あれはずっと忘れないと思う。

――ハービー・ハンコックから学んだことで、特に印象に残っていることはありますか?

覚えている言葉があるよ。彼はこう言ったんだ。「自信というのは、自分が何かを提供できると知っていることだ(Confidence is knowing you have something to offer)」って。

この言葉は本当に心に残っている。というのも、僕はけっこう自分に自信が持てなかったり、不安になったりすることが多いタイプなんだ。自分がどんな人間なのかとか、そういうことに対して迷ったりね。でも彼がそう言ってくれたとき、「ああ、それならできるかもしれない」って思えたんだ。自分には何か提供できるものがある、そう思えばいいんだって。たとえそれが、自分が思う「人が求めているもの」と違っていたとしても、あるいは他の人たちが提示しているものと違っていたとしても、自分には何か差し出せるものがある。そう信じてそこに立てばいいんだってね。すごくシンプルな言葉だけど、僕にとってはとても大きな意味を持つ言葉だったよ。

――大学生や大学院生の頃、特に研究したピアニストはいますか?

特に大きかったのはジェリ・アレン(Geri Allen)だね。彼女の音楽に出会ったのは、大学1年生の頃に参加したバンフ・クリエイティブ・ミュージック・レジデンシー(Banff Creative Music Residency)というキャンプだった。それ以来、彼女のスタイルや作曲にずっと夢中なんだ。彼女は、創造性においてまったく恐れがない人だったと思う。そして、いわゆるアヴァンギャルドなシーン、よりクリエイティブな音楽の文脈でも非常に尊敬されていたし、同時にすごく伝統的なジャズの場でも高く評価されていた。それは彼女が一緒に演奏してきたミュージシャンを見ればよくわかる。ベティ・カーター、オーネット・コールマン、ロン・カーター、トニー・ウィリアムス、そしてオリヴァー・レイクまで、本当に幅広い。つまり、どんな文脈でも尊敬されていたんだ。でも同時に、彼女は常に「彼女自身」であり続けた。彼女のスタイルは、これまで自分が学んできたあらゆるものを取り込んでいるんだけど、それでもとてもユニークなんだ。そして、どんな状況でもそのスタイルがちゃんと成立する。そういうレベルに到達しているミュージシャンは本当に少ないと思う。ジャンルやスタイルを横断して一貫した自分の声を持っている、そういう存在なんだ。僕もそういうミュージシャンを目指しているよ。

――特に繰り返し聴いたり、分析したりした作品はありますか?

最初に大きな衝撃を受けたのは『Home Grown』だね。これは彼女のソロ・ピアノのアルバムで、僕が最初に聴いたジェリ・アレンの作品でもある。今でも大好きなアルバムだよ。というのも、あのアルバムは本当に他に似ているものがないんだ。特にそれ以前の音楽とは全然違う。それから、ロン・カーターとトニー・ウィリアムスと一緒に演奏しているトリオのアルバム『Twenty One』。本当に素晴らしいアルバムだ。

――ジェリ・アレンの次に挙げるとしたら、特に研究したピアニストは誰でしょうか?

セロニアス・モンクだね。彼のことは今でも研究し続けていると思う。正直、モンクを完全に理解することなんてできないと思うんだ。彼の演奏にはあまりにも多くの謎があるし、そこにはすごく深い知恵もある。今でも、何度も立ち返っている存在だね。

――モンクの演奏の中で、特に影響を受けた作品はありますか?

『Solo Monk』かな。あのアルバムでは、彼の頭の中で何が起きているのかがすごくよく聴こえる気がするんだ。もちろんバンドで演奏しているときにもそれはあるんだけど、グループの中だと少し見えにくくなることもある。モンクのグループって、ある意味ではバンド全体が彼の楽器みたいなものなんだ。彼は全体の中で必要な場所に自分の音を置いている感じがある。でもソロで弾いているときは、彼の音楽が頭の中でどう組み立てられているのかが、よりはっきりと聴こえる。それに、楽器との関係性もすごくよくわかる。

だからこそ、あれは彼自身の最もパーソナルな表現のひとつだと思うんだ。『Solo Monk』はまさにそういう作品を僕たちに示してくれているクラシックなアルバムだと思う。

――もっとコンテンポラリーなジャズ・ピアニストも研究してきたと思いますが、どうですか?

まず大きかったのはロバート・グラスパー。特に高校生の頃はかなり影響を受けた。彼もヒューストン出身のピアニストだしね。それからジェイソン・モラン(Jason Moran)もそう。この二人は僕にとって大きな存在で、最近ではメンターのような形で関わってくれているんだ。

他にも、テイラー・アイグスティ(Taylor Eigsti)、ジェラルド・クレイトン(Gerald Clayton)、それからサリヴァン・フォートナー(Sullivan Fortner)も大きな影響を受けたピアニストだね。最近ではクリス・デイヴィス(Kris Davis)にもすごく影響を受けている。彼女のサウンドやアプローチは本当に好きなんだ。ブラッド・メルドー(Brad Mehldau)やアーロン・パークス(Aaron Parks)からももちろん影響を受けているよ。

――僕はあなたのアルバムを聴いたとき、ロバート・グラスパーがエレクトリックな方向に行く前の作品をかなり研究しているのではないかと感じました。

そうだね、間違いなく影響は受けているよ。あの初期のアルバムは本当にたくさん聴いて育ったんだ。ちょうどリリースされた頃にiTunesで買って、何度も繰り返し聴いていたのを覚えている。その中でも僕にとって特別なのは『Double Booked』。あのアルバムは、まさに彼が次の段階へ移行し始める時期の作品だけど、同時に彼のトリオが最も充実していた時期のひとつでもあると思う。つまり、トリオとしての完成度がすごく高い状態と、そこから実験的な方向へ進んでいく兆しが同時に存在している。あの頃の音楽の中でも、本当に素晴らしい作品のひとつだと思うよ。特にグループとしての演奏という意味でね。あの2つのバンド編成は本当に影響力が大きかったし、僕自身もかなり影響を受けた。

だから僕にとって『Double Booked』は、彼の音楽の中でも最も高いレベルを示している作品のひとつだと思っている。

――先ほどジェイソン・モランの名前も挙がりました。彼もヒューストン出身で、あなたの先輩にあたる存在ですよね。

ジェイソンはジェリ・アレンと同じように「恐れない」アーティストだと思う。それは演奏にも表れているし、彼がこれまで取り組んできた芸術的なプロジェクトにも現れている。たとえばBandwagonでの活動や、音楽の中で音声録音を使うような試み、それから大きなプロジェクトもたくさんあるよね。モンクに関するプロジェクトや、ファッツ・ウォーラーをテーマにしたプロジェクトもある。それに、スケーターと一緒に演奏するプロジェクトもあったよね。スケートボードの動きと即興演奏を組み合わせるようなものだった。

そういう大胆な試みに取り組んでいるところは本当に刺激的だと思う。

同時に彼は、この音楽の歴史に対してとても深い愛情と敬意を持っている。つまり、音楽を前に進めようとしている一方で、その本質を掘り下げることにも同じくらい真剣に取り組んでいるんだ。そういう姿を見ると、僕たちもこの音楽の中で活動するアーティストとして、どんなレベルを目指すべきなのかが見えてくる気がする。だから彼は、音楽の本質に向き合う姿勢や、自分自身に正直であることという意味で、いつも参考にしている存在だね。

――先ほど名前を挙げていたサリヴァン・フォートナーですが、彼のどんなところが素晴らしいと思いますか?

まず、人として本当に素晴らしいんだ。とても気さくで、地に足がついている。初めて会ったのは2015年頃だったと思う。ロイ・ハーグローヴ(Roy Hargrove)のバンドでロサンゼルスに来ていたときで、それまで僕は彼のことを知らなかった。でも演奏を聴いた瞬間、本当に衝撃を受けたんだ。ピアノからあんな音が出てくるなんて信じられないと思った。個人的には彼は歴史上でも最も偉大なピアニストのひとりだと思っているよ。僕たちは幸運にも、彼の才能をリアルタイムで目撃できる時代に生きている。つまり、彼が演奏してキャリアを築いていく姿を、同時代の人間として見ることができる。それは本当に特別なことだと思う。だから彼については、いくらでも語れるよ。音楽を聴けばその素晴らしさは明らかだけど、僕にとってはその圧倒的な才能と、人としての親しみやすさ、その両方が魅力なんだ。

――これまであまり名前を挙げていないけれど、実は強い影響を受けているピアニストはいますか?

 意外かもしれないけど、ジョン・ルイスかな。モダン・ジャズ・カルテットのピアニストだね。特に高校生の頃、彼のスタイルにすごく惹かれたんだ。とても品があって、すごく洗練されている。「シンプル」とは少し違って、余計なものがないって感じなんだ。彼はとても多作な作曲家でもあったから、ピアノや音楽に対して、作曲家の視点からアプローチしているように感じるんだ。いつも「正しい音」がそこにある。僕はそのスタイルにすごく惹かれて、自分の演奏にもそういう感覚を取り入れたいと思った。今でも目指している部分だね。でも彼は、今のジャズの世界ではあまり語られることが多くない気がする。だからこそ、もっと評価されるべきピアニストだと思うよ。

――アルバムを聴いたとき、ほんの少しですがフリー・ジャズの影響も感じたのですが、どうですか?

そうだね、それもずっと自分の中にあるものだと思う。全部つながっている感覚なんだ。さっき話したように、僕はバンフ・クリエイティブ・ミュージック・レジデンシーに参加したことがあるんだけど、そのときの芸術監督はヴィジェイ・アイヤーだった。3週間のプログラムで、毎週いろんなミュージシャンが来ていて、フリー・ジャズ寄りの人もいれば、もっと伝統的なジャズの人もいた。その経験を通して、本当に幅広い音楽に触れることができたし、それらが実はすべてつながっているということにも気づかされた。僕にとっては、人生そのものがひとつの形だけでできているわけじゃない。人間もとても複雑な存在だよね。芸術も同じだと思う。抽象画や印象派の絵画、表現主義の作品もあれば、ただ美しい果物の静物画を見ることもある。でも、それぞれに意味や役割がある。フリー寄りの音楽や、より抽象的な音楽にも強く惹かれる理由は、そこにあると思う。そういう音楽は、言葉では完全には表現できないものを表現しようとしているからね。

それに、アヴァンギャルド音楽をやっている人たちは、実はものすごく研究熱心なミュージシャンでもあることが多い。チャーリー・パーカーやバド・パウエルのことも深く理解している人たちばかりだ。そういうアーティストたちと一緒に過ごすことで、自分ももっと音楽を掘り下げたいと思うようになったし、フリーな音楽と伝統的な音楽のつながりも見えてくるようになったんだ。

――では、ここからはアルバムについても聞かせてください。『You’re Exaggerating』(「大げさだ」「話を盛っている」)というタイトルはとてもユニークですよね。どんな意図でつけたんですか?

今の時代って、「認識」と「現実」の間の溝がどんどん広がっている気がするんだ。特にソーシャル・メディアが社会の中でこれだけ大きな存在になっているとね。現実や真実が、どこか歪められてしまっているような感覚がある。それに、テクノロジーも今、人類史の中でもかなり高いレベルまで発展している。だから2026年というこの時代に、改めて問いかけたいと思ったんだ。「今の僕たちにとって、真実とは何なのか」「現実とは何なのか」ってね。

――なるほど。

人は簡単に偽物になれるし、物事も簡単にそう見せることができる。でも、人間として本当の意味で生きるとは何なのか。『You’re Exaggerating』というタイトルは、そういう問いを投げかけているんだ。周りにあるさまざまなものが、「あなたはこういう人間だ」「こうあるべきだ」と語りかけてくる。でもそれらを一度取り払って、鏡を見てみたときに、本当は何がそこにあるのか。そういうことを考えるきっかけになればいいと思っている。

――アルバムを聴いたとき、トリオの3人がとてもバランスよく演奏していて、それぞれが主役のように聴こえる瞬間があると感じました。そういう音楽的なアプローチも、このタイトルと関係していますか?

それも関係していると思う。というのも、このタイトルは、いわゆるジャズのデビュー・アルバムにありがちな考え方に対しても向けられている部分があるんだ。デビュー作ってどうしても「自分のヴィルトゥオーゾ(達人)的な演奏を見せて観客を驚かせたい」という発想になりがちだと思う。特に若いミュージシャンだとね。

――たしかに。

でも僕にとっては、それはあまり興味のあることじゃなかった。だから、自分自身への挑戦でもあったんだ。人を驚かせるための音楽を書こうとするんじゃなくて、できるだけ正直で、純粋な音楽を書くこと。自分にとって本当に誠実なものを作ることを大事にした。

それからトリオのあり方についても同じことが言える。ピアノ・トリオというと、どうしてもピアニストが主役で、ベースとドラムは伴奏に回るという形になりがちだよね。でも僕は「コラボレーションとしてのトリオ」にしたかった。三人が対等に関わる表現にしたかったんだ。その方がもっと遠くまで行けると思うから。

――このアルバムに収録されている曲は、かなり前に書いたものも含まれていると資料にありました。そうした曲をまとめたアルバムでも、この作品全体に通底するコンセプトのようなものはあったんですか?

これらの曲は、時間をかけて少しずつ形になっていったものなんだ。LAで自分名義のライブをやり始めた頃に、よく演奏していた曲たちでもある。特にハービー・ハンコック・インスティテュートにいた頃は、自分たちのグループのためにたくさん曲を書く機会があった。それで、プロデューサーのヘンリー・ソロモンと一緒に「どの曲がアルバムとしてまとまりを感じるか」を話し合ったときに、この9曲に落ち着いたんだ。

僕にとっては、これらの曲はすべて自分の人生を映しているようなものなんだよね。さっき話した「正直さ」や「純粋な表現」というテーマにもつながるけど、どの曲もとても個人的なものなんだ。だからこそ、初めてのアルバムとして一番「自分らしい」と感じられる曲たちを選んだ。それがこの作品になった理由だね。

――印象的だったのが「Slow Song」と「5AM」です。ゆったりだけど、バラードとは言えない不思議な雰囲気のある曲ですよね。

「5AM」は、その名の通り朝5時に書いた曲なんだ。それから僕はクラシック音楽にも大きく影響を受けている。バッハやブラームス、ストラヴィンスキー、ラヴェルなど、クラシックが好きな人なら誰でも名前を挙げるような作曲家たちだね。この2曲には、そういう音楽の影響がかなり出ていると思う。対位法的な動きがあって、いくつかの声部が同時に動いているようなイメージがある。そういう発想がこの曲のアプローチにつながっていると思う。

「Slow Song」を演奏するときも、頭の中ではオーケストラの響きをイメージしていることが多い。ピアノという楽器は、ある意味でオーケストラのようなものだからね。そういう感覚が、この曲のインスピレーションになっているんだ。

――「Dinosaur Song」はアコースティックなジャズの編成ですが、ほんの少しヒップホップ的なビートの感じも混ざっていると思いました。

あれは、昔付き合っていた人から着想を得た曲なんだ。彼女に小さな従兄弟がいて、その子が彼女のことを好きだったんだよね。まだ3歳か4歳くらいの、すごく可愛い感じの“恋”なんだけど。その子が彼女のために「ダイナソー・ソング」っていう曲を書いたんだ。僕たちが付き合っていた頃だったから、「じゃあ僕もダイナソー・ソングを書かなきゃいけないな」って思ってね(笑)。だからこの曲には、そういう遊び心のある“可愛い恋”みたいなエネルギーがある。僕なりの形でそれを表現してみたんだ。

音楽的には、いろんな影響が混ざっていると思う。モダン・ジャズの要素もあるし、ゴスペル的なコード感もある。それから変拍子も少し入っている。でも最終的には、とにかく楽しい曲になればいいなと思って作ったんだ。

――最後にもう一度、アルバムのタイトルに戻らせてください。あなたが信仰しているセブンスデー・アドベンチストについて調べてみると、比較的控えめで慎ましい生き方を重んじる宗派だそうですね。そうした信仰の背景は『You’re Exaggerating』というタイトルと関係していますか?

そうだね、確かに関係している部分はあると思う。いい質問だね。これを言われたのは初めてだよ。僕にとって一番の自信や自由は、神との関係、そしてキリストとの関係から来ているんだ。キリストは僕の罪のために命を捧げてくれた存在で、そのことによって僕は人を愛する自由を与えられていると感じている。だから僕は、他人を感心させようとしたり、誰か別の人間になろうとしたりする必要はない。神は「そのままの僕」を愛してくれているわけだからね。そのことが、世界のどんなものよりも大きな自由と安心を与えてくれている。

だからこのアルバムも、そういう感覚から生まれている部分があるんだ。この世界にあるものは、すべて少しずつ崩れていくものでもある。だから本当の意味で希望を託せるものは、そんなに多くない。でも僕にとって、神に置く希望は永遠のものなんだ。だから『You’re Exaggerating』というタイトルも、「何が本物で、何がそう見えているだけなのか」という問いにつながっている。現実と見かけの違いについて考える、という意味も込められているんだ。

      

■来日公演情報

日時:2026年4月3日(金)、4日(土)

4月3日:[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
4月4日:[1st]Open3:30pm Start4:30pm [2nd]Open6:30pm Start7:30pm

会場:ブルーノート東京
メンバー:ポール・コーニッシュ(p)、ジョシュア・クランブリー(b)、ジョナサン・ピンソン(ds)

詳細:こちら

     

■ポール・コーニッシュ プロフィール

テキサス州ヒューストン生まれ。ジェイソン・モランやロバート・グラスパーなど多くのレジェンド・アーティストを輩出した名門高校であるHigh School for the Performing and Visual Artsを卒業し、UCLAのハービー・ハンコック・インスティテュートで全額奨学金を得て修士号を取得。全額奨学金を得たのは彼を含めて世界で僅か7人と極めて稀有な例となっている。2023年のハービー・ハンコック・インターナショナル・ジャズ・ピアノ・コンペティションで3位を獲得し、2024年グラミー賞にノミネートされたテラス・マーティンとジェイムズ・フォンテレロイのEP『Nova』では作曲も担当。現在はロサンゼルスを拠点に活動しており、ルイス・コールとジェネヴィーヴ・アルターディのユニットKNOWERや、カニエ・ウェスト、ハイム、スノー・アレグラ、ジョシュア・レッドマン、マーク・ジュリアナのバンドで活躍するなどジャンルを超えて話題を集めている。ジョシュア・レッドマンの最新作『Words Fall Short』にも全曲ピアノで参加し、話題を集めた。2025年8月、名門ブルーノートから待望のデビュー・アルバム『You’re Exaggerating!』をリリース。

    

■リリース情報

Paul Cornish / You're Exaggerating!

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ポール・コーニッシュ アルバム『You’re Exaggerating!』
2025年8月22日リリース 輸入盤/配信

収録曲:
1. DBソング DB Song
2. キンザイエティ Quienxiety
3. スター・イズ・ボーン Star Is Born
4. スロー・ソング Slow Song
5. 5AM 5AM
6. ダイナソー・ソング Dinosaur Song
7. パリンドローム Palindrome
8. クイーン・ジェリ Queen Geri
9. モダス・オペランディ Modus Operandi

<パーソネル>
ポール・コーニッシュ(p)、ジョシュア・クランブリー(b, out on #4)、ジョナサン・ピンソン(ds, out on #4)、ジェフ・パーカー(g on #7)

プロデュース:ヘンリー・ソロモン

★ロサンゼルス、UCLAハーブ・アルパート・スクール・オブ・ミュージックにて録音