「リトル・ビッグと、今回のアルバムのようなアコースティック・フォーマットを並行して演奏することは私にとってごく自然なんだ。編成は異なるけれど、“楽曲を表現することを重んじる”ところはまったく同じ。いわゆる即興のソロがメインではなくて、重要なのは楽曲であり、そこから生まれる世界観が、この2つのフォーマットの要だ。両方で演奏できるのはとても刺激的なことだよ」
アーロン・パークス By All Means
Available to purchase from our US store.こう語るのは、ピアニストのアーロン・パークス。エレクトロニカ、ヒップホップ、サイケデリア等を取り込んだ力作『リトル・ビッグ III』のリリースから約1年、新たに登場した『バイ・オール・ミーンズ』は一転、1950~60年代のブルーノート・レーベルから発表された作品を彷彿とさせるジャケット・デザインも印象的なアコースティック・ジャズ・アルバムだ。2013年から続くベン・ストリート(b)、ビリー・ハート(ds)とのトリオに、最晩年のウォレス・ルーニーやチック・コリアと共演したベン・ソロモン(ts)を迎えて制作されたこのニュー・アルバムについて、来日中のアーロンに尋ねた。
「このアルバムにはブルーノート・レーベルの名盤へのオマージュという気持ちもあったし、伝統と自分たちとのつながりを考える良い機会になった。リード・マイルスがデザイナーをしていた頃のブルーノート盤を本当に好きで聴いていたからね。ジャケットは決してそのデザインの真似をしているわけではないけれど、一緒に作業をしたデザイナーも大喜びだった。
録音自体は5時間のセッションを2回分収録して、ミキシングは3回した。労力をかけた作品という印象もあるね。ベン(・ストリート)やビリーとはずっと共演を続けてきて、このレコーディングの直前にもヴィレッジ・ヴァンガードで1週間の公演予定があった。私が“ここに管楽器を入れてみたいな”と思ったのは、その数か月前のことだ。私はコンピング(伴奏)が大好きだし、単に自分がバンドをリードしていくだけではなく、ピアノのサウンドがバンドの一部になっているように響くのも好きなんだ。そこでベン・ソロモンに声をかけて、公演したところ、結果的にとても良いケミストリーを感じることができた。すぐさまヴァンガードのライヴを収録したかったけれど、さすがに急すぎるということで、熱気がさめないうちにスタジオを押さえて、そこで録音したのが『バイ・オール・ミーンズ』なんだ。タイトルには”イエス!”という強い肯定の気持ちがある」
共同プロデュースはベン・ストリートが担当。アーロンが最も慕うひとりでもある。

「今の自分の音楽的な考え方、思考の基礎を作ってくれたのは、彼だと思っている。ミュージシャンとしても人間としても自分にとって本当に重要な存在だ。今回のスタジオでもミキシングのことも含めて、彼がいてくれたことは本当に大きかった。ビリー・ハートを私に紹介してくれたのも彼だし、ベン・ソロモンを私に教えてくれたのも彼だ。“興味深い若手がいる”というのでチェックしてみたらとても良くて、2022年に初めて共演したことが、今回のアルバムにつながっている。ベン・ソロモンは、リリカルな演奏家だよ。私には、最近のテナー・サックス界はダークな音が流行っているように感じられる。彼はそうではなくて、とてもブライトで、突き抜けるような音色の持ち主だ。あと、インプロヴァイザーとして忍耐強い。ただスケールを音で埋めていくのではなくて、アイデアが豊富で、それをいかに進化させるかということを考えて実践している。なかなかいないタイプのサックス・プレイヤーだと思うね」
気鋭のベン・ソロモンが吹く背後では、今年11月に85歳を迎えたビリー・ハートが軽やかなドラムを聴かせる。活動初期にはウェス・モンゴメリーやジミー・スミスのバンドで演奏した超リヴィング・レジェンドである彼もまた、このアンサンブルの一員なのだ。
「ビリーの演奏は驚きをもたらしてくれる。自然発生的でありながら、リサーチされているというか、考え抜かれた部分もある。ミュージシャンとしてとてつもなく卓越しているし、無限大の好奇心の持ち主だ。電話で話すと、“君の曲の、あの部分について教えてくれよ”と言われるけど、“いや、僕の方があなたから学びたいんです”という感じだ(笑)。自分たちの演奏を支えている部分もあるけれど、例えば”Parks Lope”の冒頭のところの切り込む感じとかは本当にすごい。あのビリーの演奏は、聴きなおしても、何か頭が爆発するような感覚をもたらしてくれる」
楽曲はアーロンの自作で占められており、妻や子に捧げたキャッチーなトラックもある。
「妻に捧げた”For María José”はパンデミック中に書いた曲なんだ。当時、彼女は妊娠していて、家族だけで外に出ずに生活していた。そうした状況の中でこの曲が生まれたのは、ある種、運に味方されたのかなという気もするね。自分としては彼女の美しさを曲にしようと、そのままベストを尽くした感じだ。”Little River”は子守歌として書いた。ちょっとリズムの強い感じだけど、子どもを寝かしつけるのはとてもエネルギーがいることなんだ(笑)。子どもには穏やかな時だけじゃない、ワイルドな時もある。このパワフルな子どもが将来どうなっていくのかと考えながらの曲作りは楽しいものだったよ」
『バイ・オール・ミーンズ』はアーロンにとって『インヴィジブル・シネマ』、『リトル・ビッグ III』に続く3枚目のブルーノート作品となるが、締めくくりに、お気に入りのブルーノート名盤をいくつか挙げてもらった。
「多すぎて答えきれないけれど、マッコイ・タイナーの『ザ・リアル・マッコイ』、スタンリー・タレンタインのアルバムでホレス・パーランのピアノも素晴らしい『アップ・アット・ミントンズ』、ソニー・ロリンズの『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』、フレディ・ハバードの『ハブトーンズ』、ドン・チェリーの『ホエア・イズ・ブルックリン』が浮かんでくる。あと、ウェイン・ショーターの『スピーク・ノー・イーヴル』は、この『バイ・オール・ミーンズ』とある種、会話をしているようなアルバムだと感じている。決して速くはない、ミディアム・テンポならスローの間で、一貫した、ゆっくりした流れをつくっているところは共通していると思うよ」
■リリース情報
アーロン・パークス By All Means
Available to purchase from our US store.アーロン・パークス AL『By All Means』
2025年11月7日(金)リリース 輸入盤/配信
収録曲:
01. A Way
02. Parks Lope
03. For Maria Jose
04. Dense Phantasy
05. Anywhere Together
06. Little River
07. Raincoat
パーソネル:
アーロン・パークス (p)、ベン・ソロモン (ts)、ベン・ストリート (b)、ビリー・ハート (ds)
プロデュース:アーロン・パークス&ベン・ストリート
